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19:べべの言い分
DAのことについても考えねばならないハーマイオニーだったが、屋敷しもべ妖精のべべに言われた通り夜の談話室にいつもの3人で残っていた。そこにポン、という音ともに現れたのはべべと奇妙な格好のドビーで、気まずげにちらちらと見ては逃げようとしてベベにしっかりつかまれている。
「どうしたのよドビー!それって私が編んだ帽子や靴下じゃない」
驚いたハーマイオニーの言葉にその、ドビーは、ともごもごと被りすぎた帽子と重ね履きして大きく膨れあがった足を隠すようにもじもじと体を揺する。
「今この寮の掃除はすべてこのドビーが行っています。そのため、ドビーの時間はほぼありません」
きっぱりと言い切るベベにハーマイオニーは戸惑うしかない。どういうことなの?と混乱するように問いかける。
「あの子が昔話をたくさん聞かせてくれました。あなたはとても聡明なのだと。なのになぜあなたのエゴを押し付けるのですか」
はっきり迷惑だ、と言い放つベベにハーマイオニーは顔を赤くして違うわと言い返す。
「私はあなたたちの奴隷労働をどうにかしたくて」
「あなたはトロールに服を着せ、学校に通わせることが正しい、とケンタウロスに服を着せて魔法使いと共に働くのが正しいと、そういうのですね」
ドビーが逃げないようしっかり服を掴んでいるべべの皺だらけの顔を見て、ハーマイオニーはえぇっとそれはと言いよどむ。無理やりSPEWのメンバーになっていたハリーとロンも顔を見合わせて黙ってハーマイオニーとベベを見つめる。
「貴女がすべきなのは、私たちの生き方に口を入れるのではなく、あなた方魔法族の意識改革をすべき、というのではないでしょうか。少なくとも、たかが15歳の子供に500年以上も生きている私の生き方を否定される覚えなどないのです」
ひどく怒っている様子のベベにハーマイオニーは気圧され、唇をかみしめる。べべの言い分は前にハリエットがハーマイオニーに伝えていた言葉そのままだ。だから彼女はすべきではないと再三言い続けていた。
「もしかしてそれって……」
「いいえ。あの子はとても小さいころから気にしていましたが、べべがいまさら変えられないと言いましたし、否定してほしくないとも言いました。だからあの子は毎年クリスマスにダンブルドア校長と話し合われて布や糸をたくさん選んで送ってくれます。服を渡すのは失礼だと言って」
カッとなるハーマイオニーの言葉をぴしゃりと止め、彼女が小さいころからここにいて何も感じなかったわけではないとベベは言い放つ。身の置き場に困った風のドビーを見るハリーはそんなことしていたんだ、とベベの服の刺繍を見つめた。
「でもドビーをみてよ。彼は自由を手に入れたのよ」
「あなたは何を見ているのでしょう。私たちも個性があります。かつて、ハグリッドがベッドで何か飼おうとしていたことありました。リドルがいろいろと探っていたこともありました。赤毛のお嬢さんは幼馴染とよくいました。闇に落ちた生徒も、癒者になった生徒もたくさんいます。ドビーはたまたま理解してくれる方が雇ってくださり、自分をそのまま表現できるだけの変わった屋敷しもべ妖精です」
個性があるのだというベベにとうとうハーマイオニーは口を引き結び、うつむいてしまった。握り締めた手が震えていることからも羞恥と怒りと悲しみといろいろな感情が彼女の中を駆け巡っているのだろうと推測され、ロンは落ち着きなくべべとハーマイオニーを交互に見つめた。
「ただ、そのように案じてくださるのはとてもうれしいことです。少なくとも、あなたは私たちのことをどうにかしたいと……それはたとえまったく意味のないことであっても、そう思ってくれたことが魔法族の変化だと、私は思います」
その気持ちは嬉しいのだ、と表情を和らげるベベはハーマイオニーの膝辺りを軽くたたく。
「ただ、私たちはあなたが思うほど弱くはありません。だから、してあげる、とかやってあげなきゃ、とか……せっかく私たちのことを想っていてくださるのに、私たちを……はるか底辺の手を伸ばさなくてはならない弱者だと、そう押し付けてほしくないのです」
それをされると本当に腹が立つのです、というベベはハーマイオニーの手を掴み、ニコニコと笑う。ドビーのように始終怯えて顔色をうかがうのが屋敷しもべ妖精だと思っていたハリーとロンはさすが年の功なのか、と顔を見合わせる。
「とはいえ、私もすっかりあの子に泣きつかれて意識を変えさせてもらいましたので、ホグワーツの屋敷しもべ妖精の意識は少々他と異なっているかもしれません」
ハリー達より長く接し、そして生徒より弱くて守らねばならない幼子の言葉に少し考えはかわったのだ、というベベにハーマイオニーは顔を上げた。
「どうしましょう。私、彼女がそんなことをしていたなんて……全然考えてもなかった」
未来を変えてはならない、という制約があるにもかかわらず関わり合いを続けていたハリエット。彼女のここでの暮らしが垣間見え、ハリーは片割れを思い浮かべる。
変えるべきはそこじゃないと言っていたハリエットは自分を育ててくれた人に冷たくするような人間じゃないのだと、ため息をこぼした。それにしてもドビーと違ってベベはこんなにもはっきり言えるなんてすごいな、と思うハリーだが、それに気が付いたのかベベは少し上品に見える洋服をつまんで見せた。
「べべはあの子がここに来た日、ダンブルドア校長より衣服を受け取りました。マクゴナガル家の屋敷しもべ妖精になり、ここで引き続き仕事をしながらあの子を見守ってほしいと。だから、ベベの主人はマクゴナガル教授であり、正確にはここの屋敷しもべ妖精ではないのです」
ただ、今までずっとこの城に従事してきたことと、彼女が城にいることからも屋敷しもべたちの相談役をしてきた、とベベは笑う。
「そうだわ、完成品を置くのは嫌がる子もいますが、未完成品なら自分で何か作るかもしれないです。ミス・グレンジャーさん、その家の子がお遊びで洋服を上げても解雇されないように、今回はあなたがしつこかったから、ということです」
わかってくださったのならいいです、といってドビーを前に差し出す。えぇっとドビーは、というのをハーマイオニーは制して重なった帽子を靴下を魔法で呼び寄せ、ごめんなさいね、という。ぶんぶんと首を振るドビーはドビーは嬉しかったです、とにこりと笑った。
「あ、そうだドビー、べべ!たくさんの人が一堂に集まれて、なおかつ人に見つからないような場所……ないかな」
それじゃあそろそろ戻りますね、というベベとドビーを見たハリーは慌てて引き留める。振り向く二人にDAで集まれる場所、と声をかけるとどこかあった気がしますね、と顔を見合わせた。
「ちょっと探してみます。いい場所があったと思うのだけれど……」
あったはず、というベベにドビーも頷く。ひとまずはと和解したハーマイオニーに頭を下げて消えていく。
「今度彼女に謝りたいけれど……。会うのは難しいわね」
彼女にどれだけ負担をかけてしまったのかしら、と落ち込むハーマイオニーにハリーは何も言えない。ハリエットは一体どういう未来が見えているのか。彼女がスリザリンに入ったのは……もしかしたら今の状況に備えてなのではないか。そう思うと11歳の時から彼女はこの未来を知っていたのか、とハリーは唇をかみしめた。
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