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7:信じるか否か

 レギュラス=ブラックがかつてスリザリンのロケットを手に入れたことを知ったハリー達はクリーチャーと和解し……マンダンガスを捕まえてほしいと頼んだ。
 待っているとやってきたのはルーピンで、今の状況を3人に伝え……トンクスが身ごもったことと、彼女を実家に置いてきたという。

「ダンブルドアから言われていることを私も手伝いたい」
 一緒に行こうというルーピンだが、ハリーは首を振り、トンクスのそばにいるべきだと声を上げた。

「僕は、僕は愛情についてきちんと理解できていないかもしれない。僕だって好きな人に別れを告げた。でもそれは彼女を守るためだ!あなたみたいに臆病になったからじゃない。臆病者!子供から逃げるなんて……」
「君は何もわかっていない!人狼がどんな扱いを受けているのか。こんな私が子を持つべきではなかったんだ。それに逃げているわけではない。私は、トンクスの記憶を消したわけではない!」
 逃げるな、と怒るハリーにルーピンは今まで見せたことのない怒りの表情で言い返す。ルーピンは知らないだろう。自分の片割れと、その相手のことを。

「ハリエットは、逃げたわけじゃない。もしあいつがハリエットのことを覚えていたら?今この未来はなかったかもしれないんだ!彼女はそれを避けるために、記憶を消した。あなたは自分のことばかりじゃないか!少なくとも、皆の未来の為にあいつを削り取ったハリエットとあなたは全く違う!!」
 激しい口論の末、弾き飛ばされたハリーを置いてルーピンは立ち去っていく。困った風なハーマイオニーとロンに大きく息を吐き……クリーチャーの帰ってきた音に驚いて3人はマンダンガスにロケットのことを問いかけた。


 アンブリッジにわたってしまったスリザリンのロケットのため、3人は魔法省に潜り込む算段を立て……持って帰ってきた日刊予言者新聞をのぞき込む。
「スネイプがホグワーツの校長……。純血、半純血は必ずホグワーツに通う事。マグル出身は禁止……」
「ダンブルドア校長が言っていた備えはこのことだったのね」
 忌々し気に記事を読むロンにハーマイオニーは6学年の末のことを思い出す。マグル出身の魔法使いは魔法省への登録を義務付けられ、出頭を要請させられ……。

 だが大多数のマグル出身の子供たちは各国の魔法学校に避難しているため国内にはいない。マグル出身で秘密を守れるとされた大人も対象として避難済みだ。マグル学を教えていたバーベッジ教授は今はフランスにいる。彼女が国外に出て……すぐに彼女の家は襲撃されたという事から本当に間一髪の出来事であった。

「ハリエットが言っていた。ダンブルドアはこの運命の大きな川だから触れるわけには行かないって。きっと、その代わりにダンブルドアが動かしたものについてはハリエットの制限から逃れられるんだろう」
 ハリエットがいなかったらばと想像するとはるかに大きなうねりが生じている。そう指摘するハリーにハーマイオニーは頷き……。待って、この写真、と動くスネイプの写真を示す。

「なんでこいつをじろじろ見なきゃいけないんだ」
 むっとするロンに袖を見て、とハーマイオニーはなおも促す。新聞に載っている写真は他と違って自由には動かない。同じ動作を繰り返すだけ。ハーマイオニーに指摘されてロンとハリーはじっと長い袖に隠れた腕を見る。ちらりと一瞬覗いたのは白黒の写真でもわかるブレスレットのようなもの。

「ハリエットの髪紐だ!」
「え?ヘンリーが着けていた青いやつか?」
 セクタムセンプラのあと彼女の腕にはなかった青いそれ。そういえばいつもは閉めているはずの袖のボタンが外れているのも妙だ。

