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32:不可解な未来視

 フレッドたちのおかげでシリウスらと会話し……父と母と、スネイプの話を聞いた。シリウスもルーピンも懐かしがるばかりで……ハリーが欲しかった言葉はなく、反対に閉心術のレッスンを再開するようにとたしなめられた。

「無理だよ。それに……僕のせいで……あいつとハリエットもなんか微妙な空気になって。ハリエットが夢は覚めたって」
 それなのにいえるはずがない、というハリーにルーピンもシリウスも険しい顔をしていた。彼女に詳しく聞きたくともきっと彼女は黙っているだろう、とルーピンは目を伏せる。シリウスもまたスニベルスめ、と怒りに震えていた。

 ハリーの予感は魔法薬の授業で知ることとなり、大きくため息をつく。自分を無視するスネイプには正直ありがたかったが、ヘンリーもまた無視されているようだった。いつだって視線を向けていたはずのヘンリーに一瞥もくれない。
 集中してできた魔法薬は上出来で……ハリーは意気揚々とそれを提出した。

「あっ」
 ガシャン、という音と共に誰かが倒れた音が聞こえ、ハリーは驚いて振り向いた。ちょうど提出しようとしていたのか、落ちたハリーのフラスコを反射的にキャッチして、自分の分を割ったヘンリーが膝をついている。

 体を支えようと石畳に手をついたのかざりっ、と手のひらをざっくり切ったらしいヘンリーは、じろりと見たスネイプの眼に顔色を失い、途端に落ち着きを失い……ハリーのフラスコをスネイプの机に置くと逃げるように出ていった。
 ぎりっ、と奥歯をかみしめるスネイプは忌々し気にハリーのフラスコを見て、落ちて台無しになったヘンリーの提出物を見る。

 無言でマルフォイに傷薬を渡すとマルフォイもまたどこか不機嫌そうに教室を出ていく。ヘンリーはそのあとどこに行ったかハリーはわからない。
 
 ただ、もやもやが残り……ハーマイオニーはヘンリーとスネイプの様子に何かしら感じたのか、複雑そうな顔のハリーを見る。

「少し前にハリエットと話す機会があったんだけど……。夢は覚めたから安心してって」
 多分、そういうことなんだとおもう、というハリーにハーマイオニーは口元をおさえ、ロンはどういう意味だ?と首をかしげる。

「でも、ただの喧嘩じゃないかしら」
「こんなに長い間?ハリエットは前にもう少し夢を見させてって言っていたんだ。夢から覚めたっていうのは……。あいつが彼女が覚めたくなかった夢なのはすっごく嫌だけどさ!」
 恐る恐る尋ねるハーマイオニーにハリーは首を振った。それでロンもピンと来たのか、ハリーとしてよかったんじゃないのか?と言ってハーマイオニーに叩かれた。

 何だよ、というロンだがハリーの心境としては何とも言えない。スネイプと別れてくれたことは嬉しい。だが、ヘンリーはどこか魂が抜けている風で……見ていて悲しくなった。
 彼女は……どうしてスネイプなんかを選んだのか。あの話を知っているのか。父ジェームズを……そう考えて夏休みの時にハリエットが言っていた言葉を思い出す。父が傲慢だと言い放っていた。そう、傲慢だ。あんな父の姿見たくなかった。

 シリウスとの口論の時、彼女が一緒にしないでほしいと泣いていたことを思い出す。彼女はなぜ過去を知っているのか。たくさん聞くことがたまっていくばかりでどうにもならない。
 なぜ彼女は知っているのか聞きたくて仕方がない。


「そうだハリー。ずっと言いそびれていたのだけれど……。予見者についてまた調べてみたの。占い学の本では予見者についての話はあまりなくて。それでちょっと観点を変えて、ハリエットみたいな体験をしている人がいないかって」
 あまりにも強い力と代償が気になって、というハーマイオニーにロンはあの課題の合間に?と驚く。ちょっと時間ができたから、と苦く笑うハーマイオニーはじっと見つめてくるハリーを見る。

