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25:雨のバレンタイン

 渡せなかったな、と落ち込むハリエットは袋を机に置いてため息を吐いた。
 スネイプの誕生日、渡しに行こうとして……冬休みに勝手に帰省したハリー達に対する対策を話しに、スネイプのもとにドラコやアンブリッジが訪ねていて……あきらめるしかなかった。
 
 もうハリーの閉心術の練習は始まっているだろう。記憶を隔離するためにスネイプは毎回あの記憶を見ることとなっている。そのせいか、ピリピリとしている様子で……近づくことができなかった。

 先日、アズカバンで集団脱獄が発生した。もう安全な魔法界はどこにもない。
 やらなきゃいけない、というのはわかっている。だが、どうしても決心がつかない。セドリックのヒントを実行できなかったあの時のように、さぁ行くぞ、と思っても足が動かず、ハリエットはうつむいた。でも、と首を振って手紙を書く。これを書ききってしまわねば。


 バレンタインの日、ヘンリーは一人でホグズミードを歩いていた。スネイプにプレゼントを渡したい。だが、どうにもタイミングが悪く、未だに渡せていなかった。
 ハリーとのレッスンがうまくいかず、日に日にその負の感情が積もっているだけに、ヘンリーの姿でも近寄れない。
 ぽつぽつと雨が降り始め、ヘンリーは天を仰いだ。いつの間にか泣いていたのか、暖かなしずくがこめかみを流れていく。あぁもう最悪だ、と雨宿りできる場所を探して……走っていく少女が見え、ヘンリーはとっさに呼び止めた。
 うつむいている少女をどうして呼び止めたか、自分でもわからないヘンリーだが、それがチョウであることに気が付いて、びしょ濡れじゃないか、と民家の軒下に引っ張っていく。

「ほっといて」
「こんなに雨が強いんだ。少し雨宿りした方がいい」
 杖を振って水気を飛ばすヘンリーはチョウの服も乾かすと空を見上げた。雲の動きがはやからきっと少しすれば多少はましになるだろう。

「スリザリン生ね。私はクィディッチでこんな天候でも飛んでいるの。だから、こんな雨なんてどうってことでもないわ」
 うつむくチョウにヘンリーはふーん、と短く返す。ハリーと喧嘩したんだったかな、と思い出すヘンリーは降り続く雨を見て考えていた。
 やっぱり今日、スネイプにプレゼントを渡して……ダンブルドアに会いに行こう。

「貴方も何かあったのかしら」
「まぁね。ただ、やらなきゃいけないことははっきりしたから。それにしても、鈍感相手は大変だね、君」
 涙は服を乾かした時に一緒に消えた。だが、その顔は酷く傷ついていて、チョウは大丈夫かと問いかけた。それに対し、大丈夫だよ、と返すヘンリーは少し小ぶりになったことを確認して、それじゃあ、と駆け出した。
 かつて好きになったチョウ。だが、彼女はどこか頼りがいのある、寄りかかれる人が理想だったのだろうか。自分はいっぱいいっぱいで……彼女を支えることはできなかった。
 その点ジニーは自分のことは自分でできるような性格で……。一緒にいても疲れることもなかった。守る力も自信もなかったから……チョウとは相性が悪かったのだろう。

 スネイプは自分をしっかり包み込んでくれて、その腕の中がとても安心できて。つい、甘えてしまったほどだ。

 部屋に戻って目的の物を持つとスネイプの部屋を訪れる。ここ最近忙しく飛び回るスネイプはやはり部屋にはいなくて。それでもハリエットが開錠できるよう、施錠には魔法がかかっていた。
 静かに扉を開き、机の上にプレゼントを置く。ぐずぐずしている間にもうすぐ冬が終わって必要なくなってしまうマフラーを残して部屋を出ると施錠し、そのままダンブルドアのもとへと向かった。
 ハリーとももうずっと話していない。ドラコもヘンリーのそばにはいない。なぜか避けられている気がして……ヘンリーはスリザリンの中で孤立していた。
 マクゴナガルの姓を持っているがゆえにアンブリッジからマークされているのが要因だが、それは仕方がないこと。ポッター家でないだけかなりましな部類だ。

 去年までの騒動が懐かしいな、とヘンリーは廊下から空を仰ぐ。泣いている時間も、何もないんだ、と歩いていき……合言葉何だったかなと立ち止まった。





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