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5:美しい泡の様に

 フラーとビルの結婚式を挙げるため、忙しく準備をする中ジョージがハリーを呼び出した。壁を挟んだ先にハーマイオニーとロンもいるらしく、ジョージが実はと口を開くとささやくような声が止まる。

「いい知らせか、悪い知らせか……正直俺にも分らない。ただ、一つ……。あの夜、俺を追いかけてきた中にスネイプもいた。フードが落ちて顔を見たから間違いない。あいつ、魔法を明後日の方向に飛ばすのが見えて、腕を抑えたんだ。その時、ちらっと見えたのが……ヘンリーの髪紐だった。ほら、あの青い石と黒い石の。そのあとすぐにハリエットが近くを通って……。その瞬間あいつ呆然とした風に杖をふるうのをやめたんだ。一発お見舞してやろうと思ったんだけど、風に交じって、やめろ、ハリエット。そう言ったんだ」

 俺はそういうのを聞くのがうまくてさ、というジョージにハーマイオニーの息をのむ音が聞こえる。まさか、と怒りと憎しみを覚えるハリーだが一つの可能性に何とも言えない気持ちになった。あの状況で記憶を取り戻すなど、ダンブルドアも思っていなかったに違いない。

「記憶が戻ったからなんだって話だけど、さ。万が一にハリエットが酷い目にあっているというのであれば、スネイプが魔法薬を作るように命じられるだろうってこと。あのくそ野郎がどうするかはわからない。けど、ハリエットが記憶を消してほしいと頼むほどの関係だ。少しは希望があるかもしれない。まぁ、もしあいつに恋人を思う気持ちなんてものがあるのであれば、最悪だろうけどな」

 あいつのことなんてどうでもいいけど、というジョージにハリーは硬い表情のまま小さくうなずく。どんなことがあっても、逃がすようなことはできないだろうし、しないだろう。
 考えねばならないことが多く、3人でじっくり話すことができれば、とジョージが去った後に顔をのぞかせたロンとハーマイオニーを見る。
 ハーマイオニーは……両親の記憶を改竄し、ハリーのたびについてきてくれるという。それを聞いたとき、ハリエットを思い出して苦しかった。捕まった彼女は今どうしているのか。ジョージの推測にスネイプへの憎しみがぐるぐると回りだす。なぜハリエットはスネイプを……。いや、今はそれを考えている場合ではない、と首を振り……唇をかみしめる。

 ヴォルデモートがオリンバンダーに杖の謎を聞いている光景を見たあの日……気絶したハリエットがベラトリックスに引きずられているのが一瞬見えた。生きてはいる。そう、それはわかっている。だが彼女のやった無茶な脱出方法はもう使えないだろうというのも誰に言われなくともわかっていた。


 ハリーは誕生日を迎えて……思わず顔を覆う。ハリエットに関する情報は一切ない。幸いなのか、それとも……。

 モリーはハリーに成人の祝いとして腕時計をくれた。
「あの子にも……成人の祝いを渡してあげたかったわ……」
 大切な弟の遺品をくれたことが家族の一員として見てくれたようで、ハリーは嬉しくてモリーを抱きしめる。抱きしめ返してくれたモリーは震える手で顔を覆い、ここにいないハリエットのことをここに来て初めて口に出した。体を丸めて嗚咽をこぼすモリーの背中をハリーはそっと撫でるしかできない。

「ハリエットが戻ってきたら、渡してあげてください。大丈夫です。きっと彼女は戻ってきます」
 大丈夫、と繰り返すハリーにモリーはえぇそうね、と頷き、キッチンの奥へと向かった。おそらくはそこで涙をぬぐうのだろう。

 やがてビルとフラーの結婚式が執り行われて、ますますハリーの胸は苦しさを増した。ジニーとこんな風な結婚式を夢見たかった。ハリエットが……むかつくことに相手がスネイプしかでてこないが、それでも幸せそうに笑ってウェディングドレスを着られたら。
 ジニーと別れなければならない。だから先日別れの口づけを交わした。本当は別れたくはない。それでも、彼女のことを思えば……。きっとハリエットも同じ気持ちだったのだろう。ダンブルドアを殺すことを知っていた彼女は……。

 ふいに喉に引っかかった骨のような感覚を覚え、何だろうと内心首をかしげる。彼女が別れた日は……。自分のことだ、ジニーの様にさっぱりとした女性ではなく、あのねちっこいスネイプにストレートに伝えたところで無駄だとわかっていたのであれば。
 無理やりにでも、どんな手を使ってでも別れたのではないだろうか。そしてそのうえで記憶を……。スネイプとて馬鹿ではない。だがあの根性曲がりのひねくれた裏切り者が……。
 華々しい式のフィナーレを見つけたハリーは目をそらし続けた一つの可能性を見つめる。もしかすると……そうなのだろうか。

 そうこう考えているうちに、ロンの大おばさんであるミョリエルからダンブルドア家の話を聞き、ハリーは誰を信じるべきか、ますます訳が分からなくなって混乱する。本当にダンブルドアは……妹を閉じ込めていたというのだろうか。ダンブルドアの昔なんて、想像したこともなければ本人に尋ねたことすらない。
 では本当に彼を知っているという年配の人の言葉は正しいかあるいは真実に近いのか。


 やがて傍に来たハーマイオニーに話をしようとして……ヤマネコのパトローナスが魔法省が落ちたことを、キングズリーの声で皆に伝え……会場は大パニックになった。

 守りが破られ、死喰い人が乱入する中どうにかロンと合流し、3人で姿くらましをして逃れた。
「予感がしたのよ。とにかく今は逃げるの」
 ロンとハリーの服を着替えさせ、カフェに入ると今後どうすべきかを額を突き合わせて話し合う。

「ヴォルデモートが魔法省を乗っ取るだなんて……。最悪だわ」
 かつてのグリンデルバルドの時だって落ちなかったのに、というハーマイオニーにロンは君ってばそんなことも調べていたのかい?と少し茶化して……鋭い視線に口をつぐむ。
 みんなの安否を確かめるためにも戻ってみては、とそう思ったハリーだが、その気配を察したのか、ハーマイオニーはだめ、と鋭く遮り、ロンまでもが危険だという。狙われているハリーが行っても騒ぎが広がるだけだと、そういわれてしまえばハリーも黙らざるを得ない。
 つかぬ間の休憩もなく、そのまま死喰い人に襲われ……難を逃れた3人はブラック家のグリモールド・プレイス十二番地へと向かった。






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