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21:穏やかな時間

 ハリエットのそばなら大丈夫だと、3人はグリップフックからの要求をどうするべきか話し合う。あえてグリップフックの案に乗って……いつ渡すか明言しなければいいのではないか、とハリーが言い、ハーマイオニーはそんなの卑怯よ、と顔をしかめた。

「でもそうするしかない。ちゃんとすべてが終わった後に返せば嘘ではないのだし……」
 思わず声の小さくなるハリーが何気なくハリエットの手に手を置き……握り返されたことに驚いて振り向く。ぼんやりした様子のハリエットの右目がじっと触れた手に向けられていて、のろのろとその目がハリーへと向けられる。

「ハリエット!目を覚ましたんだね!!ここが分かる?声、出せる?」
 よかった!、と思わず声を上げるハリーにハリエットはまだぼんやりしながら小さく唇を動かした。うるさ、と思わず出た言葉にハリーはうるさくとも何でもいい、とぎゅっとハリエットを抱きしめる。されるがままのハリエットはまだどこかぼんやりしていて、何かを探す様に顔を巡らせた。

「今……いつ?」
 擦れた小さな声で問いかけるハリエットにハーマイオニーはカレンダーを見て答える。もう3月が終わる。あぁ、間に合った、とつぶやくハリエットは心配かけてごめん、とハリーを抱きしめ返した。ふと、自分の左腕がうまく動かないことと、顔にまかれた包帯に気が付き、何だろうか、という風に右手で包帯に触れた。

「たぶん、ドビーを助けたペナルティーじゃないかなって……。左目痛い?」
「あぁ……そっか。お守りなかったから……。命がけで助けに来たドビーの命と引き換えならそれでいい。痛くはないよ。マッドアイに魔法の眼買ってもらおうかな」
 どうなっているか、フラーは詳しく教えてくれなかったが、ハリーはそっと包帯に触れて尋ねる。ハリエットは感覚がないのか、それとも他の怪我がひどすぎたために麻痺しているのか、痛くないと首を振る。どこかおどけて言う姿に心配したんだから!と双子水入らずで再会を喜ぶ二人を見ていたハーマイオニーが我慢できないという風に飛び出し、ハリエットに縋り付く。

 わぁっとハリーも巻き添えで一緒くたになって寝台に3人が沈み込む。慌てたロンが誰を起こせばいいのか、という風に手をさまよわせ……ハリエットの額に刻まれたハリーと同じ傷に唇を真一文字にした。かつてのヘンリーの言葉が頭によぎり、ハリエットにごめんと唐突に言う。
 へっ?と驚くハリエットにハーマイオニーが唐突過ぎるわよ、と笑ってハリーも思わず笑う。でもまたいつタイミングがくるかわからないから、とロンはむっとして、ハリエットに頭を下げた。

「今までヘンリーに言われたこととか、その、4学年の時とか。いっぱい……謝りたいことが多くて。勝手に嫉妬したり……いろいろと」
 思えば1年生の時、勉強せず違う事をしていたヘンリーに突っかかり、3年生の時も……ハリーと箒で飛び回る姿に嫉妬して、睨んでしまった。4学年ではハリーに嫉妬して、クラムと仲のいいヘンリーに嫉妬して、ハーマイオニーとの仲を疑った。5学年でハリエットとヘンリーが同一人物だと知って……そして父アーサーが襲われたことを教えてくれなかったと怒り、6学年では毒のことを教えてくれなかったと一方的に怒った。

 そう続けるロンにハリエットはえっと?といまいちピンときていないのか、首をかしげている。ハリーもまた君そんなこと思っていたのかい?と目をしばたたかせ……ハーマイオニーとロンがやっぱり同じだと笑う。顔を見合わせるハリーとハリエットはロンの嫉妬が分からないが、まぁそう並べてみるとよく突っかかっていた?とハリエットは考えて、許すよ、と返す。

「ロンは本当に不思議だよね。だって、両親もいて、兄弟もいて……あったかい家があるのにさ」
「あぁ、そっか。僕がロンにイラつくときってロンがそれで僕に突っかかってくる時だ。努力すれば何とかなるようなことに嫉妬して当たってくるけど、ロンが持っていて、僕が持っていないものいっぱいあるのにって」

 本当にね、と口をそろえる双子にロンはしょんぼりと小さくなっていく。ハリーは特に気にしていなかったが、ハリエットの言葉に腑に落ちたと手を叩き、僕は気にしてなかったけど、と言おうとしてハリエットを見て、僕もそういう風に知らずにため込んでいたのか、と一人頷く。やがてハリエットがまだ本調子でないからか、うとうとし始め、ハリーがそっとシーツをかけなおしてあげる。

「ロンはそういうのいろいろため込まない方がいいよ……。あと、うだうだ考えすぎて……指輪買った後も……最高のタイミングに……ったくせに……酔いつぶれて……迎えに来た」
 つぶやくようなハリエットの言葉にロンがなんだって!?と驚き、ハーマイオニーが慌ててそれを抑える。すっかり眠った様子のハリエットをみて、ハリーがロンを見た。

「今のって明らかに未来のことのような……。君まさか、酔いつぶれて勢いでプ」
「ぜええええったいない!ない!そんなかっこ悪いこと!!」
「何の話よ」

 嘘だろ?と問うハリーにロンが慌てて声を荒げ、ハーマイオニーはうまくハリエットの言葉が聞き取れなかったのか、何の話?と首をかしげている。なんでもない!と声を上げるロンに……フラーがやってきて何を騒いでいるのかと言って3人を部屋から追い立てる。


 フラーにハリエットが目を覚ましたことを伝えると、よかったとこれ以上ないほどに嬉しそうに微笑む。ヴィーラーには初めて会った時に不思議な気持ちになったものの、ロンのような気持ちを抱いたことのないハリーだが、その笑顔におもわずどきりとしてしまう。

 ハリエットが救出されたことは先にミュリエルのところに行くオリバンダーが騎士団に伝えることとなり、フラーがハリエットの面倒を見る。ハリエットも移動することも考えられたが、ハリエットが首を振った。
 フラーに頼んで羊皮紙を受け取ったハリエットは何かを書き記し……ずっとそばにいたシークに渡す。

「これを、彼らに……シーク、ありがとう」
 お願い、と頼むハリエットにシークは一声鳴いて飛び立っていく。その翌朝、ハリエットはハリーを呼んだ。








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