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27:疑心のティータイム
ヘンリーが校長室を後にし、上機嫌に去ってからまた時は流れ……ザ・クィブラーは瞬く間に広まった。当然のように入手したヘンリーはハリーの告白に嬉しそうに笑い、トランクの奥へとしまい込む。
あの日以降、ハリーとは全く接点がない。スネイプは……外に材料を取りに行く際、真っ黒なマフラーを巻いているのを見たことから使ってくれていることに満足した。この後のことを考えれば渡さない方がよかったかもしれない。だが、彼の誕生日にだけは何か贈りたかった。ずいぶんすぎてしまったが、渡せなかった理由もきっとわかってくれているだろう。
ハリーとのレッスンもうまくいっていないようだったため……ヘンリーは満足げに目を細め、OWLの勉強をする。そう、うまくいっていなくていいのだ。ハリーは好奇心からあの夢を見たいと、そう考えて……。
ヘンリーはハッフルパフの状況を見ていた。どこか迷う風の女子生徒を見つけ、さっと近づく。マリエッタはどうしようとうろうろしていて……やぁと声をかけた。
話術で人の心を開くのはそんなに得意ではない。だがきっかけさえあればと落ち着かないみたいだけど、どうしたんだい?と優しく問いかける。迷う風のマリエッタに最近君の親友が何やら怪しい動きをしているのに関係があるのかなとさらに問いかけた。
ぎくりと動く彼女を見て……近くにドラコ達がいるのをみつつ先を促す。案の定ドラコとアンブリッジが足を止めた気配を感じた。
「じっ実は……私、チョウに誘われて……。ハリー=ポッターたちが作ったDAという集団に加わっていて」
魔法省に反することをしているからママを裏切っている気がして、と泣き出すマリエッタにヘンリーはそれは大変だ、と背中に手を当て落ち着くようさする。
ヘンリーは、ハリエットは部外者ではない。創設者だ。だから彼女は密告したことにはならない。ヘンリーはそうか、と言って……真偽を確かめるために、次の集会がいつあるか知っているかい?と問いかける。
その後ろ手で……屋敷しもべ妖精を呼ぶために軽く杖で壁を叩いた。ひそやかな呼び出しに思った通りドビーが来て、慌てて陰に隠れる。
「今日、この後秘密の部屋で集まりが」
でも私もうどういたらいいかわからなくて、としゃくりあげるマリエッタにヘンリーは頷き……ドラコに目配せをする。アンブリッジとドラコ、そして立ち来たドビーがそれぞれいなくなるのを確認し、ヘンリーは深呼吸をするとうつむいたマリエッタに向かって杖を振った。
「いたっ!」
「あぁ、あのグレンジャーの考えることは陰湿だな。頬に傷が……。多分密告した人へのペナルティーかもしれない。幸い、彼女は呪いが苦手みたいでちょっと大きな傷だけど……。すぐハナハッカエキスを塗った方がいい。顔に傷が残ってしまう」
あの頭でっかちな女の考えることだ、というヘンリーにマリエッタは顔を青くして医務室に向かって走っていく。これで、彼女の顔の傷は最小限になり、なおかつハーマイオニーが施した呪文が原因とチョウが認識して……。流れは一切変わらない。
ほどなくして、ハリー達がつかまったと聞き、ヘンリーは校長室に行くようにと呼び出しを受けた。そこに入ればアンブリッジをはじめとした面々がそろっていて、驚いた様子のハリーをちらりと一瞥する。
「ハッフルパフのマリエッタ=エッジコムが酷くふさぎ込んでいるのを見かけました。彼女はどうしたらと困っていたので話を聞いたところ、ハリー=ポッターらが集めた未許可の集団への参加を強要されていると。泣きながらそう言っていました」
前を見て話すヘンリーに信じられないという目を向けるハリーにだから閉心術を覚えてくれ、とかつての自分にため息が出そうになる。
「わたくしも偶然その場に居ましたの。わたくしが出て聞こうと思ったのだけれども、ミスタ―マルフォイが彼に任せた方がいいと。わたくしが問いただせば彼女のお母さまにも伝わりかねないですからね」
実際彼は実にうまく聞いてくれました、とアンブリッジはにんまりと笑う。居合わせたファッジが彼女は今どうしている、と問いかけたためヘンリーは医務室ですと答えた。
「どうやら外部の人に話すと皮膚に異常が起きるみたいです。幸い、それを仕掛けた生徒の力量が足りなかったためか、切り傷で済んでいましたが……」
そう言い切ったところでヘンリーは自分の腕をつかみ……袖の中で強く爪を突き立てた。こうでもしないと体が震えてしまいそうな、そんな気がした。
「あの部屋が見つからなかったためか、会合自体は今日が初めてだったらしいです。それで怖くてと」
