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55:闇の復活
フラー=デラクールの悲鳴が聞こえ、役人が助けに行く。胸騒ぎがして観客席を見上げれば先ほど見つけておいた赤毛の少年がいない。冷たいものが背筋を流れ、痛みが増す闇の印に思わず動揺する。
ふと、ムーディがせわしなくあたりを見回していることに気が付いた妙に引っかかるものを覚えつつ、探しに行きたいのをこらえて周囲を警戒する。ほどなくして優勝杯に近づくハリーとセドリックの名が呼ばれ……いったいどうしたんだ?と驚く声が上がった。
スネイプの位置からでは迷路の中は見えない。ルード=バクマンも優勝杯周辺しか見えないらしく、ただそれが消えたという事だけを伝える。消えたハリエットと、消えたハリー。
何があったとダンブルドアを探しに行けば黒犬がしきりに何かを伝えようとマクゴナガルのローブを引っ張っていた。そこに駆け寄れば犬は低く唸り、スネイプを威嚇する。
「ヘンリーが消えました」
そう言うとマクゴナガルははっと息をのみ、黒犬を見下ろす。頷く犬はどうやらどこかに行く彼女を見たらしい。踵を返し探しに行こうと人気のないところに入ったところで闇の印が尋常ではない痛みを発した。
死喰い人時代に味わったそれは召集の合図。彼女の安否のために行きたいのを堪え、ダンブルドアのもとに行く。
闇の帝王が戻った……。
カルカロフが視界の端で逃げていくのが見え、馬鹿な奴だと息を吐く。闇の帝王から逃げられるわけがないというのに。
「セブルス、分かっておるな」
スネイプが顔を白くして現れたことにダンブルドアは察したらしく、じっと見つめる。もちろんだと頷くスネイプは消えたハリエットを思う。もう彼女を傍に置くべきではない。
そこにざわめきが変わったことに気が付き、ピッチに向かう。そこには倒れたハリー=ポッターとセドリック=ディゴリーの姿があった。何があったのか、わずかに動いているハリーとは異なりディゴリーは動かない。まるで石像のようだ。
必死にダンブルドアに縋り付くハリーを落ち着かせ、集まってきたファッジらと人だかりになる。傍に行き、ディゴリーを見れば色が付いた石像にも見え、眉をひそめた。触れてはならぬ、という声に手を下げ、ハリー=ポッターがいないことに気が付いた。
「ムーディじゃ!あやつを追わねば。セドリック=ディゴリーを担架に。強力な呪いによるものじゃ……何人も触れてはならぬ。彼を応接間に。わしらは奴を追わねば」
担架を作り出し、セドリックを乗せると布を被せる。ハグリッドを呼び運ぶよう手配するとダンブルドアはマクゴナガルとスネイプを率いて闇の魔術に対する防衛術の教授室へと向かった。
狂気じみた顔で闇の帝王の復活についてききだすムーディは歓喜の声を上げ、ハリーは信じられないものを見る目で見つめた。闇払いの彼がどうしたというのか、混乱するハリーに計画はすべて順調だったという。ただ、一つ不安要素があったと。
「この目をもってしても姿がはっきりと見えないあのヘンリー=マクゴナガルとかいう小僧。地図に名前が載らず、こちらを見透かすような目で見てくる奴だ。そこでもしやと、あれこそが例の女、ハリエット=ポッターなのではないかと俺は考えた。だが、異性に変装しているのだとしてもその動きにはまるで怪しいものがなかった。おまけにこちらの動きを読んでいるかのようになかなか尻尾をつかませない」
こちらの計画がばれているのではないかと危惧もした、というムーディにハリーは自分のしてしまった失態に背筋を震わせた。もしも、もしも花を表示させていたら……ヘンリーがハリエットだと気づかれてしまったかもしれない。
「お前の片割れ、ハリエット=ポッター。未来を見るとかいう力を持っていると聞いたが、そんなことはどうでもいい。あの女はお前にそっくりな顔だ。お前を捕まえ損ねたとしてもスペアとしてあのお方に差し出したかった。謎の力で守られているお前と違って、噂通りであれば何の守護もない小娘だ」
捕まえるのは簡単だ、というムーディにハリーは怒りに体を震わせた。ヴォルデモートと言い、目の前の男といい、ハリエットのことを何だと思っているんだ、と。
「第2の課題であの女がお前の宝に選ばれると思ったが、どうやらダンブルドアにその可能性はつぶされたようだ。あの小娘は呼び出せないと」
まったくもって腹立たしい。そういいはなつムーディはまぁゆっくり考えればいいとそういってハリーに杖を向けた。
扉を吹き飛ばし、失神呪文でムーディは気絶し……険しい顔のダンブルドアとマクゴナガル、そしてスネイプが乗り込んでくる。そこでマクゴナガルに黒犬を校長室に連れていくことと、ウィンキーを連れてくることを言い渡し、スネイプに真実薬を持ってくるよう言う。
戸惑うハリーにダンブルドアはこれはムーディではないというと、トランクの中の牢屋のような空間でぐったりした本物のムーディを見つけ出した。
やがて戻ってきたスネイプの薬によって偽ムーディ……クラウチJr.の真実は暴かれ、ハリーは疲れきった頭でハリエット、と片割れを思う。この一年、彼女は知っていたのだろうか。
そうだ、彼女はセドリックのこと、と顔を上げたハリーにダンブルドアは何か考える風にして……大丈夫じゃという。
「彼女は大丈夫じゃ。境界の近くで間に合わなかったと泣いている彼女をフーチ先生が保護したと、そう連絡を受けておる」
安心すると言い、というダンブルドアにハリーはほっとして……スネイプを見る。彼はいつも通りの無表情で、何を考えているのかわからない。
そして校長室にいるシリウスと再会し……ダンブルドアの言葉に勇気を奮い起こして何が起きたのかを話す。ヴォルデモートが蘇ったこと……見知らぬ老人とバーサが出てきた話をし……両親が出てきた話をする。セドリックの亡骸を連れて帰ってほしいと言われたと。
「そうだ、母さんが……僕ら二人に罪を負わせてしまったって……」
どういう意図なのかわからない、そう口に出すとダンブルドアはどこか憂いを含んだ目で遠くを見つめ……今はわからなくともよい、という。
今日は休むといい、というダンブルドアに従い……ハリーは医務室へと向かった。そしてそこで事態を信じたくないファッジと、ダンブルドアとの間で仲たがいが起き、クラウチJr.は死の接吻により死よりもひどい状態となった。
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