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16:ナイフと運命と
魔法省なんかに持って行って手柄を取られたくはない、ともめる人さらいは……グレイバックらはまだ口論している。再会したディーンとあの時声だけ聞こえていた……ハリーの金庫に初めて案内してくれた小鬼……グリップフックと共に縛られ……あの方に直接届けようとそういって無理矢理立たされる。連れてこられたのは知らない大きな屋敷で……現れた白い孔雀を見た人さらいの一人がルシウスの趣味は悪い、とそう呟くのが聞こえた。
マルフォイの邸、と緊張するハリーは……ちりちりと額越しに感じるヴォルデモートの感情などとは違う何かを感じ取り、つばを飲み込んだ。間違いない。ここに、ずっと捕らわれている片割れが……。
入ってすぐにいたマルフォイ家の3人に……ドラコとハリーの目が一瞬交差する。蒼白な顔のドラコは……ハリーを見て確証は持てないと断言するのを拒否し、剣を見たベラトリックスが発狂したかのように声を荒げ、報酬を求めるグレイバックらに魔法を当てる。
「なら、待つ間あの女を嬲らせろ」
ポッターを捕まえてきた俺に何も渡さない気か、とグレイバックが声を荒げると噛んだり食ったりしなければ好きにするがいいさと言って奥の部屋を示す。地下に押し込められる前にグレイバックがそこに入るのを見て……ハリーは震えが止まらない。
地下牢にいたのはルーナと弱り切った様子のオリバンダーで、ハリー達は再会を喜ぶも聞こえるハーマイオニーへの拷問と、それとは別の小さな悲鳴。誰か、どうにか、と無意識に胸元の袋を握り締め……ハッとなったハリーは何かないかと袋に手を入れた。
きらりと輝く両面鏡。ここに時折ダンブルドアの幻影を見た気がしたが……もしかして誰かがこの鏡を手にした可能性があるのではないか、と割れている鏡をのぞき込み……そこの写るハリーではない人の顔に向かってハリーはマルフォイの邸にいることと、助けて、と声を上げた。
ばちんという音と主に表れたのは……かつてここに仕えていたドビーだ。まさか君が来てくれるなんて、と驚くハリーは連れていかれたグリップフックを除いた3人を先にと逃がすよう求める。
「3人を貝殻の家に連れて言ったらすぐ戻ってきて。そして……先にハリエットを助けて」
ドビーはすぐ戻るといって3人を抱えて消え……物音に気が付いたルシウスがピーターに調べるよう命じる。
二人で抑えつけ……一瞬良心の呵責に捕らわれたピーターはヴォルデモートの作った腕によって殺されてしまった。ぞっとするハリーだが、うかうかしている場合ではない。
階段を駆け上がり、そっと機会をうかがい……ぐったりとするハーマイオニーを見たロンが飛び出してベラトリックスにとびかかる。激しい交戦の末、人質にされたハーマイオニーを助けるべく杖を手放し……焦るハリーだが、そこにシャンデリアが落下してきて、しっかりとハリエットを抱えたドビーがそのわきから現れる。
ハリエットに意識があるかわからないが、ドビーに掴まっているような様子からまだ息はある、とハリーはドラコから杖をもぎ取り幾つかの杖を手にして、グリップフックを掴む。ハーマイオニーを抱えたロンと合流し、ドビーが姿くらましをする。その瞬間、ベラトリックスの投げたナイフが見え、ドビーに掴まったハリエットが身じろいだ。
ハリーの姿くらましがドビーの手によって引っ張られ、どこかに導かれ……。どさりとどこかに倒れこんだ。もみくちゃな状態からよくばらけなかった、とほっとするハリーだが、ハリー=ポッター!しっかりしてください!という悲鳴に驚いて目を開ける。
だが、“ハリー=ポッター”である自分は何ともない。ドビーが縋りつくのは深々と左肩にナイフが突き刺さったハリエットだ。体に巻き付けただけのシーツがじわじわと赤く染まっていく。
「あぁ……ドビー……。けがは……ない?」
よかった、とつぶやくハリエットはそのまま意識を失う。急いでハリエットを抱き上げるハリーだが、そのやせ細った肩に流れる血にまぎれ、7つ目の花がじゅわりと肌に刻まれる瞬間を見た。
同時に、ぼわりと炎とともに現れた封筒。家から飛び出してきたフラーが急いでハリエットの体をタオルで覆い、ビルが抱き上げる。泣きじゃくるドビーはダンブルドアのご命令です、としゃくりあげ……ぱちんと姿を消した。
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