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19: ハリエットの杖の秘密
 
 あぁなんてひどい、と英語で呟いた後、フランス語で何か口早にきっと闇の勢力への憎しみを込めた言葉を吐き出すフラーはビルが下したハリエットの治療を行う。男は入るなと、ビルを締め出すフラーは心配でついてきたハリーをも締め出す。

「ドビーが死ぬ運命だった」
 うなだれるハリーの言葉にロンは便箋を思い浮かべて顔をしかめる。ドビーがあの時死ぬはずだったのをハリエットは助けた。

「僕を助けにきたせいで死ぬドビーを……彼女は守ったんだ」
 あそこに行くこととなったのはきっと自分たちの考え通りだろう。そしてその結果……ドビーは凶刃に倒れることとなった。自分のせいで……自分のせいでドビーの命が奪われたのであれば、今度は助けたいと願うのは当然のことに思われる。

 じっと耳を傾けていたであろうグリップフックは屋敷しもべ妖精の身代わりになったというのか、とハリー達に問いかける。今まで魔法使いらは屋敷しもべ妖精を虫けらのように扱い、命もまた軽いものだったのに、その命を身を削ってまで助けたという。
 一度部屋から出てきたフラーがハーマイオニーを診て、グリップフックに骨生え薬を飲んでもらおうようビルに瓶を渡した。

「あの子の治療には、薬がたりません」
 削がれ、更にはナイフに貫かれた腕の止血はしたが、それ以上はというフラーにビルがどうにか調達するよ、と言って今は休んだ方がいいとハリー達を促す。ハリーと同じ顔の少女の傷ついた様子にショックを受けていたディーンも寝床に行き……ルーナが大丈夫だよ、とハリーを慰める。
 ふと、ハリーは今確認しなければならないと思いつき……ビルに願い出る。フラーはハリエットの治療に行っている。

 少しの時間なら、と先にグリップフックに会うことにしたハリーは戻ってきたハーマイオニートとロンと共に小鬼に会いに行く。レストレンジ家の金庫に入りたいと、そう話しかける。彼女が剣のことで取り乱してくれたことで……そこに偽の剣とカップがあることに気が付いた。
 どうにかしてヴォルデモートを倒したいのだと、そう説得すると、グリップフックはハリーをまじまじと見つめる。同じ顔の少女が屋敷しもべ妖精を守ったという話も考え……。協力してもらえるよう頼みこむハリーを見て、考えましょうとグリップフックは体を休めるために、骨生え薬の効果もあって横になる。

 とにかく今は彼の返事を待とう、と3人はその場を離れ、次にオリバンダーのもとへと向かう。折れた柊の杖は直せないといわれ、ハリーはわかっていたからこそ、そうですか、と懐の袋にしまった。奪ってきた杖を調べてもらい……杖の忠誠について、杖にまつわる複雑な世界を聞く。マルフォイの杖は奪ったハリーのものになっているという。

「ユニコーンの鬣は本来闇の魔術に対して相性が悪い。これを受け取った際に付き添いで来ていたナルシッサは他言無用と、そういっていたのを覚えている」
 本来はというオリバンダーの言葉にハリーは少し驚き、ハリエットも知っていたのかなと考える。ふと、そうだと思いだしてハリエットの杖はと問う。

「ハリエット?あぁ、ミセス・マクゴナガルが連れてきた、5歳の女の子が……。彼女の杖はクルミにスナリーガスターの心臓の琴線。勢いよく力強い呪文に耐えられる」
 ハリーの目をじっと見つめ、あの子がというオリバンダーにロンがあれ?と声を上げる。どうかしたの?と問いかけるハーマイオニーにいや、ちょっとという。

「昔、その……ほら、杖はチャーリーのおさがりだって言っただろう?チャーリーのも最初は中古で……。それでその時にオリバンダーの杖はユニコーンの鬣か、ドラゴンの琴線か、不死鳥の羽根だって聞いて」
 スナリーガスターなんて聞いたことがない、とロンは首をかしげる。オリバンダーはその通りと頷き……再びハリーをじっと見つめた。

「昔、スナリーガスターがドラゴンの一種と考えられた時期があった。今は別種であることが確認されたが、今でも知識が古いものがドラゴンの琴線に紛れ込ませることがあり……あの時も取り寄せた際紛れ込んだものだった。先ほどの3種で作成する杖こそが最高の杖になると、わしが思っている。だからこそ、紛れ込んだそれは破棄しようと考えたが……手に取った瞬間、これは杖になりたがっていると、そう感じた」

