--------------------------------------------
13:いつもと違う魔法薬学
登校してきてから初めての魔法薬学。真新しい上級魔法薬学の教科書を手に教室に入り……ドラコに呼ばれて隣に行く。ザビニともう一人の生徒は別の場所にいて、ノットとドラコの3人の席となる。歩行補助用の杖を置いたヘンリーは入ってきたスラグホーンに目を向けた。
「おっと、君が例のヘンリー=マクゴナガルだね。君の魔法薬学の成績は……実に優秀と聞いている。さて、それでは君のお手並み拝見というわけだ」
楽しげな様子のスラグホーンにヘンリーは小さくあいさつをするように微笑む。やがて始まった授業でヘンリーは材料を確認し、何が必要かを見ると手早く下処理を行う。
「相変わらずだなヘンリー」
てきぱきとした様子のヘンリーにドラコはそっと声をかける。ずっと常備薬作っているからね、と返すヘンリーは教科書を見てその手順をざっと眺めた。書いてある方法ではなくスネイプに教わってきた方法で汁などを抽出するとかき混ぜる回数を確認し……少し考えた後、一回少なくして反対に一度回す。
「おや!これは本当にすごいぞ!魔法薬を生成するのに天才肌なのが2人もいたようだ!」
急にかかった声にヘンリーが顔を上げると、驚いた様子のハリーがこっちを見ていて……ハーマイオニーが怪しむように見ている。え?何?と考えて……無意識の失態に心の中で思わず叫ぶ。
「持病のための薬をいつも作っているので」
それでだと思います、と答えるもスラグホーンは聞いちゃいない。ハリーは……あの教科書にかかれている“半純血のプリンス”の手法を使っているに過ぎない。だが自分は……当人から改めて教わっていただけに、内心汗がだらだらと流れていくのを感じていた。
「ふーむ。全く遜色ないできだ!」
提出された魔法薬を手にしたスラグホーンはうんうん、と満足げに笑っている。すぐに教室を出たいがあいにくヘンリーの歩く速度は遅い。ヘンリーとハリーそしてハーマイオニーの出来を褒めるスラグホーンは実に優秀な生徒がいて嬉しいという。
フリットウィック先生やスプラウト先生はこの夏、ハリエットがヘンリーであることを伝えられ、いつでも守れるようにと頷いていた。だがスラグホーンは知らない。知っていたら……いろいろめんどくさくて仕方がなかっただろう。だがなぜだか知らないが、気に入られそうな……嫌な予感がたち込めるのは気のせいであってほしい、とヘンリーは願うしかない。
ドラコと共に教室を出るとそのまま大広間へと向かう。
「材料の準備やかき混ぜる方法が違うように見えた」
あれはなんだったんだ?と問いかけるドラコにあー、と唸るヘンリーは彼には言ってもいいだろうか、と結論付けてスネイプ教授との個人授業で教えてもらったんだ、と返した。
「鍋の大きさで考えるみたいなんだけど、生徒用の鍋だと少し小さいみたいで、既定の回数回すと、回転数が早くなって回数が多くなるみたいなんだ。だから、ものによるけど逆に回すことでそれを抑えて……。材料は新鮮なものなら書いてある通りでいいらしいけど、ほら、保管された材料だから」
回数とかは見て判断しているんだ、というヘンリーにドラコはなるほど、と頷きさすがに一朝一夕に身につくものじゃないなとため息をこぼした。ずっとやってきているヘンリーとでは経験に違いがある。
愚直に教科書通りにやるさ、と答え……ずっと気になっていたことを聞こうとドラコは顔を上げた。9月になってから様子のおかしいスネイプと……それと距離をとっている風のヘンリー。予感がして、ヘンリーの手を握った。
「ヘンリー、ちょっといいか」
聞きたいことがある、とヘンリーを中庭に連れていく。どうしたんだい?というヘンリーを見て少し息を吐いた後、誰もいないことを確認する。
「ヘンリー。スネイプ教授と何があったんだ?こんなにぼろぼろのヘンリーを見ても、何もアクションを起こさない。これまでを考えたらおかしなことだ」
そう告げられ、ヘンリーは苦く笑う。もう胸元には宝物はないというのに、無意識にそれを握るようにして……実はね、と口を開いた。
「この情勢で……かつて闇側だったスネイプ先生と僕が付き合っていることはあまりよくないかもしれない、とダンブルドア校長に言われて。始まりは僕からだった、先生は何も悪くないんだって必死に説得したんだけどさ、教師と生徒でしかも同性だなんて。先生は……教師を続ける代わりに記憶から僕は消されることになって、僕への罰としてその記憶を持ったまま、決して先生に近づいてはならないって」
ほら、頬にけがをしていた時に別れていたし、苦く笑いつつも口角がぴくぴくと震えるヘンリーにドラコはそうだったのか、と細い体を抱きしめる。辛かったな、というドラコにヘンリーは肩を借りながらうん、と頷く。
「夏休みに記憶を消したのか。うん、そうだな……。彼はそれに対して文句を言う立場じゃないんだ。それに……いや何でもない」
だから、と何か口ごもるドラコは一転してヘンリーの手を握って歩き出す。ヘンリーの足に配慮した速度で歩くドラコにヘンリーは小さく微笑んだ。君の手は彼が守るから安心して、と。
それからハリー達とは話していなかったが、似た方法で……ハリーの教科書を見ずに魔法薬を精製するヘンリーに何か言いたげな目が向けられる。気にしないヘンリーはハリーからの追及をかわし続けるしかなかった。
|