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11:決裂
アンブリッジのいるであろう魔法省への潜入を決行した3人は、伴侶が魔法省勤めだったことや、そのほかの理由からダンブルドアからの連絡が行き届かなかったマグル生まれの人々が裁判に掛けられている場面に遭遇することとなった。
ムーディが落とした魔法の眼が、アンブリッジの部屋ののぞき窓に細工されているのを見たハリーは本人に返さないと、とそれを手に取る。今頃三人はどこで何をしているのか。シリウスは今ちゃんと食事をとっているのか。心配事は尽きない。
ふと、アンブリッジは今のハリエットの状況を知っているのだろうか、と疑問が頭をもたげて裁判所に行ってしまったハーマイオニーを助けるためにもそこへと向かう。
アンブリッジが自分の家系の物と勘違いしているスリザリンのロケットを手に入れ、マグル生まれの人々を逃がした3人は何とか逃げのび……ブラック家の邸についた瞬間、ハーマイオニーの姿くらましによってどこかへ移動する。
とびかかったヤックスリーと共に姿くらましをしてしまったというハーマイオニーが邸の前で振り払ってしまったために、もう守りの力はなくなってしまったとロンのばらけた足にハナハッカエキスをかけた。
一気に食事と休む場所を失った3人は、とにかくロンの容態を落ち着かせるためにテントを張り、守りの呪文をかけて中へと入っていった。
ロケットは目の見えないところに置くのが不安で、ハリーが首にかけると今後について話し合いを始める。食事はマグルのお金をあまり持っていないことと、街に買い物に行けば人狩りに会う事からなかなか満足な量を得ることができない。やがて空腹と怪我に耐えかねたロンが文句を言うようになり、ハーマイオニーがそれに反発する。
ハリーは時折食べられるものでもテントで眠ることにも、ぐっと我慢していた。今この時間もハリエットはどんな扱いを受けているのか、それを思うとどんな逆境も耐えられる気がして。
それなのに、とロンの文句にいら立ちがつのる。こうしてベッドがあるというのに何が不満なのか。満足に料理が食べられないからと言ってもできる限りハーマイオニーも自分もなんとかしようとしているというのに。
マグル生まれの人があんな風に押し込められ縛られている中、5学年のあの時の様にぼろぼろになったハリエットはとても痩せていた。体中傷だらけで……きっと床に転がされていたのかもしれない。いや、眠らせてくれたかも怪しい。酷く衰弱しているという彼女が食事を与えられていたかなんて少し考えればわかることで。
きっと今ハリエットはあの時逃がしてしまった怒りもその身に受けているはずだ。本当に未来の自分だとしても、今は大事な片割れであり、そしてなにより華奢な体の少女だ。今の自分と同じに考えるのはばかげている。
ハーマイオニーもそれをわかっているからか、そのことについては一切触れない。ただロンだけが自分が一番不幸だといわんばかりの口調で文句を言う。
ギスギスとした状況で幾日か過ごしたそんなある日。口論するハーマイオニーとロンに静かに、というと外から聞こえてきた声に息を潜ませる。聞こえてきたのは小鬼たちとルームメイトのディーン=トーマス。そしてトンクスの父テッドの声だった。魚を焼きながらお互いに状況を話し合う会話にじっと耳を澄ませると、校長室に盗みに入ろうとした生徒がいるという話を聞く。
「聞いた話では、こちらの銀行に努めているビル=ウィーズリーの妹だとか。3人で盗みに入り、帰る途中にスネイプに捕まって罰則を受けたと」
小鬼の言葉に3人の体に緊張が走る。だが、その後もじっと耳を澄ませるハリー達だったが、得られたのは盗もうとした3人にスネイプが罰則を与えたという事と、剣は贋作であったのをスネイプは知らずに銀行に送って預けてきたということ、こうして逃げながら機会をうかがう人がいるという事だった。
伸び耳を回収したハリーだったが、そうだとハーマイオニーがもってきたブラック校長の額を思い出した。それを使えば校長室のやり取りを聞くことができるかもしれないと。
現れたブラック校長ことフィニアス=ナイジェラスに答えてもらえるようお願いをすると、ブラック校長はすぐに表れ……ハーマイオニーが目隠しをつける。文句を言うブラック校長だったが、剣を盗もうとした3人の罰則は何かを訪ねた。
ブラック校長が言うにはハグリッドと共に禁じられた森に行くようにという罰則だと聞いて、ほっとするハリーはちらりとハーマイオニーに目配せをする。やはりスネイプはこちら側なのではないか。あのスネイプが剣を盗みに入った3人のグリフィンドール生を退学やもっと厳しい罰則ではなく、よりによってダンブルドア派のハグリッドに預けたというのだから。
マクゴナガルでは規則に厳しい彼女がそれを捻じ曲げないとも限らない。スプラウトでも難しいかもしれない。だがハグリッドであれば……セストラルへの餌やりの手伝いとか、そういったものにするだろう。