 闇の帝王と君をつなぐ兄弟杖についても不思議な縁だが、とオリバンダーはハリエットの杖を作った時を思い出す様に遠くを見る。昔は混合されていたが今は別種であるという事が判明したスナリーガスターという魔法生物。

「時に杖からアプローチがあることはある。だが、これは今までにない強さで自分を杖にと、そう伝えてきた。どの木材がこの材料に合うのか。杖を作ってきてあんなことは初めてだった。こちらが用意した木材をことごとくこの芯は破壊し、拒否し続けた。本当にあらゆるものを拒んだ。最後に残った……クルミが受け入れられ、非常に気難しい杖となって仕上がった」

 思えばあれはハリーが生まれた年……ハリエットが生まれ戻ってきた年に作った杖だった。オリバンダーはそういう。まさにハリエットを選ぶためにやってきた杖は今ハリエットの手元にある。杖が魔法使いを選ぶという話に、ハーマイオニーは少し震えるように、片腕をさすった。ハリエットを助けるためにやってきた不思議な杖の芯。

 そんなものがあるという事で、ハーマイオニーは秘宝を疑わなくなっていた。ただ一人の、運命が連れてきた転生者に選ばれるためにオリバンダーのところにやってきたというところに、怖いようなそんな畏怖にも似た思いが沸き上がる。

 その後、杖秘宝の一つ、杖についてを尋ねると彼は知っているという。闇の帝王に拷問されて喋ってしまったことも、全部話し……グレゴロビッチがその話をしていたことも青ざめた顔で言う。彼の一家は殺されてしまった。子供までもが……。ハリーの意識がホグズミードを写すのを何とか無視して、ハリーはニワトコの杖についてを聞く。死の秘宝については知らないというオリバンダーにハリーはお礼を言って……3人で別の部屋へと移動する。

「グレゴロビッチからグリンデルバルドが盗んだ。おそらくは……所有者がいなかったんだ。杖職人だったグレゴロビッチは杖を使うために手に入れたんじゃない。杖を調べるために手に入れたんだ」
 これまでの情報と、わかっている現在のヴォルデモートの位置に……ハリーは目を閉じる。

「それじゃあ……グリンデルバルドを倒したのは……」
「ダンブルドアだ。彼は死んではいないけれども、心の底からダンブルドアに屈したんだ。そして……」
「魔法を封じて幽閉された。魔法使いとしての彼は……」
 久しぶりに見るスネイプが出迎えて……ヴォルデモートをどこかに案内する。そう、城外の……あの場所へ。久しぶりのスネイプは薄暗い逆光のせいで顔色などがわからないが、痩せたような気もする。

「それじゃあダンブルドアと一緒に埋葬された杖を手に入れれば!」
「残念ながらもう遅いんだ。今……ヴォルデモートがそれを手に入れる」
 ダンブルドアの課した課題の一つがこれで解決だ、というロンにハリーは首を振り……ダンブルドアの墓を暴く光景を見る。奴は杖を手に入れた。果たして戦っていない相手から杖は所有者を移動するのかという疑問はこの際置いておくしかない。

「なんだって!?」
 驚くロンにハリーはダンブルドアの生前の頼みを間違えたのではないか、と考え……ハリエットのいる部屋に目を向けた。彼女は何か知っていないか。

「7つ目の花」
 ヴォルデモートが杖を手に入れて高笑いするのを無視したくて……ハリーはつぶやく。

「ハリエットの回数って何回なんだろう。もう、これ以上増やしてほしくないのに」
 これ以上は怖くてしかたがない。

「ダンブルドアに話した時が4回。シリウスで5回目……マッドアイが6回目。そしてドビーが7回目。私数占いで……ヘンリーの近くに座ることが多いから、その時にヘンリーの周りに“9”がよくあるのを見ていたわ。だから……それが彼女の回数なんじゃないかしら」
 二人と違って数占いを専攻していたハーマイオニーとヘンリー。ハリエットはきっと占い学は意図的に避けたのだろうというのはわかる。だが、ハーマイオニーの言う通りもしも……何らかの理由でハリエットの周りに同じ数があるのであれば。
 あと2回。ロンのつぶやきにハリーは深く息を吐いた。何が起きてしまうのか……それが今は怖い。
 







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