--------------------------------------------
13:ダンブルドア
ロンがいなくなり、二人っきりで旅を……逃走生活を続ける。ふと、街を見たハリーとハーマイオニーは今がクリスマスだという事に気が付き、とぼとぼとその場を去った。ハーマイオニーは何も言わないが、きっとロンを思っているだろう。ハリーは……ジニーが今どうしているかという事と、今もなお捕まっているハリエットの安否が心配でたまらない。
ハーマイオニーが買ってきてくれたもので久々に満足な食事をとった二人はどこに行くべきかと頭を突き合わせ、次の目的地を定めることにした。グリンデルバルトの印と言われた、ルーナの父が首から下げていた三角と丸を組み合わせたような印の謎と、ハリーの故郷であるゴドリック谷に住むバチルダ女史が話に上がり、今わかるゴドリック谷に行こうと結論付けた。
二人で一緒にポリジュース薬を飲んでマグルに成りすましてゴドリック谷に姿くらましをし……初めて来た故郷にハリーは不思議な気分であたりを見回す。ここで自分とハリエットが生まれ……そしてハリエットが引き取られて、両親が殺され……自分が生き残った。
マグルのカップルとして歩くと墓地を確認し、再びあの印を見つけた。ダンブルドアがハーマイオニーに本を残したのはなぜか。なぜこうもこの印が出てくるのか。
それが謎であったが、そこに両親の墓を見つけ、ハリーは思わず立ち止まる。ただいま、と口に出さずに墓石をなぞり、杖を振る。クリスマスリースをそっと墓石に添えるとたまらなくなってハリーはその場を離れた。
広場に置かれた石碑に近づくとそれ姿を変えてくしゃくしゃ髪の男と髪の長い女性、そして腕に抱えられた赤子に姿を変える。
「ハリエットはやっぱりいないんだ」
まさか自分の像があるとは知らなかったハリーだが、3人の家族の像を見てぽつりとつぶやく。ハリエットは今どうしているのだろう。この雪はとても寒くて冷たい。どこにいるかわからないけれども、彼女はちゃんと暖かいところに居るのだろうか。
その場を離れ、更に進んでいくと壊れた廃墟が見え、思わずハリーの足が鈍る。なぜ壊れたままなのかは門に触れたことで現れた掲示板に書かれた説明により保存されていることを知り……同時に周りに抱えた自分の安否を気遣う様々な人の落書きがハリーの心を癒す。掲示板への落書きにどこか怒った風のハーマイオニーだが、これほどまでにもハリーを心配する言葉に小さく微笑んだ。
そこに一人の老婆がやってきて……ハリーを手招く。一体何だ、と顔を見わせるハリーとハーマイオニーだが、もしかしてこの老婆が、とバチルダ=バグショットかと問いかければ老婆は頷くようなしぐさを見せ、さらに二人を手招く。
もしかしたら彼女が剣を持っているかもしれない。その望みだけを胸に意を決してついて行き……バチルダに化けていたナギニに襲われ、あと一歩のところでヴォルデモートの手からすり抜け、二人は再び逃走することに成功した。だが、その代償として、とっさに放ったハーマイオニーの魔法が暴発し、ハリーの杖を折ってしまう。落ち込み、涙ながらに謝るハーマイオニーにハリーは首を振り、そうだ、と首に下げた袋を手に取った。
「いっ!」
手を入れたハリーの手に何か鋭いものが触れ、いったい何だろうかと取り出せば、入れていたシリウスの両面鏡が割れてしまったらしく、その破片が手を傷つけていた。割れ物であったから仕方がない、とため息をつき目的の杖を取り出した。
「ハリエットに会えたら渡そうって思って」
少し頑丈そうな杖はハリーの者より少し長い。持ち手にはミサンガが絡みついていて、ハリーはぎゅっとそれを握り締めた。
「何かいい杖が見つかるまでハリエットのを借りるよ」
少し振って問題ないことを確認したハリーはハリエットの杖をじっと見つめた。この杖の芯は何を使っているのだろうか、といつもと感覚の違うことに興味を持つも調べるすべなどない。
リータ=スキータの書いたダンブルドアの真実という本の一部の……妹のことについてを読もうとし、そこにヴォルデモート前の闇の魔法使いグリンデルバルトの名を見つけた。ハーマイオニーは呆れていたが、ハリーとしては魔法史については授業への興味がなかったことからあまり覚えてはいない。それでも読み進めていき……ダンブルドアとグリンデルバルトが強い絆でつながっていることにハリーは驚き、何も知らなかったことに、何も聞いていなかったことに失望し、ダンブルドアへの怒りを募らせる。
かつてダンブルドアは後の宿敵となったグリンデルバルトと出会い、2か月の時を過ごし……“より大きな善のために”とグリンデルバルトのスローガンとなった言葉をダンブルドアが提唱したという。その後は妹の死をきっかけにグリンデルバルトは立ち去り、アルバスとその弟、アバーフォースの間に亀裂が入り、大げんかを行った。
ダンブルドアはきっと変わったのだと、そうハーマイオニーが言うもハリーの中の怒りは収まらない。本当にスクイブであった妹を隠していたのだろうか。もしそうならば……。
世間から隠す……ハリエットも一度そうやって隠されていたではないか。もしかしたら他に方法があったのではないか。かつての妹と重ねてそれで……。でもそれにマクゴナガルもまた加わっているというのが納得できない。
「ハリー、ダンブルドアは変わったのよ。妹さんの死をきっかけか、あるいは何か他のことがきっかけで」
ハーマイオニーができるだけ穏やかに言うも、ハリーの心は落ち着かない。ダンブルドアは自分を信じろといった、納得できなくともとにかくと。ふと、ハリーを落ち着かせようとしてきたハーマイオニーが待ってと何か考え始める。
「ハリエットがダンブルドアに“未来を話した”のよね。今後について調整してもらうようにって。ハリエットは……それだけダンブルドアを信用していたのじゃないかしら。彼女ができないことをダンブルドアならば死後もできると」
こんな証明方法ずるいとはおもうのだけれども、とハーマイオニーはハリーを見つめる。ハーマイオニーが何を言いたいのか、ハリーもわかり、むっとした顔になり少し一人で考えたいとテントの出入り口に座る。ハーマイオニーもそっとしておこうと思ったのか、そのまま二人はいつものように交代で見張ることにして休む。
ハリーだってわかっている。ハリエットがダンブルドアを信じしていることだって……自分はただ、教えてもらえなかったことが悲しく、失望していただけで……。
あぁ忘れもしない5学年前の夏休み。ハリエットは言っていた。いつでも渦中にいないと満足しないのかと。自分も……秘密はもちろんある。けれども、うっかり話してしまったりするから……そんなに多くはないかもしれない。苦手な動物は誰にも言っていないけれども。
ダンブルドアは……後悔していたのではないか。だから自分の命さえも勝利の為にと捧げた……そういう事ではないか。
「ハリエット、君はどうして僕が今失望し、不信を抱いている人を……信じられたんだい?」
何が真実で、何を見たのか。ハリーはわからない、と首を振りじっと雪の降り始めた空を見る。ダンブルドアの真実はなんなのか。本当に本に書いてある通りで……。でもダンブルドアはとてもやさしくて、暖かな人で。うつむくハリーはハリエットの杖を見つめる。これほどまでに答えを知りたいと、そう思うこともそうないだろう。
|