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16:闇払い局長候補VS死喰い人
そして土曜。昼過ぎの快晴に恵まれた外に生徒らが出ると、予想通りスネイプがいてその隣に小柄な赤い髪の青年がたっているのが見えてきた。
「まさか!!大丈夫なの?」
驚くハリーにハーマイオニーも心配そうに見つめ、ロンは思わずハリーと見比べている。それに気が付いたハーマイオニーがロン!と声をかけるとだって、と何か言いたそうにハリーを見た。
「闇の魔術に対する防衛術について、上級生らに課せられた無言呪文の熟練度があまりにも遅れている。そこで、無言呪文を使った魔法使い同士の戦いについて、その目で見たほうが早いだろうと判断した。スリザリンの諸君は知っているものいるだろうが、ミスターマクゴナガルは既に体得しており、模擬戦を行うことについて彼の発作の緩和にもつながることから今回我輩の相手役として頼んだのだ。6,7学年で闇の魔術に対する防衛術を専攻している者は今回使用した呪文についてレポートをまとめるように」
集まった生徒に向かってスネイプは説明をするとその該当する生徒から呻き声が上がる。それを無視するスネイプは念のためにと控えているマクゴナガルらを見て、それから最近姿を見せていなかったダンブルドアを見る。彼は今回の話を聞いて、それならばとこの一部の区画に限定してホグワーツの守りを緩和させた。
何かを聞いているヘンリーにダンブルドアは短い距離であればと頷いて見せていたことが少し気がかりだったが、スネイプはそれでは始める、と言ってヘンリーと距離をとった。
そして杖を構えようとして、はっと杖をふるう。ばちん!と何かがはじける音がして、ジロリとヘンリーを見た。
「決闘前には礼をするはずだが?」
「魔法使いの戦いでの模擬戦と聞いていたので」
悪びれもないヘンリーにスネイプは確かにそれもそうだ、とため息をつき……杖を振る。ちぎれた葉が宙を舞い、それらが蛇になるとヘンリーにむかい……ヘンリーの前でその蛇は煙となって消えると一転してガラスのようなものになってスネイプに向かって飛んでいく。
それを一瞬鞭のような何かが叩き落とすとスネイプのふるった杖とヘンリーの杖のタイミングが一緒になり空中で何かがはじける。水しぶきが上がり、きらきらとした水滴が落ちて……今度はヘンリーの杖からインセンディオと思われる火が噴きあがり、スネイプはそれを軽くいなす。
両者ともに無言のため、呪文の言葉一切聞こえないが、時折見える魔法がよく知っているものもあり、ハリーはポカンとそれを眺めていた。
「ハリー!もう今ので10種類は魔法でたわよ!」
急いでメモをするハーマイオニーにハリーも慌ててメモを取り……片割れの実力に焦りのようなものを覚える。
久々の実践にヘンリーは少しずつ体の調子が、かつて闇払いとして従事していた時のような感覚が体に満ちている気がして少しずつペースを速めていた。先輩が冗談で言っていた、ポッターは次期局長かもな、という言葉はきっとお世辞だろう。だけれども、訓練では確かに局長以外にはほぼ負けなかった。
その感覚が……体によみがえる。
少し速度も威力も……使う魔法も変わってきたヘンリーに、スネイプはこれほどまでの実力とは思わなかった、と思わず舌を巻いた。彼の魔法は本当に実践的だ。どこかできりをつけるべきだ、と考えるスネイプはふいにヘンリーの体が消えたことに驚き、反射的に体をそらした。
バシッ、という音ともに現れた後再び消えるヘンリーに……まさか姿くらましを使えるのかとスネイプは驚く。ばらけるというリスクがあるはずなのにヘンリーは構わずそれを併用し始めている。
こちらも抑えつつも答えるべきか、と抑えていた戦法を捨て、実戦さながらにヘンリーの気配を追う。ヘンリーは使う魔法こそ殺傷能力のないものばかりだが、その正確性と選ぶセンスは素晴らしい。
「ねぇ、あれって……」
「どこまで規格外なんだ……」
魔法使いの戦いという事で、初めて見るであろう下級生はびっくりしすぎて口が開きっぱなしであるし、上級生らも姿くらましを戦いに使うヘンリーに言葉を失っている。
