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7:陰謀の裁判
早朝に目を覚ましたハリエットは素早く支度を済ませるとシークを呼んだ。素早く手紙を書くと時間と場所を書いただけの手紙を託し、ローブを頭からすっぽりを被って家を後にする。
忌々しいほどに腹の立つ時間と場所を、思い出した瞬間すぐにメモをしてよかった。そう思って姿現しで直に魔法省へと移動する。フードで顔を隠した小柄な姿に怪しむ目が向けられるものの、ハリエットは黙って守衛のそばを通り抜ける。一瞬目を向けられるも、以前神秘部に出向いた際次回からはこれをつければいいと渡されたバッヂに気が付いてすぐに視線を外した。
神秘部はこうして素性を表したくない預言者などが安全に訪問できるよう、専用の復元不可なバッヂを望むものに渡していると言っていた。もちろん極秘であることと、血をもって登録したもの以外が身に着ければ、けたたましい悲鳴が上がるというのだから抜かりはない。
神秘部にたどり着くとそこには何名かがおり、バッヂに気が付いて責任者を呼びに行く。ほどなくして現れたのは以前ハリエットを見てくれたもので、フードを下したハリエットにわかりましたと頷き、奥から預かったその日が刻印された封筒を手に持ってきた。
もうじきに8時というところで走る音が聞こえ、ハリエットは黙ったまま再びフードを被ると扉を開ける。その後ろに2名ほど神秘部の無言者が深くフードを被ったまま続き、大法廷へと向かった。
その途中、ダンブルドアと合流し、視線で頷きあう。フィッグばあさんが不安げにしている横で立ち止まると中に入るダンブルドアの背中を見つめた。不気味にも見えるハリエットら3人に怯えているようで、ちらちらと見上げているがハリエットはこれからのことに集中して気が付かない。
ダンブルドアが中に入ってからほどなくして扉が開かれ、パーシーが姿を現した。彼の予想より多い証人に驚いた様子だが小柄な人物の後ろが無言者とわかってどこか軽蔑するような目を向け、中へ、と愛想なく言う。
フィッグばあさんはあぁわかったよと返すがハリエットは何も返さず、それどころか軽蔑したような目でじっとパーシーを睨みつけた。
中に入るとハリーは鎖の鳴る椅子に座っていて、不安げに振り向いている。入ってきたのはフィッグばあさんと……フードを被っているものの、瞬時に片割れであることに気が付いて、嬉しそうに口角を上げ……何か思い立ったのか不安げに見つめる。
先にフィッグばあさんが証言するも、スクイブという言葉に笑い、まともに相手しない。下がってよろしいという言葉に逆らえず下がり……今度はハリエットが前に進み出た。
「ハリエット=リリー=ポッター。本尋問の……いえ、裁判といった方がよろしいでしょうか。そのハリー=ポッターの双子の片割れです」
フードを下し、淡々と述べるハリエットに、会場がざわつく。一体何の用だ、という言葉にハリエットは一つ私のことを信用していない方がいるので、と無言者の一人に視線を送り、封筒を議長に提出した。
「こんな無駄なことにかかわっている時間はないのだが」
そうわめくファッジを冷たくみてから、刻印されているに日時が去年の物であることと、公式にサインされていることを確認させ、中を開けさせた。
「2枚目はファッジ大臣に。1枚目を議長、読み上げてください」
まだ読まないで、と子供を諭すようにいうハリエットに侮辱されたとファッジは顔を赤黒くし……ハッと息をのむマダム・ボーンズは咳払いするとその1枚目の羊皮紙を読み上げた。
「1995年8月リトル・ウィンギング市にて、吸魂鬼2体に襲われるも、守護霊を出し追い払った。しかし、そのような根拠はないと未成年の魔法使用による違反としてコーネリアス=ファッジ大臣主導のもと尋問会が行われる。当日、場所と時間を変更し、その連絡を誤って開廷5分前に届ける。証人フィッグ氏がスクイブと発覚したとたん法廷内は笑いが聞こえ、老婆を侮辱する」
震えるマダム・ボーンズが読み上げ終わるとファッジが顔色を失い、その隣にいるアンブリッジが身を乗り出した。
「未来を見た私の主観が入っておりますが、どこか誤りはありますでしょうか」
日時こそないものの、年と月、そしてハリーの主張である数と一致することにざわざわとどよめきが走る。
「こんなもの、でたらめだ!!大体、開廷5分前とは……なんという侮辱をするのだ!!」
