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3:伯母
あの日以来、スネイプは恐らく死喰い人らの集まりがない時であろう日にホグズミードの家にやってきて、ハリエットの作る食事を食べ、一緒にシャワータイムをし……体をつなげなくとも下着姿で抱きしめあい朝を迎える。
朝起きて食事をとって行ってらっしゃいのキスをして……半同棲カップルのような日々にハリエットは閉じた扉を見つめながら、こんな幸せな日々を送ってもいいのだろうか、と俯いた。
疲れ切った様子のスネイプは今年、ハリエットの誕生日を祝う余裕はなかった。マクゴナガルも魔法省とホグワーツとの軋轢によって自由に身動きが取れない。暖炉はハリエットの安全のためにとダンブルドアがかけた魔法により現在は使用不可になってしまった。
だから今年は生まれ変わってから初めて……一人静かな誕生日を迎えることとなった。何ともない一日を過ごし、課題を片付けて……。急に心細くなって夕食もそこそこに寝室に入り、明かりを消して目を閉じた。
今頃ハリーは誰にも情報を与えてもらえずにイライラしているだろう。怒って怒って……周囲を傷つける。そのせいで……余計にみんなが疲れている。
ハリエットはかつての15歳の夏をふいに思い出し、みんなごめんと俯いた。気分は最低だ。
それと同時に、初めて祝ってもらえなかった誕生日だが、そもそもハリーの時は祝ってもらった方が少なかったのだ。それなのにたった一度抜けただけでなんて贅沢なんだ、と今度は今いるハリーに謝る。もう自分にできることは本当に少ない。
スネイプが姿を見せなくなってから幾日。元気のないハリエットだが胸騒ぎがして、夕食も作らずに何かを待つようにじっと座っていた。ぴりぴりとした予感にもしかしたら、と思ったところで突然火の気のない暖炉に一瞬火が付き、手紙がひらりと届く。
素早く手に取ったハリエットはその日だった、と思い出すとローブを被り素早く家を出て姿くらましをする。すっかりと暗くなった懐かしいプリベット通り。迷うこともなく目的の家に向かうとノックすべきか迷い……そっと扉を開いた。
言い争う声は懐かしく、胸が痛い。少し待っていると吠えメールが届いたのかダンブルドアの声が響く。しんと静まり返ったことを確認し……意を決してリビングに入ると怯えたダドリーと座り込むペチュニア……そして侵入者に気が付いて顔色を変えるバーノンと戸惑っているハリーが一斉に振り向いた。
事態を落ち着かせてほしい、というダンブルドアの手紙にため息をつきたいハリエットは勝手に入ってごめんなさい、とフードを下した。
「ハリー。あなたが暴れないようにと。今はおとなしく部屋に戻って」
過去の自分のしりぬぐいなのだから仕方がない、と割り切るハリエットにハリーはポカンとしていて、ほら早く、と追い立てられるのをされるがままになる。
何がどうなっているのか、という風のハリーに後で説明すると送り出すと、ダンブルドアは一体何をさせたいのかとリビングに視線を送った。突然ハリーと同じ顔の少女が現れたことにダドリーもバーノンも状況が分かっていない。ただ、ありえないものを見るようなペチュニアの眼だけが違っていた。
「ハリエットなの?」
ぽつりとこぼれるような声で問いかけるペチュニアに、ハリエットは驚いて目をしばたたかせた。ダドリーもバーノンも事態が飲み込めずにハリエットの顔を凝視する。
「ペチュニアおばさん、私を知っていたの?」
父ジェームズがシリウスに話したように……もしかして母リリーが言ったのだろうか。そして彼女はハリーだけが預けられたことから死んだと思っていたのか。ぼんやりをした様子のペチュニアは小さくうなずくしかできない。
あぁ、ちゃんとここに親族はいたんだ、と実感するハリエットはぐっと唇をかみしめた。あふれそうになる感情を何とか閉心術で抑え込み、バーノンとダドリーに目を向ける。
「初めまして。ハリーの双子の片割れ、ハリエット=ポッターです。訳があって生まれた直後から養母のもとで育てられました」
ハリエットがそう名乗ると事情を知らない二人は何も反応できず、訳知り顔のペチュニアをみる。どこまで事情を聴いているのかは知らないが、ペチュニアは目を閉じ、えぇ知っているわとつぶやく。
「今回はハリーがダドリーを焚きつけてしまったがために巻き込んでごめんなさい。6月にあった事件でハリーはすぐ隣にいた友人を殺され、ヴォルデモートの復活もその目で見たんだ。ダドリー、君が聞いた寝言はその時のことで、ただ邪魔だからと殺された……その時の悪夢。そのあと、ハリーは大人の魔法使いに囲まれて殺されかけた」
話しているうちに思い出したハリーとダドリーのこと。確かそんな話だったはずだ。本当に死んだのか、というダドリーにハリエットは頷く。魔法使いに関していい印象を持っていないバーノンは顔色を失い、やはりあいつは追い出すべきだと言い出す。
「バーノンおじさん、それは意味がない。あいつらは……魔法が使えない人を蔑んでいる。ハリーがいてもいなくても関係なくあいつらは襲ってくる。けど、今はハリーを守るため、騎士団がこの家ごと守っています。あと数年で全て終わりますから、どうかハリーをこのままいさせてください」
ハリーがいるからこそ、親族であるこの家は守られている、というハリエットの言葉にバーノンはただ顔色を悪くする。ペチュニアは何か言いたげな顔でハリエットを見つめ、あなたはどうなの、と問いかけた。
「私は……。私はハリーと違ってお母さんの、リリーによる魔法がないから、また隠れるだけ。だから、大丈夫。あ、そうだダドリー。まだ体が冷えていると思うから、チョコを食べるといいよ。吸魂鬼に遭遇した時は魔法界でもチョコレートをとることが推奨されているから、ぐっと気分がよくなると思う」
私が持っているのは魔法界のお菓子だから、というハリエットにダドリーはまだ信じられないものを見るように見つめる。ん?と首をかしげるハリエットになんだか変な感じだ、と初めて口を開いた。
「私はお母さんから目の色だけを受け継いだからね。ハリーと違って父さんに目つきは似てしまったからなんか違うのかも」
今日はちゃんとワンピースだったから余計に変なのかも、と考えるハリエットにダドリーはそうじゃないけど、なんか変だ、と繰り返した。よくわからないハリエットはとりあえずダーズリー家の3人が落ち着いたことを確認して、もう大丈夫かなと今度はハリーのいる部屋を見上げた。
「ペチュニアおばさん、ハリーを引き留めてくれてありがとう。彼はまだ子供だから……今の状況に苛立っているだけなんだ。ちょっとハリーと話してきます。終わったらすぐ家をでるから……騒がしくしてごめんなさい」
すぐ帰ります、というハリエットは返答がないことを了承ととらえて階段を上がっていった。
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