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18:個人レッスン

 3人を見送った後ハリエットは目くらましを掛けて裏口から家を後にした。これからスネイプのもとで魔法薬をみてもらい、そのまま魔法を教えてもらう予定だ。スネイプのように杖をふるうことはできるのか。それは不安だが、練習すればきっと大丈夫だ。
そう考えて地下牢を降りていくとアンブリッジとはち会う。

「あら、ホグズミードは楽しかったかしら?」
 んっん、と甲高いような声でヘンリーの注意を呼び込むと、アンブリッジはどこか薄ら笑いのようなものを浮かべる。足を止めたヘンリーはそれなりには、と返した。

「最近ずっと部屋にこもっていたので、ベンチに座って空を見ていました。それと、魔法薬材料を買っていたので……僕は楽しかったですけど、それが正しい楽しみ方かはわからないです」
 OWLの勉強で疲れていて、というヘンリーにアンブリッジはそう、では十分体調管理にお気をつけて、と聞いたことのないほどに猫なで声でヘンリーに告げると階段を上がっていく。スリザリン生であり、成績も優秀なヘンリーであるために嫌な印象はないらしい。ぞわわわと鳥肌が立つヘンリーは何とか自分を抑えながら石壁の間を歩き……途中で早足になって魔法薬学の教室に飛び込む。

「本当にあの人、無理!!!」
 鳥肌が、とようやく誰もいない部屋に入ってホッとするヘンリーが思わず口にするとくつくつと笑う声が聞こえて驚いて肩を揺らした拍子に閉じた扉に頭をぶつける。

「ほかに人がいないかなど周囲に警戒するのが甘いのではないのかね?」
 奥の薬品保管庫から出てきたスネイプにヘンリーは顔を赤くし、思わず口をとがらせた。本当にこの子は迂闊だ、と笑うスネイプはこちらへ、とヘンリーを招く。屈んで口付ければ拒むことはなく、求められるがままに素直に舌を差し出す。

 愛おしいヘンリーの唇を堪能したスネイプは魔法薬を見せてもらおう、と手を差し出した。首筋まで赤くしてほんのり甘い匂いを放つヘンリーは慌ててポケットから魔法薬を取り出すと、スネイプにそれを差し出す。ふむ、と光に透かして色を確認し、振ってとろみを確認する。

「問題はない。しいて言えば少し色が濃いように見える。おそらくは材料の下準備に問題があるのだろう。材料の切り方を変えることでより質の高いものになる」
 ふむ、というスネイプに及第点か、と少し落ち込むヘンリーはこちらに来なさい、と作業台を示され、素直についていく。これはこのようにして潰すとより効率がいい、と材料の処理を教えてもらい……ヘンリーは何かを思い出しかける。材料の切り方、より効率のいい方法……。

「何か考えごとかね?ヘンリー」
 後ろから抱きしめられ、ハッとするヘンリーは同時に半純血のプリンスの本を思い出した。抱きしめる手にかぁっと顔を赤くするヘンリーはなんで忘れていたんだろう、とちらりと本棚を見る。

「その、こんな方法、先生が昔くれた本にもなかったから。どうやって見つけたのかなって」
 プリンスの本に書かれた方法は未来でもどこにも記述はなかった。どきどきと胸を高鳴らせながら問いかけると、少し考えるようにしてから学生時代に研究したのだ、と答える。あぁ、やっぱりそうなんだ、とヘンリーは思い出し……不埒な手に思わず体を震わせた。

「あまりかわいい反応をされるとこちらも困る。これから魔法を教えるというのに」
 笑うスネイプに誰がこんな風にしたんだ、という風に睨もうとして身をよじると屈んでいたスネイプの唇に不意打ちの様な口づけを落とした。思わず固まるスネイプに上機嫌になってふふふと笑い……ひょいと持ち上げられたことに小さく悲鳴を漏らす。

「教え終わった後、ゆっくり味わせてもらおう」
 煽るのはやめたまえ、というスネイプに煽ってない、と顔を真っ赤にして抵抗するヘンリーだが、口を塞がれ……すっかりとそれに酔いしれる。
 
「教えるとはいえ、私のやり方になる。というのも君もわかるかと思うが、奴が私に教えたのはやり方だけだ。あとは己で習得しろと。できなければそれまで、ということだろう。当時の私は……期待に応えることこそ忠実なしもべであると、そう信じて必死に模索し、形にしたものだ」

 だから少しわかりにくいところがあるかもしれん、というスネイプに大丈夫、とヘンリーはにこりと微笑む。なにせ……プリンスの本に書かれたスネイプの魔法をすぐ会得したのだ。だから、大丈夫。


 上半身を変えずに下半身だけを変化させるという事で、かなり危険だというスネイプにヘンリーは真剣な面持ちでやり方を聞く。アニメーガスの習得方法は葉を用いたものだったが、ヴォルデモートがスネイプに教えた方法はそういった煩わしいものがないようで、必要なのは魔法とロジック、そして使い方だけだ。
 ふむふむとメモした内容を確認するヘンリーは、かつての闇払いとして働いていた時の面持ちでぶつぶつと仕組みを理解すべく考え込む。かつて魔法論理学というのがあったが、勝手な魔法の開発や実験などを行う生徒などが後を絶たず、教える教授もとある事件以降ほとんどいなくなったとかでホグワーツではその記録だけが残されていたという。
 今はその学術などはあるものの、すっかり廃れた分野だ。ただ、様々な呪文の授業の中に組み込まれることで触れない生徒はいない。ヘンリーも闇の魔術に対する防衛術では好成績であり、プリンスの魔法も会得できたことから苦手ではない。
 あらかたその原理とスネイプの教えから一つ頷くとじっと見ていたスネイプの前で自分の考えが正しいか、それを確認するようにそれを試してみた。

 結果としては間違えではないが制御するところに問題があり、大丈夫か、と覗き込むスネイプに大丈夫です、と弱弱しく答えるしかできなかった。

「原理は多分あっていると思うんですけど……」
 ぶつけた頭が痛い、とひっくり返っていたヘンリーはスネイプの手を借りて起き上がる。怪我はないか確認するスネイプはほっと息を吐くと、そうすぐ身につくものではないとヘンリーを抱きしめた。

「だが、考え方は正しい。スリザリンに5点加点してしんぜよう。これについては制御を覚える、というのが最も難しいものであった。人目のつかぬところで……できれば倒れても大丈夫なところで練習するように。本当は私が最後まで見ておきたいのだが……」
 褒めるべきかわからないが筋はいい、というスネイプにヘンリーは嬉しそうにはにかみ、練習の注意事項に確かに、と頭をさすった。スネイプの歯切れの悪い言葉に、先ほどアンブリッジとすれ違ったヘンリーはわかりますと頷いた。

「先生が一人の生徒を特に見ているとなれば……それもマクゴナガルの姓を持つ僕を見ているというとさすがにアンブリッジ……先生らに目を付けられると思います。大丈夫です、先生の迷惑にならないよう、ホグズミードの家とかで練習します」
 困ったように眉を寄せながら答えるヘンリーにスネイプは少しニヤリと笑ってからわかっているのであれば、と頭を撫でる。だが今は、とそのまま引き寄せ唇を重ねるとその細い体を抱きしめた。




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