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26:転生者達の条件

 クリーチャーとドビーからマルフォイの状況を聞いたハリーはどういうことなんだ、と談話室を歩き回る。彼女の行動が本当に理解できない。マルフォイが入った部屋から出てきたというヘンリー。ということはマルフォイとあの部屋で会っているはずなのだ。でなければ見張りの二人が何かしら動くはずだから。
 本当に未来の自分だとして、どうしたらそんな行動をとるのか。きっと彼女はマルフォイが何をしているかわかっているはずなのになんで、と歩き回る。

「ハリー落ち着いて。特に未来に関係がないから、だから……その、ヘンリーはマルフォイの友人じゃない?それで未来に干渉しない範囲でいるのかもしれないわ」
 ハーマイオニーの前を5回通ったところでハーマイオニーはため息をつき、友達ならというがロンもまた、あんな奴の友達になっていること自体おかしいんだ、と顔をしかめている。少し前から地図を確認してはいたが、ハリエットが一人で行動しているのを見るのが何だかさみしくて、ここ最近は追加の言葉を入れていなかった。だから気が付かなかったし知らなかった。

「そりゃ、ハリエットが消えるのは不可視な場所だし、ここにはない新しい場所だから仕方ないさ。けど」
 まさかマルフォイも同じことになっている何てなんで気が付かなったんだ、とハリーは自分に苛立つのと同時にドビーたちの報告から慌てて花を表示させて……スネイプが一人でいることを確認し……そうじゃない、と首を振る。彼女の居る場所はどちらにせよ不可視だからこんな夜に見ても仕方がない。

「何か事情があるのかもしれないわ」
 戸惑う様子のハーマイオニーにロンはどこか苛立っている。彼が飲んだ毒についてハリエットは一言も警告しなかった。十分助かることを知っていたからとはいえ、苦しい思いをしたのはロン本人だ。
 結果として助かったがそれでもどこか腑に落ちないとロンは怒っている。


 それよりも、とハーマイオニーは立ちあがり、カバンからクィブラーの未公開資料を引っ張り出す。ハーマイオニーはあれから整理してくれたらしく、彼女が関係なしと判断とした資料が除かれていて見やすくなっていた。

「調べていて……ひとつわかったのは、この8人目以外はみんな……本来亡くなったとされる時期を超えることができなかった、という事。ある人は未来を変えるペナルティを最小限で済ませようとして、とんでもない犯罪者を世に放ったことで多くの運命に干渉してしまいその場で消えたそうよ」
 ずっと抱えていたのだろう、ハーマイオニーは静かに、まるで教科書を読むかのように感情のない声で結果を告げる。それを聞いたロンは驚き、ごくりとつばを飲み込んだ。

「本人たちは……何が起きるのか……」
「わかっている人もいればわからなかった人もいたみたいね。ただ言えるのは、ハリエットは自分の残りの回数も、それをどう使うかも全部計画しているという事。そうでしょ?ハリー。あなたなら……例えば5回かえられると言われたらそれをどう使うか、誰を助けるか……決めてしまうんじゃないかしら」

 誰もが回数はわかっていたみたい、というハーマイオニーにハリーは言葉を詰まらせる。もしも、もしも助けたい人よりもその回数が少なければ?その数に余裕がなければ……。変えられるというのであれば自分だったら使い切るに決まっている、とハリーは目をそらす。だがそれとこれとは違う。そう、違うはずだ。

「そ、そうだ、8人目以外ってことは8人目のトレローニーの曾祖母?の人はどうなったんだ?」
 暗い目をしたハリーを見ていたロンはとっさに声を上げる。ハリーもまた思考から無理やり頭を引き出し、ハーマイオニーを見た。

「本当はきちんと自分の目で確かめてほしいものだけれども……。彼女はその生涯をこの記録をとるために費やしたそうよ。そもそも、彼女は転……予見者としての資格を満たしていない、とそう証言したとあるわ。そのせいで信憑性なしに分類されていたみたいだけれども……。とにかく、それなのになぜ戻ったのか。それは資料を作成するただそれだけのためで、彼女は未来を変えることはしていないしできなかった、とそういっていた記録があったそうよ。7人の結果をまとめて神秘部に提出後、自らの記録を書いたものを姉の子供に、本来の自分の子供に託したと」

 だからそもそも彼女は本来の自分が迎えた寿命分を緩やかに生きていた、とハーマイオニーはここの証言よ、とおそらくは分家となった家の子孫を名乗る人の取材記録を渡す。

「この、予見者になる条件ってどういうことだい?」
 記者が聞き取りながら急いで書いたためか、素晴らしい字になっているのをロンは読み取れず、ハーマイオニーに助けを求めた。ロンはプリンスの教科書もだが、こういう字を読むのは苦手のようだ。自分の走り書きも読めずにいるのはどうかとは思うが、とハリーは小さく笑って……唇を真一文字に閉めた。
 
「その資格内容は真の予言者の前で嘘の予知、予言、なんでもいいから未来をでっちあげてそれを自分の手で本当にすること、その上で深い後悔を長年引き摺り、その後悔の前で亡くなること。それと大前提である、強い魔法使いであること。それらを満たさなければならないとそういう証言があったみたい。ハリー、占い学のテストで何を言ったの?」
 解読していたハーマイオニーがじっと記録を見つめるハリーに問いかける。トレローニーが予言を行ったことは二人に伝えてある。だからこそ、何を、と言われてハリーは3学年のあのテストを思い出していた。

「バックビークが自分で飛んで消えていくところを見た、とそう言ったんだ」
 バックビークが死ぬかもしれない、というときに思いついた……なんとしてでも助けたいという願いと願望で口を突いて出てきた嘘は現実となった。ほかならぬハリーとハーマイオニーによって。彼は大空にシリウスを乗せて飛び立ったのだ。

「間違いなくそれね」
 まさかこんなことになるなんて、誰も思いもよらなかっただろう、とハリーはため息を吐く。言葉は魔法、どこかでそんなことを聞いた気もする。力の強い魔法使いというのはわからないが、ロンは君もしかして、と口を開いたことで、のろのろと顔を上げた。

「例のあの人が復活したとき、杖が繋がった、とそう聞いたけど、いくら動揺していても、復活したてでも、ぶつかった魔法を押し返すなんて、普通はできないと思うんだ。うまく言えないけれども、君はそれをできてしまうほどの力を秘めているんじゃないか?僕らは未熟な魔法使いだからうまく使えないだけで、力そのものは誰よりも強いんじゃないかな」
 そう考えるとその条件も満たしている、というロンにハリーはそんなの、知らないと顔をそむけた。
 知らない、知るもんかと。

「僕はただ、ただ……平穏に生きていきたいのに」
 どうしてなんだ、とハリーは深く息を吐いた。







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