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22:変わらぬ関係
スネイプの部屋の近くで発作が起きてからそこで見てしまった夢も相まって、不意に思い出してはヘンリーは顔を赤くしてクッションに八つ当たりをしている。
「うるさいと思ったらヘンリー……。何をしているんだ」
呆れた風のドラコが顔をのぞかせ、ヘンリーはよりによってスネイプの部屋で介抱されるとか恥ずかしいにもほどがある!と叫ぶように返事をした。あと少しなんだから八つ当たりでそこら辺の物を落とさないでくれよ、とドラコはそれだけ言うと再びまだ壊れているキャビネットに頭を半ばまで入れてぶつぶつと修復を行う。
二人がいるのは必要の部屋で、憂いの篩を使うヘンリーと山1つ挟んだ先でドラコがキャビネットを直していた。少しして、集中力が切れた、とドラコが大きく伸びをするのが見え、ヘンリーはお疲れ、と笑う。
「そうだヘンリー。近々ゴル……あーなんだったか。その授業で毒薬を分離させるとかなんとか聞いたが……ヘンリーはスカーピンの暴露呪文は……その顔だと自信ありそうで何よりだ」
振り向いたドラコがあー、と何かを思い出しているかのような、そんなヘンリーを見て手を拭っていたタオルをヘンリーに向けて投げた。ちょっと汚い、と別の方向に飛ばすヘンリーに笑いかけて疲れたようなため息をこぼした。目の下のクマはもうずっと取れていない。
日に日にまだなのか、と催促されているのか、それとも確認と称して何度も進捗を確認されているおかげか……。疲れ切った様子のドラコは最近授業も疎かにしている。それでも魔法薬学は欠かさないあたり彼も彼で得意分野だったのだろう。
スネイプが褒めてくれるというのももしかしたら関係しているかもしれないが、今はスラグホーンなのに続けているのはハリーが闇の魔術に対する防衛術が得意だったように、彼もこの授業が好きだったのか。
「そりゃもう死ぬほど訓練したことがあるし……。さすがにね。ま、どうせぎりぎりの成績しか納められなかったはずのハリーが急に成績を伸ばしたのと、グレンジャーとそのたびにバチバチにやりあっているのを見るとまたなんかやりそうだなーとは思うかな」
魔法薬の特定にいちいち人を頼っていては緊急の時に対応ができない、と言われてプリンスの教科書もといスネイプの指導が欲しいと、ロンまでもがねを上げかけた闇払いの訓練。ベアゾール石を常備しておこう、とロンと固く誓いあい、ポケットに石を忍ばせていた懐かしい思い出。
ドラコは予見者というハリエットしか知らない。だからハリエットの微妙な言い回しに幼い頃からの訓練の賜物と判断したのか、特に深くは尋ねずヘンリーの空けたソファーに座った。
ヘンリーが杖を振って必要の部屋が用意したティーポットに紅茶を入れ、どこからか来た年代物のカップをドラコがきれいにしたものに注ぐ。
「君は相変わらず紅茶を入れるのが下手だな」
「ドラコの求める貴族様基準が高いだけなのと、この紅茶難しいよ」
一口飲んで笑うドラコに一般家庭の一般の紅茶ならこれで十分なのに、とヘンリーはため息をついた。同じ貴族だというのにシリウスはいつも濃くなるし、自分がいれた紅茶においしいと言ってくれたのに、と膨れるヘンリーはスネイプの淹れた紅茶を懐かしむ。
そういえばこのお茶はあの時の物と似ている、とドラコが用意した紅茶で淹れた“下手な紅茶”を口に含んだ。たしかに、スネイプが入れてくれたものとはどこか香りも味も違う。
「そんなに大口を叩けるドラコはさぞ入れるのがうまいんだろうね」
どうせ貴族様は自分じゃ淹れないだろう、とヘンリーがジト目になると新しいティーポットを用意してそこに手際よく葉を入れ、飲み干した後のカップにそれを注ぐ。
「うわっ!なんで?」
全然違うんだけど、なんで?と驚くヘンリーに最低限の教養さ、とドラコはどこか得意げで、ヘンリーは悔しい、と顔をしかめた。ドラコは久しぶりにくつくつと声をあげて笑い、精進するんだなポッターと口角を上げた。もう本当に悔しすぎる!とヘンリーは頭を撫でてくるドラコの手を払い、絶対次こそは、とぶつぶつと手順をメモし始めた。
メモを取るようじゃまだまだ先だな、と笑うドラコは目の前でくるくると表情を変えるヘンリーを楽しそうに見つめる。
「あっちはそういうメモを取ることすらしないから成績が悪いに違いない」
「あー……確かに。実技以外はグレンジャーがいないと無理そう」
ドラコとヘンリーが二人っきりのとき、ヘンリーはハリーに対し他人のようにふるまうこともせず、ドラコも片割れとして扱う。もっぱら悪口大会になるのはご愛嬌というところだろう。
ヘンリーことハリエットもドラコが本気で憎んでいるわけでも、嫌っているわけでもないことに笑って冗談めいて茶化す。どうせ自分の欠点とかそういうのなのだから、と配慮も何もないヘンリーに逆にそれはそういうものなのか?とドラコが呆れてしまう事すらある。
彼も兄弟がおらず、いとこなどの近く対等な存在もいなかったために、そういった兄弟の悪口など言ったことも聞いたこともないようだ。
「さて、休憩は終わりだ。ヘンリーはまだそれやるのか?それとも呪文の練習でもするのか?」
「いや、必要の部屋に抜け道作ってもらうよ」
まだまだだ、というドラコが立ち上がると、ヘンリーも立ち上がり、現れた小さな扉の絵からするりと抜けていく。かつてアリアナと学校をつないだように、必要の部屋はいざとなれば扉を用意してくれる。
けれども、それは先があってのことらしい。そこでヘンリーはしまわれていた扉のある絵を持ち出し、人気のない場所に隠していた。ドラコもその絵のことを知ってはいたが、出口がさらに小さくて女性のヘンリーであればぎりぎり出られても、さすがに男性であるドラコはそれを抜けることができないし、使われていない箒の倉庫から出てくるのもおかしな話だった。当人がそんな埃だらけの汚い場所に行きたくなどないというのもあるにはある。
アリアナと違って一方通行であることもあってこれはヘンリー専用の出口になっている。使われていない古い箒の倉庫からさらに秘密の抜け道を使って出ていくヘンリーはそういえばそろそろロンの事件があった日だ、とため息をついた。
ハリーからは何度か接触しようとする動きを見かけてきたが、ドラコが隣にいたりヘンリーが避けていたりと直接の接触はない。ハリーもまた必ず話すと約束したおかげなのか、無理に接触しようはしてこなかった。
ハーマイオニーとロンのことがあるため、このことは目をつぶっていなければならない。まるで……マグルの映画で見たビリヤードの球のようだ。コン、コン、と一つのことが次のことに続き、そして結果が生まれる。ハリエットはただそれを見ているだけしかできない。
マクラーゲンが暴走して、そして入院したハリーを見に来たハーマイオニーとロンの距離は……。もう古い映画を見ているかのようなほどに、運命に関連するもの以外は薄れて滲んで忘れてきてしまった。仕方がない、もう16年繰り返しているのだから。
ハリーとジニーの進展も確かこの関連だった気がする、とヘンリーは窓から外を眺めた。
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