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9:再始動

 こつりと音を響かせ、ヘンリーは思わず立ち止まり、城を見上げた。来年は……まだどうするか決めかねているが、おそらくは学校に登校するのはこれが最後。来年は……無理だろう。だからこそ、ダンブルドアがいる最後の城を見ておきたかった。
 ホグズミードで別れたシリウスはこれからダンブルドアの命で行くところがあるとそういっていた。ダンブルドアはハリエットの記憶よりもとても忙しく動いている気がする。ちらりとシリウスから聞いた話では各国の学校に何かを申し入れているとか。
 それが疑問ではあるが、きっと彼はハリエットの未来にかかわることではない何かこの大河から離れた何かを操作しているのだろう。ハリエットではできない何かを。

 考えても仕方がない、と首を振って玄関の大扉をくぐる。出迎えたのは寮監ではなくマクゴナガルで、優しくハグをした後荷物は既に部屋に運ばれたことを告げ、大広間へとヘンリーを誘う。
 あぁそういえば6学年の最初もこうだった、となんだかおかしくなってヘンリーはちらりと笑うといったいなんだと振り向いた生徒の視線を気にせずスリザリンの机へとゆっくり向かった。歩行補助用の杖は歩くたびにこつこつとなるのは仕方がない。
 リハビリを重ねたように、なるべく急ぐと目の前に誰かが立ちふさがり、ヘンリーは誰かの足を杖で踏まないようにと気をつけてうつむいていた顔を上げる。

「おかえり、ヘンリー」
 そう声をかけてきたのはドラコで、ヘンリーの顔をじっと見つめていた。あぁそう、戻ってきたんだ、とヘンリーは実感して……遅くなってすまない、と笑い返す。いつものようにドラコの隣に座ると聞いていたよりも元気そうでよかった、と周囲から声がかかる。髪切ったんだな、という声に短くなったものの、いつもの青い石が付いたブレスレットにもなる髪紐で縛った髪にドラコの手が触れた。

「親父さんと大喧嘩でもしたのか?だいぶボロボロだ」
「まぁそんな感じ。大叔母様から毎週分の課題をもらっていたからそれで勉強していたけど……どれくらい置いて行かれたか不安だな」
 痩せてますます小柄に見えるヘンリーにドラコが言うと、ヘンリーはありがたくその誤解に乗り、そうなんだと頷いて見せる。毎週課題をこなしていたなら十分休めていないんじゃないのか、という声が上がり、ヘンリーは暇だったから大丈夫と笑う。


 まるで自分が遅れて入ってきたときのように、あの時とは違ってスネイプではなくマクゴナガルと共に入ってきたヘンリーにハリーは思わず言葉を失った。あの長かった髪が肩下でバッサリと斬られているのを見て、あの時引きずられていた光景を否応がなく思い出してしまう。何度も見た悪夢。一体どんな仕打ちを受けたのか……。自分のせいで、彼女がつらい目にあったことが何より胸に痛い。
 ごっそりと肉の落ちた体を見れば彼女がどれだけ痩せたかも容易に想像でき、スリザリンの机に向かう間ずっと杖の音が聞こえていたことから、足が本当に悪いのだとわかってしまう。ふと、気になってスネイプを見れば彼はどこか不思議そうな、そんな気配を漂わせてヘンリーを見ている。すぐにいつもの表情に戻ったが、その目は何か伺うようにヘンリーを見ていた。


 部屋にカバンとかおいてあるんだった、というヘンリーだが、今日は僕のを見せてやるとドラコがいい、周囲からこれ使いなと羽ペンと羊皮紙が渡され、ヘンリーはありがとうとそれを受取ろうとして……ドラコがまとめてそれを手にする。

「変身術と薬草学と……他に何か取っているか?」
「あとは魔法薬学と呪文学。確か今日はなかったと思うから……それじゃあよろしく、ドラコ」
 地下に戻って教室に行くにはヘンリーの速度では間に合わない。カバンを持ってきてもよかったが、うっかりカバンを部屋に持っていく荷物に入れてしまったためどうしようかと考えていたところだ。
 さぁ行くぞ、と言われてヘンリーはドラコと共に大広間を後にした。いつものクラッブとゴイルも続き、いつもよりゆっくりと教室へと向かう。さて階段頑張らないと、と気合を入れるヘンリーだが、ひょいとゴイルがヘンリーの肩を持ち持ち上げるように……いや体格差により持ち上げられてヘンリーは慌てて大丈夫だよ、と声を上げる。

「その様子じゃ半ばで抜ける階段とか上がりにくいだろう」
 ゴイルの代わりにこたえるドラコにヘンリーはなんかみんなに迷惑かけてしまうみたいで申し訳ない、というとゴイルは軽すぎて逆にふっとばしそうだ、という。

「そこまで軽くないと思うんだけどなぁ……。それじゃあお言葉に甘えようかな。もうしばらくすれば足は治るって聞いたから」
「あぁ、それでいいさ」
 さぁ教室についた、というドラコにおろされたヘンリーはゴイルにお礼を言うといつもの学校の風景に戻っていった。

 少し前から無言呪文が必須になってきたという変身術を受けながら、もうやっても大丈夫かとヘンリーは無言呪文を使いこなす。それを見ていたドラコはさすがヘンリーだと言い、肩を並べて授業を受ける。
 魔法薬学では最近はポッターが急に成績を伸ばした、と移動中聞き、ヘンリーはそこまでスネイプ教授が苦手だったのかな、と笑い……ハリーの手から本が離れた時期を思い出そうとする。春先だった気がする、と考え……そうだ、たしかあの本は燃えたんだ、と必要の部屋のことを思い出した。ならばあの本は……手元においても問題はないだろう。
 大切な先生の私物。お守りとしてもらっても大丈夫。そう考えて移動しようとして、くらっと眩暈を覚えた。

「ごめん、ドラコ、先行ってもらっていいかな」
 視界が明滅し、ヘンリーの体がふらつく。驚いたように慌てて支えるドラコだが、もしかしてこれが例の発作かとヘンリーを覗き見る。まだ変身術の教室を出たところだったため、すぐに気が付いたマクゴナガルが出てきて、後はこちらでとヘンリーを受け取った。
 薬草学には間に合わなさそうだな、とスプラウトへ伝えておきます、とドラコは監督生らしくマクゴナガルへ伝える。ドラコは椅子に座ったまま眠りに落ちたヘンリーをちらりと見て、行くぞとゴイル達に声をかけた。
 これも全部あいつのせいだ、と拳を握り温室に向かう。久々に会えたというのに……まだ満足に会話できていない、と唇を噛みしめた。




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