--------------------------------------------


21:襲撃されたアーサー

 クリスマス目前の最後のDA,の集まりの帰り、チョウとキスしたハリーはまだ夢見心地で……。なんてすばらしいのだと幸せなまま眠りについた。

 その夜、ウィーズリー氏……アーサーが襲撃される夢を見たハリーは駆けつけたマクゴナガルに事情を説明し、震えながらダンブルドアのもとへと向かった。それからは怒涛の展開で、怪我を負ったアーサーが無事発見され、ハリー達はブラック家の邸へとポートキーを使って移動していった。
 自分は蛇になってしまったのではないか、という考えがぬぐえないハリーは眠れず、シリウスと共に良い知らせが来るのをただひたすら待っていた。

「なぁハリー。彼女からなにか聞いていないか?」
 ぽつりとつぶやくロンにハリーはぎくりと体を震わせた。小さく聞いていないと首を振るとそう、と言って顔を伏せる。確かに、もしも最悪のことが起きるのであれば、もしも……。
 そう思っているとがちゃりとウィーズリー夫人が入ってきて、もう大丈夫ですよ、と声をかけた。ほっとするウィーズリー兄弟をみて、ハリーはシリウスを呼ぶ。自分が蛇になってしまったような、そんな感覚がしたと伝えるもシリウスは今は休むんだ、とハリーをなだめた。

「それと、ハリエットだけれどもこんな状況だ。ダンブルドアに言って冬休みこちらに来るよう伝えよう」
 その方が君も安心できるだろう、というシリウスにハリーは顔を曇らせるばかりだった。

 朝まで眠れなかったハリーは届いた荷物で着替え、聖マンゴ魔法疾患病院へと向かっていた。

「ハリエットと同じ能力が目覚めたっていう事なのかしらね」
 不思議そうなトンクスの言葉にハリーはわからない、と首を振った。もしもそうならば、こんな直近ではなく未来を見せてくれればいいのに、と唇をかみしめた。不安で不安で仕方がないハリーは早くハリエットに会いたい、と眉をひそめた。


 ハリエットのもとにその知らせが来たのはアーサーが襲撃された翌朝のことだった。朝からぶちぎれているアンブリッジを、どうしたんだ?と珍しくドラコも珍妙なものを見る目で見ていた。

「さぁ……。ウィーズリーの兄弟とポッターの姿が見えないことから何かあったんじゃないのかな」
 赤毛がいない、というヘンリーにドラコはまじまじとヘンリーを見てにやりと笑う。それに気が付いて一緒にしないでくれ、と笑い返すとちらりとハーマイオニーに目を向けた。マクゴナガルが何か伝えている風に見え、どこか落ち着いている。
 その日の夕方、ヘンリーのもとにシークが舞い降りてきた。手紙はマクゴナガルからだ。

「祖父からこの冬は戻ってきてほしいって。具合が悪いみたいだ」
 表情を硬くするヘンリーにどうしたのか、と問いかけるドラコにヘンリーは手紙をたたんで大きくため息を吐いた。どくどくと耳元で血潮の音を聞いた気がして……ぎゅっと拳を握る。
 もう、あまり時間はない。かねてからの計画を実行する、その時がもう目前なのだと、唇を引き結んだ。

「そんなに具合が悪いのか?」
 ヘンリーの様子から何か深刻そうなにおいをかぎ取ったドラコはそっとその細い肩に手を置いた。ヘンリーとしての設定で、祖父が育ててくれたようなもの、という事から心配しているのだとヘンリーは申し訳なく思いつつ、そうなんだと頷いた。

 今年は城に残るというドラコに分かれを告げ、ヘンリーは列車に乗り込むと手帳を取り出した。見せかけのカバンの中には今回は10年計画手帳も薬も入っている。寮といえども安心できないため、持ち歩くことにしたのだ。

 駅に着くとすぐに物陰で姿くらましをし、ホグズミードの家へと戻ってきた。もしかしたらハリエットが呼ばれるかもしれないため、途中で帰れば怪しまれるからとマクゴナガルに言われて。
 もうすぐダンブルドアがいなくなってしまう。その前に接触をして……やらねばならない。この先の未来において最も重要なことをハリエットは失念していた。だから今度はきちんと計画を立てて準備してきた。

 スネイプに会いたい、と写真を胸に抱く。ハリーがDAを発足した頃合いから会えなくなった。授業ではもちろん会っている。だが、アンブリッジが要所要所に現れるため、容易に会うことはできなかった。
 両手を握るハリエットはそっと目を閉じる。何度も、何度も考えた。闇払いに従事している際に計画を立てるときのように、図面に描いて何度もシミュレーションを繰り返してきた。その図面は毎回燃やして消し去っていたが、頭にはこびりついている。

 いろいろな方面から考えて、抜けがないことも確認した。あとは、ハリー達のめぐる“正史”の裏で全てがうまくいくよう、最初の球を落とさねばならない。その時一緒に彼がいたらどんなに心強いか。だが、いてはならない。最初の球を転がすための楔は捨てなければ。


 クリスマスの朝、ハリエットのもとには何も届かなかった。マクゴナガルも自由に動けず、ダンブルドアも動けない。そのうえシリウス達も動けず……。そっとハリエットは微笑んだ。もう心は凪いで、静かなものだった。せめてこれだけはしたい、と指を動かす。予感として、もうすぐシリウスの家に行く気がして、ほとんど寝ずにひたすらそれに打ち込んだ。