「ではマダム・ボーンズ、公文書の発行日時を今すぐ開示してください。よもやそのような大事なものを記録に残さない方法で出す魔法大臣はいないでしょう。そして、その記録がない手紙には何の意味もありません。さぁ、どうぞお確かめください」
怒鳴るファッジに対して静かに返すハリエットにハリーは驚いていた。夏前に言っていた本来彼女が想定していた夏に合う予定の……“びっくりする場所”というのを思い出して彼女の能力に震える。
ファッジに視線が集まる中、当の本人はどういえば切り返せるか考えている風だ。
「ファッジ大臣、先ほどの手紙をお読みください。それでもまだこの無駄な尋問をするというのならばよろしいですね?」
手の中でくしゃくしゃになった羊皮紙を示せばファッジは震える手でそれを開き……ハッと顔色を白くさせた。横からちらりを見ていたらしいアンブリッジも顔色が悪い。
吸魂鬼を誰が命令したのか、そしてその目的は……。わざと名前を書きかけてイニシャルに直した後を残した手紙を読み……まるで言葉の通じない何かを前にしたような目でファッジはハリエットを見つめる。
「では大臣、自然発生したと思われる未観測の吸魂鬼、あるいはこれこそ馬鹿げていますが、レシフォールドがいたため、やむ終えず魔法を使ったハリー=ポッターは無罪という事でよろしいでしょうか」
私からの証言は以上ですが、記憶の開示を求めるならばいくらでも応じましょう、とハリエットはフードを被りなおした。固まったまま何もしゃべらない大臣にちらちららと不信の眼が向けられ、ハリエットもまた好機の眼が向けられる。
この日のためだけに10年計画帳に詳細を思い出しては書いていたハリエットはローブの中、ブレスレットを握り締めた。その後ろで役目を終えた無言者たちが去っていく。
「ファッジ大臣?いかがいたします?」
恐る恐るといった様子のマダム・ボーンズの言葉に弾かれたように体を揺らし、ぐしゃぐしゃにした手紙を机に叩きつける。その顔はまた赤黒くなっていたが、ぐるぐると何か高速で考えているのか顔色はぐるぐる変わる。
「よろしい。では、予見者の未来視が正確であることと、彼の証言が正しいと。結構、無罪放免」
怒りを押し殺したような声で告げると法廷内はどよめきが広がる。彼の態度の変わりようと、去年に今年のことを言い当てた少女に、信じられないものを見たという風なささやきが聞こえた。
これにて閉廷という声にハリエットはほっとして……クラリと立ち眩みを起こす。その体を素早く支えたのはダンブルドアで、城に戻るところじゃというと足元のおぼつかないハリエットを支えて出口へと向かう。
その痛ましい姿に少女にとってこの法廷は怖かっただろうという声が囁かれる。
一度も目を合わせなかったダンブルドアに憤りを抱えるハリーはハリエッットに声をかけるタイミングを逃し、さらにはここから出ていいのか迷い……外へと出た。すでにハリエットとダンブルドアの姿はなく、代わりに心配そうなウィーズリー氏が待っていた。
ダンブルドアと共にホグズミードに戻ったハリエットは憔悴しきった様子で、ふらふらと歩く。
「未来は変えていません。ただ、ハリーを一刻も早く出してあげたかった」
あの法廷は今思い出しても怖い。ベラトリックスとクラウチJr.らが裁かれた……あの大法廷での尋問など、子供を入れる場所ではない。
あぁまたこの子は彼の心の傷になる様なものを自らが出ることで最小限にしようとする、とダンブルドアは彼女を家ではなくホッグズ・ヘッドに連れていくとアバーフォースに頼んで奥の部屋で休ませる。
「あんたの考えはわからない。だが、こんな年端も行かない少女も利用するのだけは我慢ならない」
立ち去ろうとするダンブルドアにアバーフォースはわからないと首を振る。それに対し、ダンブルドアは少し振り返って……これはすべて彼女が望んでいることじゃ、というとホグワーツに向かって消えていった。
やせ細った少女の姿が……かつての妹を思い出し、アバーフォースは扉を閉めた。彼女のことは……ここに来るならず者たちの会話からも知っている。未来を知る予見者。その言葉に2度も大事な家族を奪った男の姿を思い出して顔をしかめる。
あの男は“他者を蹴落としても崇高な自分の目的”の為にその力を使った。彼女はどうだろうか。“自らを犠牲にしても他人のため”に使っているのでは、と思い……目が覚めた時の為にとシチューを作り始めた。
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