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24:犬猿の仲
すぐにハリエットの手を離したスネイプは、月曜の夕方から閉心術を覚えるためのレッスンを受けてもらう、とハリーに告げる。え、と言葉を詰まらせるハリーだが、ダンブルドアからの指示だ、と一蹴し、伝えたことは済んだとばかりにスネイプは立ち上がる。
それに対しシリウスはそれを口実にハリーに嫌がらせをするのではと疑い……スネイプと嫌味の応酬を繰り広げる。
「ふざけるな!スニベルス、お前がハリエットにちょっかいを出しているのは知っているんだ!ハリーもハリエットも、ジェームズの子だ!お前なんかが触れていいものじゃない!」
怒鳴るシリウスにスネイプも黙っていない。貴様には関係のないことだ、と一蹴し、ハリエットはリリーの子でもある、と言い放つ。ずきん、と胸が痛むハリエットはハリーに伝えたのなら行こう、と促し……二人の間に立って止めさせようとするハリーと顔を見合わせる。
二人のやり取りはだんだんとヒートアップし、杖を互いに突きつける。慌てて抑えようとするハリエットだが、スネイプにぐいと押しのけられ、足がもつれて思わずしりもちをつく。それでもスネイプは止まらない。
怒りで周りが見えていない、とハリエットは唇を噛み、懐から瓶を取り出すとそれを飲み込んだ。ちょうど扉が再び開き、退院したアーサー達が目の前の光景にぽかんと口を開く。
赤い髪の青年に姿を変えたハリエットはスネイプの正面に回ると行こうと促した。視界に入った赤い……リリーと同じ髪にはたと止まるスネイプの手を掴み、カバンを手に取ったハリエットは慌てて道を開けたアーサー達のそばを通り……冷静になったスネイプに引っ張られてそのまま玄関先で姿くらましで消えた。
えぇっと、と状況を把握しようとするアーサーにあいつこそ何なんだ、とシリウスは怒りを机にぶつける。彼女の保護者は実質マクゴナガルで、彼女が黙認しているのならば何も言う権利はない。
だが、とシリウスは拳を握り締める。そういえばハリエットが言っていたはずだ。シリウスもスネイプもみんな自分たちを混合していると。
ならばなぜ、と歯を食いしばる。なぜハリエットはスネイプの本性を知っていながらそばにいることを選んでいるのか、理解ができずただ憎しみだけが膨らんでいく。
「えっとさっきのは……」
「さっきのって、スリザリンの……ヘンリーよね?」
戸惑うアーサーにジニーが目をしばたたかせて、確認するように降りてきたロンに問いかける。言いよどむロンだが、ハリーはそれどころではない。スネイプと個人レッスンなんて冗談ではない。
それに、二人の大人げないやり取りのさなか、止めようとしたハリエットが押されて転んだ。仮にも、認めたくもないことだが恋人ならば何をやっても許されると思っているのか、と怒りに拳を震わせた。ふと、ハリエットがいた場所を見れば雌鹿のチャームが、ハリーと対になっているそれが、落ちていた。
姿現しで来たのはホグズミードの家で、ハリエットはカレンダーを確認して今2時間の薬を飲んだから、と一週間続く薬を飲むまでの日数を確認する。
「君がうっかり3回目のペナルティーを受けた、とそう報告を聞いている」
ぞっとするほど冷たい声にハリエットは震え、とっさに肩口を抑える。ごめんなさい、と謝る姿にスネイプは大きなため息をついた。
「顔色もあまりよくはないようだ。しっかり眠れていないとも。また窮屈な生活が始まるだろう。少し休みたまえ」
有無を言わさない力強さでハリエットを抱き上げ、そのまま寝室へと運ぶ。うなだれて落ち込むハリエットを寝台に乗せるとそのまま部屋を出ていく。
横になる気も起きず、膝を抱えてうつむくハリエットはちらりと部屋の隅にあるものに視線を移した。どうしても渡す気が起きず、体を縮めるようにさらに膝を引き寄せる。
ほどなくしてスネイプは湯気の出ている皿をもって戻ってきた。きょとんとするハリエットの前にトレー事置くと、支えるように背後から抱きしめる。
「少しくらいなら食べられるかね?」
耳元でささやくスネイプにハリエットは顔を赤らめ、こくりと頷いた。自分で食べようとして……後ろから伸ばされた手がカトラリーを手に取る。まさか、と目をしばたたかせているとスネイプは何も言わずスプーンにとったシチューをハリエットの口元に持ってきた。
すごく恥ずかしい、と困るハリエットだが、スネイプはどこか楽しんでいる気がして、おとなしく口を開ける。まるでハリエットの歯がどこにあって、どれだけ口を開けるのかわかっているように、歯に触れることなくスプーンが傾けられる。
「いい子だハリエット」
全部食べたまえ、と耳に直接吹き込むようにスネイプは囁き、一段と体温を上げるハリエットに口角を上げた。そのまま耳朶に口付けを落とし、ちぎったパンを口元に運ぶ。わざと唇の中に指が入るようにし、恥ずかしがるハリエットの口の中を一撫でして指を引き抜く。
意識しすぎてくらくらとするハリエットが解放されたのは最後の一口まで食べたところだ。スネイプは魔法で皿をテーブルに置くと、すっかり体温の上がった首筋を食らいつくように食み、赤い印を残していく。
恥ずかしさで震えるハリエットに上機嫌になるスネイプはそろそろ効いてきたころか、とうとうとと揺れるハリエットを抱きしめなおす。こてん、とスネイプに全身をゆだね、軽く絡めた指をそのままに眠ったハリエットはとても安心した顔で、抱え直したスネイプにすり寄った。
「ハリエット、私はきちんと、君を見ている」
うっかりについての詳細はわからない。だが、あのブラックとの口論だと、そう聞いて……ハリエットが怒ったであろうことを推測する。やたらと吠えるようになったのはハリー=ポッターがいるおかげな気がした。
奴は長年のアズカバン生活で親友とやらの死をまともに受け入れていないのではないか、と考えた。忌々しいほどに父親に似たハリエットの片割れ。
奴といるときの様な、そんな心境になっているのならば、迷惑極まりない。そしてそう考えているのであれば、リリーの空気をもつハリエットをそう見ていたのならば。
彼女がブラックと口論することになった原因についてはここ辺りが妥当だろ、と無防備に眠ったハリエットを抱きしめて髪をすく。
「愛している、ハリエット」
決して起きている彼女には言えない、重い鎖。だから、とスネイプはその鎖をあの細い体に巻き付けたくなくて……一回だけ囁くにとどめる。安心しきっている様子のハリエットに微笑み、彼女を抱きしめて横になる。今日は時間がある、とスネイプはハリエットのぬくもりを感じながら目を閉じた。
ずっと、こうして二人きっりで何もなく過ごせたらどんなにいいことか。ハリエットは赤い髪で……その柔らかな緑の瞳で微笑んで。
“セブ”
そう呼んでくれたのならば。
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