「まだ成果は出ていないけど、なんだかどこかで聞いた気がして……。それについてはごめんなさいまだ結果が出ていないの。けれど、調べているときに整理していたらなんだが不思議な共通点に気が付いたのよ」
 そういって羊皮紙を取り出したハーマイオニーはハリーから聞いた、賢者の石の話を書く。

「まず、どうして彼女が石のこと知っていたのか。そして、ハリーに代わってクィレルに魔法を放ったのか。だってこのことってハリーしか知らないはずじゃない?次に、ポリジュース薬。彼は私が猫の毛を入れて医務室にいるはずって言っていたわ。これも、私たちにしか知らない話よね。次にシリウスにお肉を届け、ワームテールが犯した罪もリーマスの秘密だって知っていた。これだっておかしな話よ。だってあの場にいたのはやっぱり私たちだけですもの」

 いずれもハリーがいた、というハーマイオニーに珍しくロンも頷く。未来が見えるという話なのに、とっさにマルフォイを守ろうとしたときは一瞬反応が遅れていた。バジリスクだって彼自身が怪我を負うことになった。

「でもどういう事なんだろう」
 なぜ彼女はハリーに関することなら何でも知っているのか。つかみかけたものが指から抜けていくようで、ハリーはうつむく。いつだって彼女は自分におきる事なら何でも知っていて……。ニンバス2000の時何と言っていたか。間に合わなかった、そういっていたはずだ。

「なんかまるで未来のハリーが今のハリーを先導してみるみたいだな」
 ぼんやりとつぶやくロンにハーマイオニーは逆転時計でも赤ん坊に戻るなんて無理よと笑い……。急に黙ると指を上下に動かした。何か思い出そうとするハーマイオニーだが、そうだ梟便は今使えないんだったわという。

「今のロンの言葉で思い出したの。昔ママがもっていた本で……私は架空の話に興味がなかったから読んでいないんだけれど、ある貴族に生まれた女性が協力者である男性に導かれて、最悪の環境から自由になる話。その男性は彼女に起きることは何でも知っていて……。そうだわ、あの話だと魔法使いだからっていう答えだったはず」
 あらすじを聞いていただけだから、というハーマイオニーは家に手紙が送れれば聞けるのに、と歯噛みし、題名を思い出そうと必死に考える。

「でもマグルの書いた本なんだろう?」
 そんな物語意味があるのかい?とロンは首をすくめて見せ、ハリーに同意を求めた。ハリーとしては全く無縁だったため、知らないが、幼い子ならだれでも知っているアーサー王伝説のマーリンが実在した魔法使いだったという例がある。
 ロンもそういえばそんな名前聞いたことがあるなと言い、魔法史をちゃんと勉強しなさいよ、とハーマイオニーが呆れる。

「それじゃあマグルの書いた物語の中にはそういう魔法界のことが書いてあるっていうのかい?」
「えぇ。たいていの人はきっと記憶修正を受けているんでしょうけど、まれに効きにくい人っているそうなの。そうすると夢とかでそれを思い出すけれど、あなたの言う通りマグルにとって魔法使いは架空の存在よ。それで思いついた物語を本として出して……。そしてロン、あなたのようにマグルの物に、という人たちが知るころには回収できないほどだったら?あきらめて架空の物語として広まっていたとしたら」

 ハーマイオニーの言葉にロンはなるほどなと頷き、黙ったままのハリーを見た。ハリーもマグルの中で育った身だ。ペチュニアおばさんがあんなにも神経質になっていたのは魔法を知っていたから。でも普通の人にとっては架空の世界だ。
 夏休みに入ったらすぐにでもその本を探してみるわ、というハーマイオニーにハリーは頼んだよ、と頷き一歩進んだ気がしてどこか心が軽くなる。
 きっと来年こそは彼女の負担を和らげられる気がして……。

「でも、ハリエットはあいつが好きっていうのはなんだか腑に落ちない」
 冗談じゃない、というハリーにハーマイオニーは笑って、いつか分かるって彼女が言っていたとかつての夏休みを懐かしんだ。もうずいぶん前の様な気がして……不安がジワリとにじみ出る。もうあんな平和な夏はこないのだろう。




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