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24:クィブラーの資料
クリスマスパーティの翌日、ルーナは宣言通り大きな袋をもって大広間にやってきた。
「これパパから来た資料。ずいぶん前に発行したのとか、調べていたけれども魔法省から予見者の命を脅かす可能性があるとして発行禁止にされたものとか……」
いっぱいあるんだ、というルーナにハリーは顔を引きつらせ、ハーマイオニーもこれは大変ね、と腕まくりしそうな勢いだ。
とりあえず、ルーナの父ゼノフィリウスのことを信用しないわけではないが、彼が信憑性低、とメモしてある束を手に取った。そう、彼は別に悪い人ではないが、彼が信じていることよりも、これは話題性が低いなど弾いたものの方がより現実的というのも事実だ。
「とりあえず、あの物語に関連する資料はないかしら」
これだけの量見ていたらきりがないわ、とそう言い切ったハーマイオニーはあの物語に関連するものがないかを見ていくという。
ハリーもそれを探るがどうしてもいろいろ気になることが多くて集中できない。
「ハリー、無理はしないで。こういうの見ている方が私気がまぎれるから……ナーエ、ナーエ……あった!!!ほら、実在した魔法使いよ!」
とにかく古い資料から、と探るハーマイオニーは見出しをみてめくっていき……あった!と声を上げた。資料の山とチラチラ見てくるラベンダーに少しうんざり気味のロンも、予見者は明日の天気もわかる?と書かれた資料から顔を上げた。
「ナーエは純血の家だったのね。ただし彼は身にまとっていた衣服を残し失踪……。傍にいたリーベ嬢に事情を聴いた記録では彼は自分が未来のリーベだと打ち明け、突然消えたという」
「本当だ!実在する魔法使いだったんだ!しかもこれって……」
リーベの子孫が残したという証言に、マグルの売れない小説家の本が元ネタのため宣伝と判断というメモが書いてある。
「ほらやっぱり!編集者であるルーナのお父さんがマグルの本だからと省いているぐらいだもの。特殊な予見者に関連することを知らない人からすればただの空想の物語。誰も、誰も信じなかったんだわ。タイムリターナがあるのに魔法界って時々こういうのがあるから油断ならない」
近くにある別の資料を持ち上げ、これは違いそうねとハーマイオニーはそれを置いて、次の資料を手に取る。次の資料とみていると、ハリーはこれも本当なのかな、と震える声を上げた。
「打ち明けた後突然消えた……。衣服を残して」
呪いはなくなるから大丈夫、とそういったハリエットだが本当に大丈夫なのだろうか。他に道はないのか。ハリーの言葉に何が言いたいかわかったハーマイオニーとロンははっと顔を見合わせた。
「ハリエットの言っていたレッドカード……。でも、でもさ、全員がこうなるというわけじゃないんだろう?」
全員じゃないはずだ、というロンにハーマイオニーはそうよ、と言って資料を漁る。ハリーもまたそれ以外の結末がきっとあるはずだ、とハリエットの全員消えちゃったという言葉を頭の片隅に押しやり、過去の証言を見ていく。
明らかに違うものと思うものを除いて、8人の予見者がいたことまで突き止めた。8人目の予見者は……。
「トレローニー……。あのトレローニー先生の曾祖母の妹……じゃなくて、曾祖母本人の生まれ変わりですって!彼女は来る9人目の……転生者の為に……。ハリー!これよ!ハリエットの本当の呼び方は!!」
これをみて、と誰もいなくなった談話室でハーマイオニーは疲れ切ってうつらうつらしていたロンをはたき、5人目の予見者がたどった結末に顔をしかめていたハリーにそのメモを渡す。トレローニー、インチキの疑い、占い学は信憑性なし、というメモをはがして急いでそれに目を通す。
「9人目の為に過去の予見者達の資料をまとめ、それを神秘部に渡したという噂があるが、彼らは真実を語らない……。9人目……ハリエットだ!え?どうして?ハリエットの為にって……。どういうことなんだ?」
「これじゃないか?ミズ・トレローニーは例のあの人と思われる暗黒期についての予言を行ったとされる。また、それによる注目が集まると。その後も闇の落とし子や遺志を継ぐ者が現れ、闇は息絶えることはない、という予言を下したことで不信がられたが、例のあの人による暗黒期の予言が当たったことからも、調子に乗ったとされる予言にも信憑性があると考えるべきか……」
すっかり目が覚めてしまったロンも加わり、戸惑うハリーの代わりに資料に目を通していく。ハリーとしては自分が予言でヴォルデモートと戦う運命があると、そうされているだけでも荷が重いのに、ハリエットはその先の運命も背負っているのだろうか。
「ハリエットが本当にどこかの未来から来た僕なら……。なんで全部が終わったかもしれないのにその次のことも背負わされるんだ。2度目ならもっと、もっと自由にただの学生として過ごさせてくれないのはなんでだ」
いいかげんにしてくれ!と思わず怒るハリーは手に持った資料を思わず握りしめる。自分がもしかなうならばもう一度やり直せるならば……。そう考えてそれじゃダメなんだ、とハリエットが守った二人を思い浮かべる。彼女が体を張ったからこそ、“死”を背負わずに来た。だからそう考えてしまうが、彼女がいなければきっと彼らを助けるためにもう一度やり直したいと考えるだろう。
「どうして僕なんだ」
ただの学生で、ただの子供で……。そういった時代に生まれ変わってもいいじゃないか、どうして解放してくれないんだ、とハリーはうなだれる。だが今の時代、今でなければならなかった理由もわかる。
「ハリー。今日はもう寝ましょう。まだ資料はあるわ」
「そうだよハリー。今日はもう休もう」
杖を振って片付けるハーマイオニーはカバンを取り出して資料を収め、ロンはハリーを促す。疲れ切った様子で寝台に倒れこむハリーはポケットからチャームを取り出した。彼女が落とした雌鹿を見つめ、ぎゅっと握りこむ。
きっと大丈夫だ。そうだ、卒業したら……彼女を連れてシリウスと3人で暮らそう。もう一度ペチュニアおばさんにハリエットを会わせて……彼女と一緒にどこか旅行に行ったっていい。そうだ、それがいい。兄弟で一緒に。
未来のことを思い浮かべるハリーはそのまま眠りに落ちていく。きっと、きっと大丈夫。うまくいく。その時には彼女はすべてを話すと言っていたのだから、その時には彼女に聞いてもいいかもしれない。彼女が本当に未来の自分なのかと。何歳まで生きたのか、何をしていたのか……いっぱい聞くことはあるんだ。
考えれば考えるほど、そんな未来はこない気がして、ハリーも気が付かない雫が枕に染み込んで消えていった。
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