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56:運命の結果

 ファッジ仲たがいし、シリウスとスネイプが握手を一瞬交わし……スネイプは背筋をこわばらせてどこかに消えていく。それらを見送ったダンブルドアはマクゴナガルとともに応接間へと向かった。
 どんな呪いかわからず、触れることさえもできずに泣き伏せる夫妻をいったんポンフリーが連れていき……。寮監であるスプラウトが残った。ほかに人がいないことを確認したダンブルドアは何かをつかむとそれをはがす。

「ハリエット!!」
 あぁ、と声を上げるマクゴナガルはぐったりとしたハリエットを抱き上げ、気絶しているだけかを確かめる。それを見たダンブルドアはセドリックに杖を向け、フィニートと唱えた。
 咳き込みながら体のこわばりを解いたセドリックはダンブルドアにハリーは嘘をついていないと詰め寄る。死んだと思っていたセドリックに驚くスプラウトは、気絶した少女を見比べ、予見者がどういうものか、それが分かり息をのむ。
 起き上がったセドリックに、マクゴナガルははっとしてハリエットの肩口を見た。

「アルバス、花が……」
 まさかというマクゴナガルにわかっておるとダンブルドアはうなずいて、改めて話を聞きたいと起き上がった、死んだはずの生徒に問いかける。ぎこちなく動くセドリックをスプラウトが支え、未だ動揺している風のセドリックはその手に励まされるように口を開いた。

「ハリーと優勝杯に触れた途端、見知らぬ墓地に飛ばされました。そこで突然体が動かなくなって……そこに死の呪文が。倒れたところにその子が覆いかぶさってきて。動けはしなかったですけど、一部始終が聞こえていました」
 恐ろしいことにヴォルデモートは復活した、というセドリックは気絶している少女を見た。彼女がいなければ死んでいた。その事実に震える。彼女に聞かなければならん、と言ってマクゴナガルが抱えた少女にダンブルドアは杖を向け、リナベイトと唱える。

 目を覚ました少女はあたりを見て、マクゴナガルがのぞき込んでいることに気が付くとハッと起き上がり、自分を見るセドリックを視界に入れた。

「生きてる……変えられた……助けられた!」
 あぁ、と口元に手を置いてぼろぼろと涙を流すハリエットは信じられないとつぶやく。できるんだ、できたんだ、というハリエットはこれ以上ないほどの幸せに未来を変える確信を得て体を震わせる。

「彼はあの場で死ぬのじゃったな」
 口を開くダンブルドアにハリエットは何も言わず頷く。ハリエットがしていることは間違いなのかもしれない。死ぬはずだった人物を生かしているのだから。
 それでも、とハリエットは喜びに体を震わせる。努力すれば……スネイプも助けられる。それが分かったことがとても大きい。シリウスも、みんな、みんな……。


「セドリック、君に選択肢がある。一つ目はこのまま生きていたとして過ごすこと。二つ目は別人として学校に戻り卒業すること。三つ目はここを出て別の道を行くことじゃ」
 自分が死ぬはずだった、と聞いて息をのむセドリックはダンブルドアの提言に眉を寄せ、黙ってその意味を考える。このまま暮せばよいというのに、なぜ3つ選択肢出すのか。

「一つ目は選べません。僕が生きていると知られれば両親ともども危険にさらされるでしょう。二つ目は……二つ目も選べません。僕は……不正などを働くことができない。本当はもっとちゃんとハリーに卵の秘密を伝えるべきだった。ハリーはドラゴンがいると具体的に教えてくれたのに、僕は躊躇ってしまって曖昧なヒントしか渡すことができなかった。だから、自分を偽ることができない」
 慎重に、状況を見て口に出すセドリックは最初に元の生活に戻ることを切り捨てる。え、と顔を上げるハリエットをダンブルドアは視線で抑え、セドリックを静かに見つめる。

「では三つ目を選ぶというのじゃな」
「はい。ハリーが策略で誘導されていたとしても、彼はドラゴンに生身で立ち向かい、最初についたにもかかわらず、みんなを待っていてくれた。僕は自分の宝とされた人を優先するばかりで、残された少女を放っておいてしまった。僕が14歳の時にそれができるかと聞かれたら、そんなことできるわけがないだろうと笑い飛ばすでしょう」
 戸惑うようなハリエットを見つめ、口開くセドリックはふっと笑いかける。君たち二人の勇気に僕は負けていたんだ、というセドリックは改めてダンブルドアに目を向ける。

「ダンブルドア先生、きっとこの先闇の勢力は拡大していくと思います。だから、僕に戦うための備えをさせてください。できることならば、師を紹介してもらいたいです」
 真剣なまなざしでそう言い切るセドリックをハリエットは戸惑いながら見つめるしかできない。助けた後のことを考えていなかったハリエットをマクゴナガルは静かに抱きしめ、事の成り行きを待つ。
 ダンブルドアは深くうなずくとすぐに手配しようという。スプラウトも自寮の生徒が選んだ選択を黙って聞いている。彼女もこれが安全だと頷いており、不安げなハリエットに深く頷いて見せる。せっかく生きていたというのに、と眉を寄せるハリエットにダンブルドアはこれが最善じゃという。

「ハリエット、君が見た未来に彼はいない。そして、その先の未来は君の知らない、何が起きるかわからないものじゃ。できうる限り君の知っている未来に近づけるのが最も良い、とわしは考えておる。大丈夫じゃ、君が助けたという事実は変わることがない。そしてそこにはヴォルデモート卿に殺された、セドリック=ディゴリーという青年はいないというゆるぎない事実じゃ。ハリエットの知る未来を終えた後が真に望むべき世界じゃろう」
 今は堪えるのじゃ、というダンブルドアにハリエットはぐっと奥歯をかみしめた。そんなハリエットの肩にセドリックは手を置いて、僕は生きているという。

「ありがとう。両親は少し悲しませてしまうかもしれないけれども、一時だ。闇の勢力さえ退けられればあとは僕自身の人生だ」
 笑いかけるセドリックにハリエットは何も言えず、頷くしかできない。自分がやりたいからと助けたがために……彼の人生は彼のものなのに。
 ひとまず偽装するために、と用意した石に魔法をかけ、先ほど横たわっていたセドリックの像をマクゴナガルが用意する。セドリックは呼ばれてきた癒者、として変装することとなった。
 
 ハリエットは再び透明マントを被り、そっと部屋を出る。追いかけようとしたマクゴナガルだが、ハリエットの行き先に思い当たり、足を止めた。今ホグワーツ内に危険なものはいない。

 アロホモラ、と唱えて開いた扉に体を滑り込ませると、ハリエットは寝室に入った。そのまま主のいない枕を抱きしめ、横になる。今頃彼は闇の帝王に忠誠を誓いに行っているはずだ。
 不安で眠れないハリエットはじっと扉が開くをの待つ。何かあった時にハリエットが逃げ込めるよう、ハリエットの魔法で開錠するようにしてもらったスネイプの部屋に、その夜部屋の主は戻らなかった。







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