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14:無言呪文の模擬戦

 11月に入り、10月の半ばに起きたケイティを襲った悲惨な呪いの事件から少し落ち着いてきたころ。惨憺たるありさまな闇の魔術に対する防衛術を見ていたスネイプは深々とため息をつき……不在のダンブルドアに代わってマクゴナガルに模擬戦をと申し出る。

「そうですわね。模擬戦などで実際の魔法を使った戦いを見せればどれだけ重要かつ、必要な練度が分かるでしょう。しかし、それほどの実力を持った生徒がいますか?」
 めぼしい生徒は見つかっているのか、というマクゴナガルにスネイプは少し考え……一人だけと答える。

「先日、ピーブズに対して無言呪文を当てて撃退している生徒がおりました。他の生徒に聞いたところ、以前から無言呪文を多用していたということで、熟練度は申し分ないでしょう」
 静かに切り出すスネイプにマクゴナガルは嫌な予感がし、居住まいをただす。少し警戒する様子にスネイプは少し迷い……さすがに知っておりますか、と口を開いた。

「彼ならばきっと十分な模擬戦を行うことができるでしょう」
「……そうですわね。確かにそうでしょう。ですが、あの子はいま原因不明の症状があります」
 それを考えると、と口を濁すマクゴナガルにスネイプはその件についてはと返す。あれから……ドラコが授業に出ていて、かつ自身が授業を持たない時間に調べた。なぜだか知らないが、調べねば、という焦りにも似た感情に突き動かされ、彼の症状に似た病気などの治療方法を探した。その結果、魔法を使うことに集中させると無意識に体中の魔力が引っ張られ、徐々に正常な状態に戻った事例があることを知った。
 それを説明するとマクゴナガルはどこか複雑そうな色の眼をし……マダム・ポンフリーの許可が下りれば、と模擬戦について承諾した。

「彼の体調を考慮して土曜に行いましょう。ところで、彼には話を通しましたか?」
 可能であれば、というマクゴナガルは天気が良ければ外で行いましょうか、という。それならば何も配慮せず魔法を使うことができる。そういえば、と大前提を持ち出したマクゴナガルにスネイプは無意識に目をそらし……これからだと答えた。


 ドラコと共に赤毛の青年が大広間で食事をする光景はもう見慣れた。どこかいらいらとした気持ちになるのはきっと気のせいだ、とスネイプは自分に気が付きどこか胡乱気な目をしたドラコではなく、背を向けている赤い髪のヘンリーに近づく。

「ミスターマクゴナガル。少し話があるのだがいいかね?」
 そう声をかけるとヘンリーは驚いて目をしばたたかせ、わかりましたと立ち上がった。一人で大丈夫か?というドラコに大丈夫と笑い返し、スネイプに続いて大広間を出ていく。
 ふと、スネイプが振り向くとヘンリーとの間がずいぶんと開いてしまっていた。あぁ、そうか、と待っているとヘンリーが慌てて歩こうとして杖を持ち上げたまま数歩かけるようにし……がくんと左足の力が抜けてバランスを崩す。とっさに抱き留めたスネイプはふわりと香る花のような香りに大丈夫かという言葉を飲み込んだ。
 薄く頼りないほどに軽い体。だけどどこか柔らかくて……。首を振るスネイプは転びかけた際に落とした歩行補助用の杖を拾い、ヘンリーの歩く速度に合わせて近くの教室に入る。とっさに抱き留めた時の手はそのままで、まるでヘンリーの腰を抱くようだ、と慌てて解放する。

「君の魔力が急に枯渇する症状について調べたところ、過去に似た症状があった際に魔法を使うことに集中することで症状の改善がみられたという報告を見つけた。君は……無言呪文を体得しているだろう。ピーブズを追い返すところに偶然遭遇した際、魔法は唱えられていなかった」
 調べてきた、というスネイプにヘンリーは驚き、お忙しいのにすみませんと慌てて頭を下げる。いや、わが寮生のことだから当然だ、というスネイプはなぜかヘンリーの眼をまともに見られず、少し目をそらしたまま告げる。そんな方法が、と感心するヘンリーは試す価値はあるかもしれないですねという。

「そこで、無言呪文を使った魔法使いの戦いがいかなるものか、模擬戦を行おうと考えているのだが、無言呪文を正確に使える生徒は今のところきみぐらいと判断した。我輩の相手となってもらえないだろうか」
 無言呪文が使えることは今は隠していなかったため、ヘンリーは素直に頷き……続けられた言葉に驚いて目をしばたたかせた。かつての記憶にはない催し物。でもそれでホグワーツ生の生存率が少しでも上がるのならば……。
 僕でよければ、と返すとスネイプは無意識のように微笑んでいて……ヘンリーの胸の奥がきゅっと痛みを発した。


 マダム・ポンフリーには何重にもチェックをされて、許可を得ると大広間の前に、無言呪文による模擬戦を実演することと、6,7学年は必ず参加することと、それ以外の学年は自由参加が可能という知らせが張り出された。

「この間スネイプ教授に呼ばれていたのはこのことか」
 張り出された紙を見たドラコがヘンリーに体調は大丈夫かと続ける。スネイプが言っていた治癒方法の症例についてを説明するヘンリーは金のブレスレットに手を置く。それを見ていたドラコはちらりとスネイプを見て……邪魔だな、とぼそりとつぶやく。
 首をかしげるヘンリーにドラコは何でもないと言って……それじゃあいっぱい食べて体力をつけないとな、とヘンリーの皿にマッシュポテトを追加した。






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