 いつでもいけるように準備していたハリエットのもとに不死鳥の羽と共にポートキーが届けられる。それはグリモールド・プレイス12番地で、ハリエットは最小限の荷物を持つとそれを動かした。
 現れた先は誰かの部屋で……ハリエットはため息をついた。何も変わっていない、懐かしい場所。物音に気が付いたのか、それとも事前に聞いていたのか、扉が開くとシリウスがよく来た、と声を上げる。

「今日来ると聞いていたんだ。クリスマスは……すまない、間に合わなかったんだ」
 にこりと微笑むシリウスはハリエットを見ると元気だったか、と抱きしめる。その声に気が付いたのか、ハリー達が顔を出し、ロンと目が合ったハリエットはとっさに目をそらした。どこか怒っている風にも見えるその目をハリエットは見返すことができない。

「ダンブルドアが君とハリーが対話できるように、と。そういっていたんだ」
 だから来てほしかった、というシリウスにハリエットはあいまいに頷く。その様子にまた後で話を聞こう、と言ってハリーを中に入れると外へと出ていった。

 沈黙が流れ、ハリーはそっとハリエットを観察するように見る。以前のように美髪、というほどでもない様子からスネイプに私的に会うことができていないのでは、と考え細い体に視線を移す。ここ最近満足に食べられなかったハリーよりも細いその手はぎゅっと握ったら折れてしまいそうで、ハリーは触れることができずにいた。

「ハリエット、アーサーさんは無事だよ」
 そう呟くもハリエットはこくりと頷くだけ。やっぱり知っていたんだ、とハリーは拳を握る。
「助かるって知っていたから?」
 ハリーの問いにハリエットは頷く。どうして、とハリーはハリエットの能力を呪いたくなった。どうして彼女ばかりが苦しまなくてはならないのか。

「最近……僕変なんだ。突然蛇になったみたいな気がして」
 違うっていうのはわかったんだけど、というハリーにハリエットは何か言おうと口を開きけて閉ざしてしまう。ハリエットはどこまで話すべきか、迷っているのではないかとハリーは辛抱強く待ってみた。
 だがハリエットは答えるのをやめたようで、静かに首を振る。そっちがその気なら、とハリーはだんまりを決めているハリエットになんとしてでもかけらでもいいから、と頭を巡らせた。

「そういえばハリエット、最近君……あいつのところに行っていないみたいだけど、なにかあったの?」
「まだ、何も」
 絶対何か言うはずだ、というハリーの推測通りハリエットは短いが言葉を発した。だがその回答にひやりとした緊張を覚え、ハリーは虚を突かれたきがして片割れを見つめる。

「まだ?」
「まだ」
 まるでこれから何かが起きるようなそんな言葉にざわざわと落ち着かない。だがこれ以上彼女から聞き出せないとふんで考える。今回の襲撃に関しては未来が変わってしまうかもしれない重大な何かだったのだろう。じゃあほかに、と考えたところで今話題にすべきじゃないけど、とじっとハリエットを見た。

「ハリエットはもうあいつと……その……キ、キスしたりした?」
 ドキドキと尋ねると想定外の質問だったのか、一瞬固まったハリエットは反射的という風にハリーを見てぼわっ、と顔を赤らめた。
「うそだろ!?だって……あいつと君、教師と生徒だよ!?なんだよあいつ、未成年のハリエットにキスするなんて!!」
 怒りだすハリーにハリエットはおろおろと顔を赤くしたままその、えっと、と繰り返す。だが怒ったのはハリーだけではなく、ばん!と強く扉が開かれ、怒り心頭といった様子のシリウスが伸び耳を掴んで震えていた。

「教師と生徒……あのスニベルスが……」
 わなわなと震えているシリウスにぎょっとしたのは2組の双子とその兄弟たちで、慌ててどこか行こうとするシリウスを引き留める。やっとのおもいで部屋に押し込めるとジニーは驚いた顔でハリエットを見ていた。男性教員は他にもいるが真っ先浮かぶほど年が近いのは一人しかいない。

「ハリエット、この間……早朝にあいつの部屋にいたのって……」
 どうしても確認したい、と小声で尋ねるハリーにいつの朝、とハリエットは上ずった声で口に出してしまい……。きゃ、とジニーは思わず口元に手を当て、にやにやしている兄たちを見る。ハーマイオニーもまさかという顔でハリエットを見て、なんて男かしら、と怒っている。

「いつの朝……まさかハリエット、あいつの部屋で寝ていたのか!!それも一回じゃなく!!」
 ぶち殺してやる、というシリウスにハリエットは慌てて飛びつく。
「やめて!あと少しだから、あと少しだけ、夢の中に居させて!」
 やめて、というハリエットをシリウスは驚いたように見る。まるで終わりが見えているかのような言葉にハッとして言うな、と声を荒げた。頭の中がぐちゃぐちゃなハリエットをぎこちなく撫で、ぎゅっと抱きしめると何か呪文を囁き、くたりと眠ったハリエットを寝台に運ぶ。

「ハリエット、ずいぶん痩せたわね」
 ぽつりとつぶやくハーマイオニーにシリウスは大きくため息を吐いた。まだ許せない、という顔をしているが、その手は優しくハリエットの頭を撫でていた。

「次顔を合わせたらただじゃおかない」
 怒っているシリウスはひとまずはこの手が離れるまで動けないな、と苦く笑う。まるで寝ている間にスネイプのところに殴りこむのを防ぐように、しっかり裾を握り締めているハリエットにシリウスは苦笑する。
 詳しい話が聞きたい、というジニーとロンに圧され、ハリーとハーマイオニーは別室に移動し、実はと口を開いた。




≪Back Next≫
戻る