そう考えると贋作だというのも彼は知っていたのではないだろうか。あるいは、彼がそれを用意した可能性もありうる。もともと闇の陣営に対していい印象を持っていないと聞いたことから、彼らはわざと言わずに、嘲笑っただろう。それも計算のうちであれば。
ハーマイオニーはどこかほっとしていて、ハリーも禁じられた森への罰則で済んでよかった、と息を吐いた。カロー兄弟とやらに引き渡されていたら……そうおもうとジニーのことが心配になると同時に、いや彼女なら大丈夫だ、と彼女の無事を信じる。
それと同時に、剣がバジリスクの毒を吸収したために分霊箱を破壊できるとわかって、どこに隠したかとハリーとハーマイオニーは額を突き合わせた。探し物が一つ減ったのに一つ増えた。だが、破壊するすべを、見つけることができたのは大きな成果だ。
一方でそんな二人と異なる反応を見せたのはロンだった。
「探し物が一つ増えただけじゃないか。君の知らないものリストにでも書き加えておけばいい」
ひどく怒った様子のロンにハリーとハーマイオニーは面食らい、どうしたんだよと問う。間違いなく前進した。今はロンの怪我が治るのを待って、それから本格的に……。
「酷い怪我を負った挙句毎日空腹。尻を冷やして交代で番をして……。数週間もあれば終わるとおもったのに!!」
とんだ見当違いだ、といいはなつロンにハリーの頬は引きつる。それを横目に見たハーマイオニーは蚊の鳴くような小さな声でロンを呼ぶが聞こえていないのか、無視しているのか反応はない。
「君は何に志願したのかわかっていると思っていた。僕は事前に言ったはずだ。ダンブルドアから託された旅について、先は見えていないって」
心底失望した声にハーマイオニーはおろおろとロンとハリーを見比べる。どこまでロンは楽観視していたのだろう。まさか僕が未来を見ているとでも思ったのかい?と聞けば無言がそれに答える。ハリエットから未来を聞いているとでも思ったのだろうか。それならばロンは、ハリエットのペナルティを理解していない。何1つ理解していない。
「大体、禁じられた森への罰則でよかっただって!?正気かい!?」
話を変えるように怒り出すロンにハリーは完全に血の気が失せるのを感じて、得体のしれないものを見るようにロンを見た。その表情がよほど不快だったのか、ロンは更に怒ったように声を張り上げる。
「君は、僕の片割れが今どうしているのかすっかり忘れたみたいだね」
怒りを通り越して心が無になるハリーの言葉にどうせとっくに逃げたんだろう、とロンは目をそらした。ハーマイオニーまでもが何を言っているのか理解できないという表情でロンを見て、恐る恐るハリーを見る。
「僕が、僕が奴の夢を見るのを何度か伝えたよね。あの時、皆に心配かけたくなかったから言わなかったけれども、何度かハリエットを見た。両手両足が赤黒いような変な色になって、時にあちこちから血を流して真っ赤に染まっていたことも、腹いせに何度もハリエットの眼を光で焼いている奴のことも!!逃げているだって!?両手両足も使えない、目も満足に見えない……そんな彼女がどうやって逃げるっていうんだ!!」
ハリーの言葉にハーマイオニーは青ざめ、もともと言い争いの初めから流していた涙がその量を増やす。ロンはそれ以上言えずに言葉を探す様にし……自業自得じゃないか、とぼそりとつぶやいた。
「ロン!!」
悲鳴のようなハーマイオニーの声にロンはもううんざりなんだと声を荒げる。無意識に杖を抜いたハリーを見て、ハーマイオニーは二人の間にプロテゴの盾を作りだす。にらみ合うハリーとロンにハーマイオニーはお願いだからやめてと震える声を絞り出すしかできない。
「ロケットを置いて行けよ。さっさとあったかい家に帰ればいい!!君には家族がいるんだから、帰ればいいだろ!!」
声を荒げるハリーに言われなくともそうする、とロケットを乱暴に置いてハーマイオニーにどうするかと尋ねようとして……ハリエットのもう一つの姿であるヘンリーを思い出し、さっさとテントから出て、姿くらましをして消えてしまった。
泣きじゃくるハーマイオニーはよろよろとテントの出口に向かうも途中で座り込み、ハリエット、とここにいない親友の置かれた状況に嗚咽を漏らす。
大きく息を吐くハリーは心底疲れた、という風にため息をついて僕が見張るから寝ていて、とテントの出入り口に座る。守りの魔法を唱えているからここから姿くらましをしたロンはもう戻らない。
これも君は経験済みなのかな、と雨の降りしきる空を見上げた。目元から流れるのは雨なのか、それとも別の物か。わからないハリーはロンの言葉に怒りを煮えたぎらせる。
彼女が未来を変えなければ……ムーディという戦士は失われていたというのに、それを寄りによって……。
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