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2:金色のポリジュース薬

 ダーズリー家との最後の別れにハリーはどこか上の空だった。もうこれで会わないのかと思うとせいせいする、と息を吐くハリーに車に乗ろうとしたダドリーが振り向く。どうしてハリーは一緒ではないのかと問う声にあぁそうだ、彼はいとこなんだ、とふいにハリーは感じ……一緒にはいけないと返す。

「お前の……双子の片割れも一緒なのか?」
「ハリエットは……きっと一緒には行動できない。僕のせいで大けがを負ってしまったから」
 魔法使いらと一緒に行くというハリーに、ダドリーはあの前にあったやつ、というとハリーは首を振った。彼女はシリウスに監視されているという。予見者としてなぜダンブドアを助けなかったのか、そう批判する人々から守るため、そしてハリエットが未来を変えようと行動しないようにするため、彼女は隔離されていると聞いた。

 ダドリーと別れのあいさつを交わすとペチュニアが振り向いた。何か言いたげな顔をして……やがてハリーにかける言葉が見つからなかったのか、ハリエットにと口を開いた。

「ハリエットには必ずこの箱を取りに来るよう使えて。その時、必ず、あれと付き合っているのでなおのこと、必ず連れてくるようにと」
 まるで何かの宝が入っているかのように、古びた箱を抱くペチュニアはそういうとハリーの返答を待つでもなく車に乗り込んだ。どこか怒っている風のペチュニアに、まさかスネイプを知っているわけないよな、と首を傾げハリーは2階から去っていく車を見送った。


 今ここにヘドウィグがいないのはさみしいが、仕方ない。どうやらハリエットが捕まえてしまったに違いない、とどこか確信を持っている。
 家の中を歩けばろくでもない記憶ばかりだが、どれもなんだか懐かしく感じるのはここを出ていくという事だからだろうか。大事なものは皆ダーズリー家がもっていった。だからほとんど家の中は家具はあれど“空っぽ”だ。

 感傷に浸っているとそこに目くらましを解いて箒から降りる複数の人と、バイクにまたがるハグリッドがやってきた。家の中に入り、簡単なあいさつを交わし……そして今夜の移動計画に耳を傾ける。7人のポッターという計画にハリーはダメだと首を振った。万が一に……誰か死んでしまったら。そう思うと震えが止まらない。

「ポッターは魔法を使えない。だけどこちらは魔法を使える成人済みの魔法使いだ」
 そう言い切るムーディにハリーはでも、と戸惑い……そうだハリエットはと顔を上げた。この作戦の危険性を誰よりも知っているのは彼女だ。何が起きるのか……。そう思いハリエットはと尋ねる。

「彼女はスナッフルズが見ている。あぁそうだ……いや、これは後にしよう。ハリー、髪をくれないか」
 お願いだ、というアーサーにハリーは迷い……ムーディの時間がないという言葉にぎゅっと目をつぶって不安を目の奥に押し込めて髪を一握り引き抜いた。

「あぁ、ハリエットが言っていたのはこのことだったのね」
 金色の輝くポリジュース薬にハリーとロンは顔を見合わせて懐かしい記憶に笑う。あのとき、ハーマイオニーはハリエットになった。もしあの時知っていたらマルフォイのところに行くどころの騒ぎではなかっただろう。

 ハーマイオニーはキングズリーとセストラルに、ビルとフラーもセストラルにまたがる。心から安心している風のフラーを見ると、ハリエットをどうしても思い出してしまう。

「みんな聞いてほしい。昨日大急ぎでこのバイクを弄っていたため、連携が遅れてしまった。ムーディ、この作戦……おそらくは途中で襲撃される可能性がある。今以上の警戒が必要だ」
 昨日あってきたというアーサーはハグリッドのバイクから手を離し、皆へと伝えた。遅いとでもいうようなムーディだが、これ以上の策はないらしく、全員に杖を構えるよう指示を出す。

「それとハリー、君のファイアーボルトをジョージに貸してくれないか?ハリエットが“強風にあおられて”箒を落とすと、そう言っていてね」
 サイドカーに荷物を入れようとするハリーにアーサーは近づくと突然申し出る。驚くハリーだが、もしかしたらそれでジョージを救おうとしているのでは、と入れようとした箒の柄を握り締めた。

「彼女はジョージかフレッドか……どちらかに貸してほしいといっていた。きっとクィディッチで箒に慣れているどちらかに託したいのだろう。ロン、彼女は君が誰と行くのかをある程度知っていたと思うからそんな顔をしなくてもいいと思うぞ」
 誰かの死を回避したいのではなく、あくまでも箒を守りたそうだった、というアーサーにロンが膨れ……トンクスに聞かれないようアーサーは声を落として伝える。あぁ、まぁ、と頷くロンに俺は親父が吹っ飛びそうだからな、と呼ばれなかったフレッドが茶化す。


 守りの範囲から出たらすぐに戦闘と思え、とムーディが声を荒げ……一斉に飛び立った。

 サイドカーは狭く、むぎゅっとなりながらこれでもかと補強されているつなぎ目に嫌な予感しかしない。足の間に挟んだ籠を見て、万が一“強風に煽られたら”と考えるとヘドウィグがいないことにほっとして……目を見開いた。もし籠を落としていたら……ヘドウィグは。
 本当に大丈夫なのか、ハリエットは……おとなしくしていられるか。いや、自分なのであればよくわかる。自分は……可能であれば何が何でもやろうとするだろう。まって、と声を上げようとしたハリーだが、バイクの轟音にかき消され、箒と同じ角度で急上昇していく感覚に嫌な予感を強めた。

 上空に上がった瞬間、30人もの死喰い人に囲われて、一斉に散り散りになる。離れていく皆を見て、ハリーは青ざめて……杖を握り締めた。失神呪文を唱えて気絶したら……あの時のダンブルドアのように、そう思おうと武装解除を唱えてしまう。

 洗脳されている人と死喰い人に追われ……ハグリッドが無茶なハンドルを切った瞬間、弾丸のような速度で死喰い人に向かう黒い影を、腕についた金色の腕輪を、ハリーは反射的に目で追った。追っていた死喰い人らがインセンディオの炎で箒についた火を消そうとしたところで何かに突き飛ばされるように落とされる。下にある水の中に落ちる音が聞こえたことからそれを狙ったのだろうが……。

「ハリエット!!」
 猛スピードで飛んでいくハリーは急速に闇に溶け込んで見えなくなった片割れに思わず叫ぶも届かない。

「予見者の女だ!生け捕りにしろ!!」
 死喰い人の声が聞こえてハリーはだめだ、とつぶやく。遠くに見える黒い塊が見えたかと思うと何かを追おうとしてぶつかったのか幾人かが制御不能となり散っていく。






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