彼女から聞いた話は以上です、というとひどく混乱した風のハリーをちらりと見て……ファッジが君がそういうのならば信頼できる、と言い出す。ワールドカップの際、かの有名なマルフォイ家に招待された青年。彼を疑うことはマルフォイ家への信頼問題にもなりかねない、とそう判断したらしいファッジにアンブリッジは大臣がそうおっしゃるならと信じる。
一瞬アイコンタクトを交わすダンブルドアとヘンリーはすぐに目をそらす。そしてそのままハリエットの記憶通りダンブルドアが結成した軍団だと話が進んでいき……。一瞬走った閃光と同時にガツン、とハリーとヘンリーは互いに頭をぶつけ、目の前に星を飛ばした。
「ヘンリー、ミスエッジコムの顔の傷は残りそうかな?」
悶絶する双子にダンブルドアは思わずといった風に笑い、ぐいっとマクゴナガルに起こされるヘンリーに問いかける。
「僕が聞いたので問題なく。母さん、黙っていたのは悪かったけど……その、説教フルコース前の顔……」
先ほどとは打って変わった様子のヘンリーにハリーは戸惑うしかない。これは……確定的な未来だったのか。えぇあとでそうしたいのはやまやまですが、というマクゴナガルにヘンリーはぐぅ、と声にならない声を出して落ち込む。
「ミネルバ、ハリー。ヘンリーをそう責めずにいてほしい。時がくればわかる」
これからどうするのか、それを話すとマクゴナガルはハリエットがいかに綱渡り状態かを察してため息とともに優しく頭を撫でた。
ヘンリーを戸惑うように見るハリーを見ると、閉心術をみにつけるように、と言って……フォークスと共に姿を消していった。
アンブリッジに呼ばれたのはその夕方で、ヘンリーはポケットに忍ばせたトーチの片方を口に放り込む。
「あなたのおかげであの忌々しいダンブルドアをようやく排除できましたわ。ぜひお礼をしたくて呼びましたの」
ふふ、と笑うアンブリッジにじゃあ何で紅茶を入れているんでしょうかね、と内心軽蔑しながらお役に立てたようでよかった、と微笑む。ただ自分のせいで彼女は呪いを受けてしまったようなのが申し訳ない、というと不完全な呪文だったようで問題ありません、と笑う。
「貴方とは以前からいろいろお話をしたいと、そう思っていたの。ほら、あなた、ダンブルドアの部屋で何か話をしていたみたいだから」
何か気になってしまって、というアンブリッジに考える風にして、あぁと頷いた。それにしてもファッジの前では信じている風を装っていたが、自分を怪しんでいたのだな、とヘンリーは家庭の事情なのですが、と前置きを入れた。
「冬休みも帰省した要因ではあるのですが、育ててくれた祖父の具合が悪く、もし危ないということになったらば帰宅したい旨を相談していました。大叔母様……マクゴナガル教授から話を聞いているということで、OWL後にはなるものの、何かあれば適切な対応をと許可をいただきました」
すみません、個人的な話で、というヘンリーにアンブリッジはそういう事なのね、と大仰に頷き、お茶はいかがかしら?と促す。絶対真実薬入っている、とアンブリッジの机に置かれた小瓶が入室したときより減っていることに気が付いているヘンリーはそれじゃあと手に取った。すんすん、と匂いを嗅ぐヘンリーにあらへんなものは入ってないわよ、という。
「すみません、初めて飲むものにはちょっと気を付けていて。ご存じかわからないですが、魔法の力の制御がうまくできない体質で、ずっと薬を服用しているんです。その薬がちょっと癖のあるもので……愛の妙薬や元気爆発薬、ポリジュースや真実薬といった魔法薬と相性最悪で。特に真実薬は発作が起きるから飲むなと」
だから癖なんです、と笑いトーチを奥歯で静かにかみ砕きながらカップを傾ける。ぎょっとするアンブリッジにカップを置いて……ぶつぶつとしたものが体を覆うと痛みに顔をしかめた。
「こ、こうちゃ……何が」
苦し気に胸元を抑え、もうこの際だやってしまえ、とヴェンタスよりも強いヴェンタストリアを無言呪文で発動させる。狭い部屋の中、膨れ上がった風がアンブリッジをなぎ倒し、壁にかけられた猫たちが一斉に避難した皿を破壊する。
パニックを起こしているかのようにふるまうヘンリーにアンブリッジは落ち着くように言うがほとんど風の音で聞こえない。
絵の猫がどこかに伝えに行ったのか、ほどなくしてスネイプが現れるとヘンリーは風を弱めた。そのすきに抱きかかえるスネイプが目元を覆い、落ち着きたまえとそっと囁く。ほどなくして風がやむと、ヘンリーはぐったりとスネイプにもたれかかって気絶したふりをした。
「彼に何か飲ませましたでしょうか。発作が起きていたようですg」
ちらりと割れたカップに目をやるスネイプにアンブリッジはもごもごとちょっとお話をしたくて、という。ひとまずは彼に処置を施さねば、とヘンリーを両腕に抱え荒れ果てた部屋から出ていった。
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