バシッ!という鋭い音ともにヘンリーはスネイプの懐に潜り込むと杖を振る。だがスネイプの反応の方が早く、手を伸ばしてヘンリーの右手を握ってそらした。
「近づきすぎだヘンリー」
「調子に乗りました」
最後は相手の杖を持つ手を握るという、魔法使いの戦い高度過ぎないかという方法で終わりを迎える。思わず拍手を送る生徒につられ、他の生徒も拍手を送り始めた。手を掴まれて終わるというある意味魔法使いらしい終わり方をしたヘンリーはちらりと舌を出し、久々だったのでと笑う。
「もう一戦やります?」
「君の体調がよければ」
だいぶ体があったまった、というヘンリーの余裕な言葉にスネイプはじっと見つめて頷いた。症例にかかれていた通り魔法を使っている間は通常通りだ。それどころか、どこか顔色もよくなっているように見える。
「先ほど確認していたのは姿くらましが可能か、という事だったのかね?」
ダンブルドアに聞いていた内容は、と問いかけるスネイプにヘンリーは模擬戦と聞いたので、と繰り返した。
「はい、久々だったのと、先生相手ならばやっても大丈夫かなって思って。あ、でももうやらないです」
互いに向かい合い、杖を構えていないものの何か張り詰めたような空気に、生徒らはじっと二人を見つめた。スネイプの腕を組む動きにヘンリーは素早くしゃがみこんだ。何かがヘンリーの頭をかすめ、背後に当たるとヘンリーは身を翻しながら杖を振る。
「動体視力が優れているのだな」
ばしばしと音を立てて魔法が相殺されていく中、何でもないように尋ねるスネイプにヘンリーは視力は悪いんですけどね、と微笑む。無言呪文を使いながらの会話に、周囲にいる生徒らは固唾を飲むとごぉっ、という音ともにヘンリーの杖から出た火柱……インセンディオに驚き、スネイプのプロテゴと、焦げた草の煙を再び蛇に変えてヘンリーにむかわせる動きにレポートを書かなければならない生徒は根を上げるものも出ている。
ヘンリーが二人の間の地面をおそらくはコンフリンゴで粉砕すると、巻きあがった石がデパルソと思われる魔法でスネイプに向かって吹き飛ばした。それを難なくいなすスネイプはさっと動くと避けようとしてかくん、と力が抜けた足に慌てるヘンリーを抱き留めるように抱え込んだ。
「ここまでだ」
杖を弾いての無力化ではない終わり方にヘンリーは口をとがらせるが、無意識に酷使した足はいつの間にか限界だったらしい。スネイプが手を放すとヘンリーはへたりとその場に座って参りました、と笑う。再び拍手が鳴り響くとスネイプはヘンリーを起こそうとして、遮るように出てきた影に目を細めた。
「大丈夫かヘンリー」
「ありがとうドラコ。とっとっと!歩けるよ!待って待って恥ずかしいから!」
まったく、と苦言をこぼすドラコにヘンリーは久々で楽しかったと笑い……ぐいっと横抱きに持ち上げられて慌てる。暴れると落とすぞ、と言われてしぶしぶおとなしくなるが、恥ずかしさに顔を赤らめていた。そのまま控えていたポンプリーのもとに運ばれると足の状態を確認して無茶な戦法を取ったヘンリーはしかりつけられる。
それをじっと見ていたスネイプははっとしたようにして以上で無言魔法による模擬戦は終わりだと告げた。同い年のはずなのになんだあいつ、とある種の恐れを覚える生徒らはゴイルにおぶられたヘンリーを見る。
「実に素晴らしい模擬戦だった!いやぁ万全であればどこまでできたのか」
終わりと上級生らにレポートを再度言いつけるスネイプだったが、スラグホーンの声にそちらに目を向けた。実にいい戦いっぷりだった、とそう褒めるスラグホーンはおぶられているヘンリーの近くに行くとうんうんと誇らしげに頷く。
それを見ていたハリー達は……なんだか嫌な予感がして顔を見合わせた。スラグホーンのクラブに今後彼も招待されそうだ、と。さっさと城に戻るドラコやゴイルらもヘンリーがまた面倒ごとに巻き込まれたのではないか、と肩をすくめあい運ばれる振動でゆるゆると目を閉じたヘンリーを見る。
つい先ほどまで寮監相手にハイレベルな模擬戦を行ったと思えないほどあどけない顔に、ドラコはふっと微笑むとヘンリーの部屋には入れないからと自分らが使っている男子生徒の寝室に運ぶことにした。
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