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23:解毒

 次の魔法薬学の授業はドラコの言う通りで、ヘンリーはちらりとハリーを見て……絶望した顔ににやりと笑う。それにハリーも気が付き、また半純血のプリンスの本に顔をうずめた。
 結局半年近くたった今もハリーらからのなぜ知っているかなどの問いかけがないのは予想外だったが、そこに書いてないし先生に教わったわけでもない、とヘンリーは杖を構えた。

 はっきり言ってこの手の作業は嫌いだ。がんじがらめになった糸を一本一本ほどくような作業、煩わしくて仕方がない。それでも、するっといった時の爽快感はクィディッチで防衛する選手の間を縫うように飛んだ時のような、そんな爽快感があって……それはそれで面白い。ただ過程が嫌いだ。

 幸い、スラグホーンはいい教師で、そこまで複雑ではないのが幸いだった。ハーマイオニーのように頑迷なまでに外側から崩すのも堅実だが、ヘンリーはそんな砂崩しゲームは嫌だ。
 だから、スラグホーンが仕掛けた核となる魔法薬を先に抜き取る。これが厄介ではあるが、これさえ抜けばあとは干渉して紛らわしくなるような成分はなくなるはず。

 終了間際になって、横目でハリーが何かを倉庫に取りに行き、戻ってくるのを見て……最後のキャップを閉めた。わかる、わかるよハリー、と内心頷き……深いため息にドラコを見ればローブを汚しながらも奮闘したが結局形にならなかったことがうかがえる。

「途中で呪文がこんがらがったんだ」
 悔しそうなドラコにヘンリーは微笑み、これとこれの成分って似ているからね、と分析した成分を示す。あぁそっちだったか、とため息を吐くとハリーの出したベアゾール石にスラグホーンが大笑いする。うん。そうそう、そうなんだけどね、ハリー、と苦笑いするヘンリーは怒りに満ちたハーマイオニーと静かに苛立つドラコに同情し……僕も頑張ったんだけどなぁと頬をかいた。

「さてグリフィンドールに10点……と。ミスターマクゴナガル?もしかしてそれは全部?」
「時間がなかったので全部というわけじゃないと思いますけど、8割ほどはできているかと思います」
 並べられた瓶に思わずといった風にスラグホーンは出てくると一つ一つ手に取ってほぅ、と声を上げた。ここで闇祓いでの訓練が役に立つなど、誰が予想できたものか。

「いやいや、この魔法薬の抽出に成功しているだけでも十分だ。そうか、なるほど……。君はこのテストの中心部分を先に崩したようだ。なるほどなるほど。スリザリンにも10点加点しよう。この方法は誰かに教わったのかな?」

「やり方自体は訓練したことがあるので……。スラグホーン先生ならばきっと核となる魔法薬を見抜けさえすれば荷ほどきが楽なように、するりと解けるんじゃないかって思っただけです」
 いやいや、これを先に作るのを見た時はまさかと思ったが、というスラグホーンにヘンリーは思ったことを述べていく。訓練で手もべとべと、頭も常にパンパンな状態の時、ふと気が付いた違和感に何だろうかといったん他のことを放置して、慎重にそこだけを抜いたときの……堅牢な壁だと思ったものがあっという間に瓦解化していくような感覚。
 それを習得してから合格までは早かった。何度ロンに説明しても、ロンはその感覚が分からずに結局片っ端から潰すという方向に転移してぎりぎり合格をもらったのも泡のように思い出しては隠れていく。

「いやいや、今年は本当に素晴らしい生徒に巡り合えた」
 この上なく上機嫌になるスラグホーンの影でハリーと目が合い、絶対この方法君には教えない、と口角を上げて見せる。これは、この方法は、ジニーと会うこともパブで飲みに行くことを我慢し、一人で考えた。
 我慢できずに飲みに行ってハーマイオニーに拳をもらったロンに……は教えたか。とにかくこの方法はヘンリーとなったハリーが習得したもので、君も同じ苦しみを味わいながら会得すればいい、と先生の本を大切に持つハリーへのほんのちょっとの嫉妬による悪意で心に誓った。何が何でも教えてやるものかと。ただ、本当に大変だったからロンと石をポケットに忍ばせた、それだけだ。

 ヘンリーのやけに自信に満ちた顔にどこかに書いてあるのでは、と躍起になって教科書をめくるハリーは時間ギリギリになってベアゾール石の走り書きを見て慌てて取りに行き……そしてスラグホーンはそれで大満足してくれた。だから自信ありげだったのか、とヘンリーを見て並べられた瓶に目を剥いた。

 嘘、そんな方法プリンスの本にもなかった、とヘンリーを見れば絶対教えてやんない、という顔で見返され……ぶちっとこめかみに怒りを浮かべる。先に出ていくヘンリーとドラコらを見送り……最近この二人の距離近くないかとそれでも苛立つばかりだ。冷静になれ、と深呼吸してのスラグホーンへのホークラックスに関する情報は空回りして地上に戻りながらヘンリーを見て再びイラっとする。
 未来の自分……大分いい性格してるじゃないか、と怒りのオーラを発するハリーに、あなたもたいがいよとハーマイオニーは口に出さずにベアゾール石を示したハリーに苛立つ。
 

 そしてあっという間に日は経ち、3月1日となった夕方、ロンが毒薬を飲んだと大騒ぎとなった。蜂蜜酒に盛られていた毒はハリーがベアゾール石を飲ませたことで事なきを得たが、またも別の人を殺しそうになったとドラコは真っ青になっていた。ケイティもケイティがターゲットではなく、あくまでも運搬を頼んだに過ぎない。そしてスラグホーンの蜂蜜酒だが、これも狙った相手ではない。

 ハリエットに相談するのは気がとがめたのか、トイレでマートルに話しているのをヘンリーは立ち聞き、知らないふりをする。ドラコのためにもそれがいい、と目をそらす。そしてハッフルパフとグリフィンドールの試合は……見ているととても頭が痛くなりそうな気がして、ヘンリーは見に行かなかった。


 フクロウ小屋にやってきたヘンリーにシークがさっと舞い降りてくる。
「シーク」
 もう終わりは見えていて……すでにダンブルドアからあの頼みをされているスネイプを思うと涙が出てくる。彼はどんな気持ちで唱えたのだろうか。シークはそっとヘンリーに寄り添うと元気づけるように耳を優しくついばむ。

「シーク、あの髪飾りは……彼だったのかな」
 スズランのバレットはもったいなくて、あれ以来自室にしまいっぱなしだ。彼がいつ用意したの変わらないが、彼からのプレゼントは皆身代わりになってしまった。だからこれはもう身に着けるべきではない。常に身に着けているブレスレットや、髪紐はないと逆に落ち着かないが、初めからしまっておけば問題はないはずだ。



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