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20:ドラッグストア
よく朝、フラーの準備してくれた朝食をとっていると突然窓を叩く音が部屋に響きわたった。がんがんと窓を叩くのはフクロウとは違って聞こえ、ハリー達もまた警戒して杖を握る。ビルが杖をふるい、窓を開けると滑るように入ってきたのは二羽の梟だった。
「ヘドウィグ!それにシーク!」
思わず声を上げるハリーにがちゃがちゃと音を立てて荷物を置き……白い梟がハリーに向かってくる。久しぶりの再会に喜んでいると、荷物を置いたシークはハリエットのいる部屋の前に行くとくちばしに咥えた杖をぶつける。
「ハリエットの杖とハリエットの梟なんだ。入れてあげてもらってもいいかな」
この先に主人がいるんだ、とごつごつぶつけるシークに全員の肩の力が抜け、フラーが扉を開けるとまっすぐにハリエットのそばへと飛んでいく。
それにしてもだれが何を、と持ってきた荷物を見れば大量の魔法薬だ。あぁ、うん、わかっていた、と自動筆記の筆ペンを使った字で書かれた説明にハリーとロンは顔を見合わせて笑うしかない。なんだこりゃ、と驚くディーンに一体何だと検品するビルに……フラーがあぁこれで薬が足りました、という。
「差出人については言えないですけど、たぶん……」
「ハリエットの恋人からだと思います」
誰から来たのか知っているのかい?と尋ねるビルにハリーは口を濁し、ハーマイオニーがきっぱりという。あの子に恋人が、と聞いたフラーは胸元をぎゅっと握りしめ、本当に最低な連中と死喰い人を罵った。
「それにしても……ずいぶんとまぁ……」
様々な種類の薬にビルはすごいな、とつぶやき……何か考える。ハリエットの杖があるという事は、ハリエットが無事脱出できたことを知ることができて……これだけの量の魔法薬の使い方を熟知していて。ハリーがどこかうんざりしているような相手。いやまさかね、とポンと浮かんだ男の顔を振り払い、ありがたく使わせてもらおうと、ハーマイオニーやロンの怪我に薬を使う。ハリーとひとしきり再会を喜んだヘドウィグはフラーに続いてハリエットの部屋に行き……バタバタという音ともにシークをけり出した。
本当に、なんでヘドウィグはシークに対してあたりが強いのだろう、と呆れるハリーだが、二羽はそろって大空に飛んでいく。あっという間のことに肩をすくませ……その夕方再び二羽が荷物を持ってやってきた。
「ちょっと、アリエットのー恋人。いくらなんでも多すぎでーす」
ここはドラッグストアの納品所じゃありません、とため息を吐くフラーに3人は顔を見合わせて笑う。今度はもう行かないのか、ヘドウィグは久しぶりにハリーのそばで眠り、シークもまたハリエットのそばで眠る。過保護すぎるくらいの量の薬は大半が残り、フラーはあとは目を覚ますだけだという。
腕の怪我は酷かったため、ハリエットの恋人の説明に従い骨を消してから骨生え薬を飲ませた。だからもう大丈夫、とそういってハリーだけを通す。顔の傷は呪いのようなもので傷ついたために消すことはできなかった、と残念がるフラーの言葉にハリエットの額を見れば、自分と同じような稲妻型の傷がある。
頬の古傷は違うものだろうが、それでも痛々しい傷に遅くなってごめん、とハリーは無残に切られ、短くなったせいでハリーと同じようにくるくると巻いてしまったハリエットの髪を撫でた。ふと、ハリエットの左目のところに包帯がまかれていて、ハリーはフラーを振り向いた。逃げるとき、特に彼女の左目は……ぱっちりと開いていたわけではないが、閉じていたわけでもない。
「ここに来た時から、左目は大きな怪我してました」
もうその左目は二度と開きません、と痛ましいものを見るフラーにハリーは驚き……ペナルティという言葉が頭に浮かぶ。ハリエットは……当然ながら何も持っていなかった。その状態でドビーを助けた……だからこそ、ペナルティをまともにその身に受けたのではないか。
左肩もただのナイフでなく、闇の遺物の一つだったらしく、深々と刺さることになった左腕も動くかわからないとフラーはさみし気に言って席を外した。
「いくら何でもこんなペナルティ……」
これまで助けた3人についてはハリエットの大切なものがこれほどの衝撃を代わりに受けたという事になる。ハリエットは言っていた。ピンキーリングとイヤリングがそうなったと。ではと思ってハリエットのなにもついていない腕を見る。きっと、あの金のブレスレットだ、と妙な確信をもち……治療中の手を握れずに自分の手をぎゅっと握りしめた。
もうこれ以上は……やめて、と握った手を額に当て、ハリーはうずくまるように、祈るように、そう念じる。そしてこれまでこれほどまでにひどい衝撃をそれが破壊されることで受けていたアクセサリーに込められた想いの強さに、二人の絆の深さを知ることとなった。
ハリエットの意識が戻ったのは、それから二日後のことだった。
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