「なぜスネイプが彼女の髪紐を持っているかわからないけれども、袖のボタン……左はちゃんとしているからわざと外していたんだわ。この髪紐が、ブレスレットが一瞬見えるように」
 それで、とハーマイオニーは唇に手を当て、何かを考え始める。ハリーとしてもスネイプの意図がもしかしたらと思うものがあって、ハーマイオニーをまった。


「ちょっと突拍子もないことを言ってもいいかしら。ずっと気になっていたの。マンダンガスがどうやって人数分のポリジュース薬を準備したのか。あんなに嫌がっていたマンダンガスが本当に思いついたのかしら」
 そもそもの話、と言い出すハーマイオニーにロンも確かに、と首をかしげる。

「本当に突拍子もない話よ。ハリエットがスネイプと別れたのは5学年。まだスネイプがダンブルドアを殺す計画を考える前か、それぐらいのときよ。ダンブルドアを殺すことをハリエットは知っていた。ただ、ダンブルドアは酷く弱っていて……そうよね、ハリー。ダンブルドアの“頼む”は助けてほしいの“頼む”なのかしら。それとも、今後を“頼む”という事かしら」

 ハーマイオニーの推測に憎しみしかなかったハリーはその可能性があることに初めて気が付き、目をしばたたかせる。そうだ、ダンブルドアは弱っていて……。そしてあれほど死喰い人に囲まれて……きっとむごい殺され方をしただろう。

「あのね、マンダンガスのことを私は信用できない。もしも……もしもよ?彼がスネイプと接触していたらどうかしら。彼は騎士団員にそれを伝えられないいつもの裏の事情があったら。そして……どうにかして作戦を伝えていたのであれば。あの作戦はとても危険だけれども、確実にハリーを連れていくにはあれしかなかったんじゃないかしら。そしてその作戦をスネイプはヴォルデモートに伝える。作戦は見事筒抜けになり、ヴォルデモートは彼に信頼を寄せてさらに大きなことを任せるようになる。今回の校長任命の様に」

 私はハリエットを信用しているからこそ、彼女が愛したスネイプを多方面からみたいと、そう願っているわ、とハーマイオニーは説明し……ロンとハリーは驚いて顔を合わせてそうか、と頷きあった。新聞には死喰い人が教員として入る。つまりは彼らを抑える力が必要であることと、生徒を守るためには……。

「でもそれとハリエットと別れた話にはなんか意味が違くないか?」
 そもそもその話からじゃなかったか、とロンが訪ね……ハーマイオニーの表情にそうか、と手を叩いた。

「7人のポッター作戦、ハリエットのことを覚えていてなおかつ大切にしていたなら……誰かが死ぬかもしれない作戦を立てるわけがないんだ。そんなことがあれば彼女は未来を変えようと……」
「そう、マッドアイを助けたように、彼女の性格を理解していたらまず思いつかないわ。思いついても採用できない。ハリエットが何が何でも助けようとしてしまうから」

 だから、とロンはハーマイオニーの手を取って君って本当にすごいや、と声をあげた。この7人のポッター作戦を立案しもらうためには、記憶を消すためには……万全の状態のダンブルドアに頼むしかなく。
 すべてが繋がっていく気がして、改めて新聞を見る。

「ハリエットのそばにスネイプがいる」
 それをきっとハリーに伝えるための、本当に危険な綱渡りのような合図。こんなことをするというのは……。
「スネイプは多分、今もなお機会をうかがっている。少なくともハリー、記憶が戻ったスネイプがハリエットを見ているのであれば、最悪命だけは守ってくれる」
 あれから彼女にまつわる情報はどこにもない。ただ、慰めでも、気休めでも、ハーマイオニーの言葉はハリーの心を癒す。まだ本当にスネイプを信じているわけでも、信じたいわけでもない。ただ、自分の片割れが、この行く末を知っているはずの未来の自分が、スネイプを信じているということを、彼女を信じている。

「僕らはただ、分霊箱を探すことに集中しよう」
 彼女のことはスネイプに任せるのであれば……自分たちはできることをしよう、と改めて魔法省にはいる算段をたてた。






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