--------------------------------------------


3:戦士の退場

 洗脳され死喰い人にされていた人は臨機応変に動けないのか、しつこく追ってきていたが、ハグリッドがバイクにつけられたボタンを押し、発動したドラゴンの咆哮のようなブーストにかなわず小さくなっていく。ハリーを追っていた死喰い人らの大半はハリエットを追いに行ってしまった。服従呪文を掛けられている人はあとからハリーを追うための目印に置いていったのだろう。

 突然、空に響き渡る轟音が聞こえ……ハリーとハグリッドは驚いて振り向く。ずいぶんと小さくなったが遠くで光る雷鳴が消えた後も灯のような何かが……箒の残がいが落ちていくのが見え……戻ってきた死喰い人に憎しみが沸き立つ。

 失神呪文を唱えて少しでも追っ手を減らし次は、と振り向いた前を黒い影が横切った。突然現れたヴォルデモートがにやりと嗤い手に持った長い黒髪を放る。それが誰の髪なのか、瞬時に理解したハリーは怒りに叫び、杖を構え……ハグリッドが急降下をして何とか振り払おうとする。
 ダメだ、ハグリッド、今あいつをやらないとハリエットが、彼女が危ない、そういいたいのに声が出ない。

 ふいに杖が勝手に動いてヴォルデモートを阻止し……ほとんど墜落する勢いで目的だったトンクスの実家にたどり着いた。保護魔法の中には入れたおかげか、ヴォルデモートすらも入れないようで怪我を負いながらもなんとかハリーはトンクスの父テッドと、ぎくりと身をこわばらせることになってしまったベラトリックスそっくりのトンクスの母アンドロメダらに助けられ、目的のポートキーに触れて移動する。


 やっとたどり着いた隠れ穴では先に戻っているはずの他のメンバーがいない。何があったの、と心配するモリーとジニーに助けられ……ハリーは気が気でなかった。そのハリーの表情と、着いてすぐに伝えられた襲撃された事実に家族“6人”が今回参加している2人は気が気でないのかじっと時計を見つめた。
 そこにルーピンとジョージが現れて、ハリーにハリーしか知らないはずの質問を問いかける。それで裏切り者が出たのではないか、とハリーは拳を握り締めた。
 
 ジョージはやっぱり最高の箒だな、とファイアーボルトをハリーへと渡す。耳元から出血しているが、これはかすめただけだから、と心配してガーゼを持ってきたモリーに大丈夫だよ、と笑って見せ……。そこにハーマイオニーとキングズリーが現れた。警戒しているキングズリーはルーピンに杖を向け、ダンブルドアの遺言を訪ねることで偽物ではないことを確認する。
 そこにアーサーとフレッドが戻ってきて……トンクスとロンが戻ってきた。
 
 皆ぼろぼろになりながら……ハリーをじっと見つめることからあの稲妻をみたのだと、ハリーは震えそうになる拳を握り締めることで何とか叫びたいのを堪えた。そこに今度はビルとフラーが現れ……セストラルの後ろから怪我を負ったムーディを下した。

「マッドアイへの攻撃がかなり激化して……マンダンガスの奴が逃げたんだ。マッドアイは何とか数を減らそうとしたところで……ヴォルデモートが現れた」
 一番近かったんだ、というビルにフラーは頷き、ハリーを見る。

「あなたの片割れが、アリエットがあの人にむかいました。マッドアイが気が付いたのーですが」
「ディフィンドがマッドアイに当たるのが見えて、落ちていくのが見えたんだ。それで、僕らについていた死喰い人が一斉にハリエットに向かった瞬間、間一髪で彼を助けてそのまま逃げてきた。魔法の眼を落してしまったみたいだけど、この通り……生きて……」

 ハリエットが向かった先がムーディと聞いてモリーから治療を受ける傷ついた戦士を見る。ぼぅ、という音ともにムーディに届いたのはあの白い封筒。それで一団はすべてを悟り、いないハリエットに神秘部の顛末を思い出す。

「ハリエットはしばらく死喰い人らに追いかけられていた。だけど何があったのか、死喰い人らは一斉に持ち場に戻ってきて、そこからは僕らは必死に逃げていたんだ。みんなもみたんだろう、あの雷を。直撃したハリエットの箒は……。彼女自身はヴォルデモートに抱えられていて、助けることができなかった」
 一番近くにいたというビルの言葉に家族の無事を喜んでいたモリーは思わず座り込み、大きく目を見開いた。
 
 
 そこに、ポートキーを使ってやってきたのは彼女を見ていたはずのシリウス。呆然としている風のハリー達を見て、くそっ、と一言吐き捨てて、灌木を殴る。

「パッドフット、何があったんだ」
 君以外にも見張りがいたはずだ、というルーピンにポリジュース薬だ、とうなだれたシリウスが答えた。2杯目の紅茶を飲んだ瞬間、体がしびれて動けなくなったと。シリウスの髪を拝借したハリエットがローブで体を隠し……見張りに何かを伝えて出ていった。そう語るシリウスにムーディが渇いた笑いをこぼした。

「あれほど気を付けるように言っていた自分が……まさか俺が真っ先に死ぬとはな」
 滑稽だ、というムーディは白い封筒を開けて中身を読み終えたらしく、くしゃくしゃに握りしめたまま呟く。最大戦力と言っても過言ではないムーディの欠落に誰もが青ざめて、そしてハリーを見る。

「こんな老いぼれを生かすために……杖を落とした彼女が犠牲になっただなんて、とんだ失態だ」
 よろよろと起き上がったムーディは悲痛な顔をする騎士団員を見回した。

「これから俺はダンブルドアの遺言のもと行動することとなる。本来死んだはずなのだ、俺は死んだものとし、忘れろ。必ず、我らに勝利を」
 もう行かねばならん。そういうムーディはいつの間にかやってきていたレトリバーの肩を叩いて、ひどく落ち込んだシリウスを連れて去っていく。それと入れ違いに森フクロウが一羽降りてきた。

「シーク……君のご主人は……」
 あの逃走劇のさなか、ヘドウィグの籠は落としてしまったらしく今はない。ハリエットが守ってくれたのだと、確信してミサンガが柄に巻き付いたハリエットの杖を握り締めた。






≪Back Next≫
戻る