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8:梟の知らせ
ハリーはダンブルドアと約束した金曜日の夜になると、急いで校長室へと向かった。待っていたダンブルドアは夏にあった時以来だ。真っ先に聞こうと心に決めていたハリーは柔らかく微笑むダンブルドアを見て、口を開きかける。
「あの子は今、スナッフルズと共に例の家におる。体の調子もずいぶんよくなってきておるが……やはり足はまだ治らないようじゃ」
ハリーの顔を見るなりダンブルドアは小さく微笑んで先にこたえる。ハリエットがホグズミードの家でシリウスといることにハリーはほっとして、会えませんか?と尋ねた。
「10月からは予定通り登校してくる。だからそれまで待つのじゃ。今月出される課題などはスナッフルズと共に取り組んでおるので、授業にはすぐ追いつくじゃろう」
今は待つのじゃ、というダンブルドアにハリーは問いたいのをぐっと答える。ハリエットは……どうやって未来を知っているのか。ハーマイオニーの言うように本当に彼女は……。
ダンブルドアの授業というのはヴォルデモートの過去を知るという事。初めて見たゴーント家の姿にハリーは圧倒され、虐げられていたメローピーの姿に口をつぐむ。
なぜ彼女は愛の妙薬を与えるのをやめたのか。本当に愛していたから……。そう考えたところでハリーはハリエットがスネイプから離れ、記憶を消したことを思い浮かべた。本当に好きだからこそ、この先の未来の為に彼女は離れたのではないか。あるいは何か他の理由があって、それで……。
愛の妙薬はにおいを嗅いだだけだが、あの魔法薬を飲まされていたトム=リドルは覚めた時何を思ったのか。お腹の大きなメローピーに何を言ったのだろう。
校長室から戻る途中、ハリーはメローピーの偽りでも欲しかった愛と、それに耐えきれずにわずかな望みをかけてしまうほどの愛とは何だろうか、と考えていた。ハリエットのように未来の為にと手放せる愛は何だろうか。
ハリーにとって、好きな子に向ける思いで、そんな風になったことはない。今……ジニーを見るとドキドキはするが、それは好きなのか何なのかすらわからない。好きと愛は違うのか、それとも好きから始まり、愛へと変わるのだろうか。愛は……ダンブルドアの言うように冷静な判断を鈍らせてしまうのか。だから、愛をもって愛を抑えなければならないとでもいうのだろうか。
ハリエット、君は今どう思っているんだ?とハリーが夜空を見上げるとそこに梟が下りてくる。
「シーク!」
久しぶりだ、と腕にとまらせるとシークは咥えた手紙を差し出した。足に結ばず咥えてきたというのは彼女が近くに、ホグズミードにいるということハリーは嬉しくなって手紙を開く。
「予定通り10月になるから、最初の土曜に会おうって。そうだ、壊れているけどあのアクセサリーの破片返さなきゃ。ちょっと待って、確かここに羊皮紙のきれっぱしが……。あった!元気そうでよかった。それじゃあ土曜にあー……どこがいいかな。土曜の……そうだ、クィディッチの練習の後、更衣室にしよう。皆が帰った後は誰も来ないし」
中途半端な大きさの羊皮紙に書くとシークはそれを咥えて飛び立つ。ハリエットのシークはとても賢く、そして主人の秘密を守るために常に最善の行動をとっている。手紙を死守したヘドウィグのように、自分らの梟は本当にいい子でよかった、とハリーは遠く消えていくフクロウを見送って寮へと急ぐ。
「あぁシーク。お疲れ様。すまない、ハリエットは例の魔力が枯渇してしまう発作が起きて眠ってしまったんだ。最近はなかったから大丈夫かと思ったんだがな……」
フクロウフーズはそこにある、といって窓から入ってきたシークに示せばシークはシリウスをちらりと見た後ハリエットの枕元に向かい、体を丸めた。静かな寝息に合わせるようにシークは自分の羽根に顔を入れ、ゆっくりと呼吸をする。
その様子にシリウスはそっと笑うと窓を閉め、ハリエットのタオルケットをかけなおして犬に変化し、何かあればすぐ起きられるように一人掛けのソファーに丸くなり、少し離れたところからハリエットを見てそれから仮眠をとる。
きっと今日も彼女は悪夢にうなされ目を覚ますだろう、とそれをわかっているがためだが、少しでも長くハリエットが眠れることをただ祈るしかない。
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