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61:揺れる列車にて
セドリックに対する追悼が終わり、誰もが緊張した面持ちで列車に乗る。いつも通り3人と一緒になるヘンリーは今までと違う空気を味わい、窓の外を眺めていた。
気が付けば3人はどこかに出かけていて、ヘンリーは何があったかな……と考え……クラゲ足、とそのワードだけを思い出す。ついでにハリーにマントを返しに行かないと、と立ち上がったヘンリーは少し歩いたところでバンっ!という大きな音を聞いてため息をついた。
廊下に転がっているのは顔からクラゲの足をはやしたドラコ達。顔には踏まれた痕もあってやれやれと杖を振る。この狭い中一人ひとり運んだ方がいいな、とゴイルを浮かせ、コンパートメントに戻った。
ごろりと転がしたまま今度はクラッブを連れて戻る。ドラコを浮かせたところでがらりとコンパートメントが開いて、開けたフレッドと顔を合わせた。
「さっきからごそごそ音がしていたけれど」
「そういや君はこいつらと同じコンパートメントにいつもいたんだったな」
ジョージまで顔を出したために中にいたハリー達がヘンリーを見る。あら、と声を上げたハーマイオニーはそうだと席を立ち、赤毛から覗く耳に口を寄せた。
「ねぇハリエット、誕生日にレシピ本贈ろうと思うんだけど、希望とかある?」
たまたま目があったロンと顔を合わせながら聞くヘンリーはレシピ本?と問いかえす。そうそう、と頷くハリエットになんでまた、と思うがレシピと聞いて一瞬浮かんだ妄想にぱっと顔を赤らめた。それを見てロンが何やら睨んできたが、構ってなんかいられない。
「だってもう5年生よ、私たち。あなたのことだからもしかしたら卒業とともに……って思ったらそういうの欲しいんじゃないかって」
練習と言っても夏ぐらいしかできなさそうだし、というハーマイオニーにヘンリーは目を泳がせ、イングランド中部、と小さく答える。
「できればイングランド中部の……料理があると……いいな」
かつて母とスネイプが暮らした地域。そこの料理があれば……。別れなければならないこともわかっているが、それでも、もしもできるのならば……。それに、今年の夏はホグワーツで過ごすことができないため、マクゴナガルらに相談しどこか仮住まいしなければならない。一度くらいは招いてもいいだろうか。
「ハリーにこれ返してもらっていいかな。なんかロンがすごく睨んできているから」
ぼそぼそと会話する二人とハリー達の間に立ちふさがる双子はにやにやしながら耳に何か……伸び耳の試作品と思われるものをつけてヘンリーたちの会話を盗み聞いている。小さくたたんだマントを手渡すと、ハーマイオニーはそれを受け取り、またね、と手を振る。
あーもう、恥ずかしい。そう考えながらドラコを連れてコンパートメントに戻り……向かいの椅子と床に転がした二人を見て、これしかないかなと座った自分の膝にドラコを乗せる。杖を振って解呪すると今度は踏まれた顔に魔法薬を塗った。
ドラコもいちいちハリー達に喧嘩を売りに行かなければいいのに、とため息をつき、顔にかかった髪を指でよけた。ドラコもいろいろ葛藤があったのだろう。そう思うと、放っておけない。
「だから、彼にはちゃんと恋人がいるのよ。それでその人に贈るものの相談で、数占いの授業の時にちょっとね」
怒るロンにハーマイオニーは違うわ、と答えると隣に座ったハリーの手にマントを押し付ける。あぁ、と受け取ったハリーは何考えているんだか、とドラコ達を回収するハリエットにため息をついた。
フレッドたちとバクマンのトラブルを聞いて、ハリーは今年会った大人たち、ほとんど消えてしまったなと感傷に浸る。セドリックは……。
「あれ?」
あの時、最初に出てきたのは……直前に殺されたセドリックではなく老人だった。確か……あの時、老人が出る前に緑の明かりが出て、それから……。それを思い出すハリーはセドリックの冷たい手を思い出し彼は死んだと、とぐるぐる考える。ハリエットが何か関わっているのか。
何が起きているのか、とハリーはマントをトランクにしまおうとしたところで賞金の袋を見て……まだワイワイと言い合っている二人を置いて、フレッドとジョージを読んでコンパートメントの隅による。そして、二人の悪戯専門店の資金として、そのお金をまるまる手渡した。
「二人はハリエットのこと知っているんだろう?もしできるなら、彼女に何か変装用のグッズを送ってもらえないかな。彼女、魔法薬を毎日飲んでいるから心配で」
あの地図をもらった時、二人はヘンリーとハリエットを結び付けていた。だから、そう声をかけると二人はにやりと笑って、最優先で送らせてもらうよ、と答える。
「彼女にはいろいろ世話になったからな」
「それにしても未来の義理の家族があいつとは恐れ入る」
おどけて見せるジョージにフレッドもうなずいて、冗談じゃないと怒るハリーに笑いかける。それにしても二人とヘンリーはどこかで接点があったのか。彼女に聞いてみよう、とハリーは列車を下りた。
遠くの方でドラコ達と歩くヘンリーが見えたが、その一団は手を振って別れる。そして彼とハリーの間に人が通り過ぎた一瞬でヘンリーの姿はまるで煙のように消えていた。
その光景を見たハリーはロンに呼ばれながら、何か、何か不吉な予感がちりちりと頭を焦がすのを感じた。なにか、大切なものを見落としているような、そんな胸騒ぎを駅の雑踏に置いて、ハリーはマグルの日常に戻っていった。
ムスカリで紡ぐ不器用な花冠 第四学年 終
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