--------------------------------------------


31:W・W・W

 ヘンリーは進路相談の為に重い足取りでスネイプの部屋を訪れた。そこにはアンブリッジもいて、ヘンリーは前を見ている風に装い、スネイプはずっとヘンリーの成績に目を落としている。

「魔法薬を作る仕事に就きたいと考えています」
 以前スネイプに尋ねられた時と同じように答え、アンブリッジはどこか面白くなさそうに羽ペンを立てた。マクゴナガル家を探っているようだが、ヘンリーは特にそれといったことを匂わせることはない。
 スネイプも特に気にしておらず、それならば魔法薬と薬草学の成績、それと呪文学を精進したまえという。闇の魔術に対する防衛術は一言も上がらない。ヘンリーはわかりました、というとどこかつまらなさそうなアンブリッジとスネイプを置いて部屋を出ていった。

 闇の魔術に対する防衛術を受講しないで済む他の仕事が思い浮かばなかったからだが、もしもの世界を考えてしまう。一緒に同じことを研究して生業としていたらきっと楽しいのではないかと。
 スネイプと授業以外で顔を合わせたのは久しぶりで、ヘンリーはアンブリッジがいてよかったと思える日が来るなんてと自嘲する。そうこうしているとフレッドとジョージがこそこそしていることに気が付き、ヘンリーはどうしたのか考え……あぁ、と微笑む。

「よ、ヘンリー。俺たちは旅立つことにしたんだ」
 ジョージの言葉にヘンリーは頷き、ストールありがとうとやっとお礼を言えた。何か仕掛けているフレッドはそういえばアンブリッジの部屋破壊したんだって?と問いかける。

「あぁうん。大っ嫌いだったからつい。安心して、箒は無事だよ。ついでに鍵を壊しておいたから、誰かがうっかりアクシオでも唱えたら一大事だ」
 やっちゃった、というヘンリーに俺たちが最初の破壊者になりたかったなーとフレッドが笑う。これがきっと二人に会う最後だろう、とヘンリーは悪戯専門店W・W・Wの創設者二人をじっと見つめた。
 あの時、彼らは一人になってしまった。だが大丈夫、とヘンリーは笑う。もう、その準備はできている。直接自分は関われないから、と道筋を決めておいた。

「ずる休みスナックも活用させてもらったよ」
「あーそういえば梟便が見張られる前に注文があったのヘンリーだったのか。追加がご入用の際はぜひともダイアゴン横丁まで」
 H.Pって書いてあったからてっきりハリーがハーマイオニーの目を盗むために梟を使ったのかと思った、というフレッドにジョージも頷き、ヘンリーに笑いかける。

「さみしくなるね。それと、外での実験。まさかあれが沼地の初期じゃないよね」
 足痛かったんだから、というヘンリーにジョージが驚き、あーだからか、という。二人にはあの罠の最初の体験者が誰か知っていてほしい、とヘンリーはあの小鹿が自分だと暗に示した。

「ハリーには悪いけど、俺たちが図らずも陰険魔王と初々しい姫の恋のキューピットになってしまったわけだ」
「そうか、あの時にヘンリーとは会っていたのか。それじゃあ結構長い付き合いだったな」
「母さんが毎日呆れていたよ。時々、あれは着眼点がいいって褒めていたこともあったかな」
 もうすぐ鐘が鳴る時間で、3人はくすくすと笑いながら目を細めた。マクゴナガル教授の感想、いつか聞きたいなというフレッドにいつか聞いてみればいいとヘンリーは返し……それじゃあね、と二人に手を振って別れる。


 やがて、我慢に我慢を重ねたフレッドとジョージはハリーがシリウスらと話すための時間を稼ぐため、そして自由を求めてあちらこちらでくそ爆弾を爆発させ、ねずみ花火を放ち……沼地を作ってと大暴れした。懐かしくて懐かしくて、ヘンリーはそれを正面扉の近くで見ていた。
 やがて箒を手にした二人は店の宣伝をして……ヘンリーの前を通って飛んでいく。大盛り上がりする城内でヘンリーは一人真逆の気持ちで二人の姿が見えなくなってもずっと見つめていた。カラカラと転がったビー玉はハリーという“正史”を並走し、次の段階に向かっていく。


 この日を境に様々なことが起きた。悪戯で一番だった二人に続きたい生徒が一斉に悪戯をして……アンブリッジ以外の教員は誰一人それを助けようとはしない。少し鼻歌交じりになるヘンリーはふらりと禁じられた森の近くへといった。
 そこで少しうろうろと歩いていると、蹄の音が聞こえて振り返る。

「ここで何をしている、呪われし星の子よ」
 森の奥から聞こえた声はどのケンタウルスか。彼らとの直接の会合はこれが初めてだ。ずっと遠巻きに見られていたのは知っていた。なにせ、星を乱す“流星(インベーダー)”だったから。

「特に。安心してよ。君たちが苛立つ星はもう尾を引き始めた。喜んで。あなた方が望む結果へ星は流れていく」
「我々が星の消滅を願っているとでもいうのか」
 苛立つ声にヘンリーはニヤッと笑う。

「ほかならぬ貴方たちが僕に言ったんだ。そしてそれを否定するのは、あなた達の星読みを自ら否定すること。あなた達が望む結果であり、あなたたちが星に強いたことだ。星を乱すなと」
 ヘンリーの言葉にたじろくのが感じられ、ざわざわと囁く声が響く。

「あなたたちは仔馬を殺さない。だけど、その仔馬にこの道を見せたのはあなた達だ。仔馬を殺さないという掟をあなたたちは10年前に破った。呪われし星の子よ、星を乱すなと」
 そう言い放てば蹄の音が多くなり、ざわざわと殺気立った様子が奥から伝わってくる。

「そんな言葉を言った覚えはない」
「でもそう願った。だからさっき言ったように、“あなた達、喜んで”とそう言ったはずだ」
 おそらくは後ろ足で立って地面を踏みしめたのだろう。大きな音が聞こえ、落ち着きなく結弦をはじくような音が聞こえる。

「先に掟を破ったのはあなた達だ。星のささやきから目をそらすな」
 言いたいことはそれだけ、といって反論を聞く前に背を向けていく。
「いいだろう、ハリー=ポッター。だが一つ読み違えている。我々は仔馬を殺しはしないが、それがどこへ行こうするか、それについては仔馬に任せている。たとえ、その先が崖であっても、我々は自然の摂理のままにそれを見るしかない」

 地を這うような声にヘンリーは振り返りもせず片手でひらひらと手を振って城へと戻っていた。はったりと想像。彼らの思考は厄介で、どうしても理解するのには難しい。
 だが、それゆえに同じぐらい先を見ているかのごとくふるまうことで、うまく情報が引き出せる……そう先輩から聞いたことがある。彼らが自分を歓迎していないことなどわかりきったこと。だから、それをうまく使ってみたが、これで少しはハリーに対する態度を和らげるだろう。

 少なくとも、自分を見張っているであろう運命という星は……再三彼らに囁いているはずなのだから。





≪Back Next≫
戻る