--------------------------------------------
53:一人目
とうとう……とうとうこの日がやってきた。目を覚ましたハリエットは緊張する手を握り締める。自分がこの世に生まれ戻ってきた意味をなす最初の一つ。お守りにとスネイプからもらったピンキーリングをはめ、何でもない風を装い朝食に向かう。
かつては免除された4学年目の試験。テストは順調で、問題なく進んでいく。ムーディは相変わらず魔法の目でヘンリーを見つめるが何か警戒するように近寄ってはこない。彼は魔法の目についての詳細を知っているわけでない。下手に近寄り暴かれては困るのはクラウチJr.だ。
地図を見ればヘンリーの名前がないことにはきっと気が付いている。もしかしたらハリエットの居場所について何か勘付いたかもしれない。彼はとても用心深く、そして用意周到だ。この最後の課題の時に何か仕掛けてくる可能性も否めず、ヘンリーは出るタイミングを考えていた。
夕食後に行われる第3の課題……。ヘンリーのタイムリミットまでは少しあるために出たほうがいいだろう。だが、どこかで抜け出さなくては。この日の為に先週ハリーに頼んで透明マントを借りていた。
言い分はスネイプと喧嘩しているから会いたくないという理由で。スネイプと喧嘩しているならもちろんいいよ、と貸してくれたハリーに少し申し訳ないと思いつつ、スネイプには試験に集中するから会えないと伝えてある。スネイプと喧嘩なんてハーマイオニーの一件以来していない。
「なんだこれは」
会場がクィディッチ競技場と知り、中に入ったドラコは開口一番に不快気に声を発した。それを聞いてクラッブとゴイルも同意し、ヘンリーはすごいなと声を上げる。
人の背丈よりも高い生垣でできた迷路は中の様子も見られない。だからこそ、クラウチJr.は動きやすかった。かわいそうなのはフラーとクラムだ。彼らは利用され、邪魔された。だから本来はこの大会の記録は残すべきではない。
フラーに至っては第2の課題に続いての失格だ。学校でいたたまれなくなってなかっただろうか。そう考えて、いや、彼女ならばそれすらもはねのけるだろうと首を振る。
彼女にとって周囲の反応なんて目に入らないのだ。うらやましいな、とヘンリーは内心でつぶやく。自分は……いつでも振り回されてしまった。そして今も。
「時間は大丈夫そうかヘンリー」
席に座るとドラコが訪ね、ヘンリーは時計を見た。スネイプにもらった時計は正確に時を刻み、記憶の中の終わった時間と今の時間を考える。
「どうかな。最近ちょっと時間ずらしても大丈夫だけど……。それよりも、試験終わったあたりから気持ち悪くて……。我慢できそうになかったらポンフリーのところに行ってくるよ。その時はあとで結果を教えて」
半分嘘ではあるが半分は本当だ。これからのことを思うと緊張で気分が悪い。迷路に入るセドリックを見つめるヘンリーはぎゅっと手を握る。
「あぁ、だから夕食あまり食べられなかったのか。ほぼ毎年試験後倒れているから心配だな」
1学年の時も、3学年の時も試験後保健室に行っていたヘンリーを思い浮かべ、ドラコは全くとため息をつく。夜に勉強していると彼は思っている。
「そういえばそうだね。あーだめだ、ポンフリーのところに行ってくるよ。いつポッターが脱落したかとか明日教えてね。僕の予想だとやっぱりクラムか、セドリック辺りが優勝すると思うんだ」
フラーが入るのを見て、ヘンリーはやっぱりだめそうと立ち上がる。賭けるか?と不敵に笑うドラコにヘンリーはにやりと笑い返し、クラムに5シックルでいいかなとコインを投げる。じゃあ僕はセドリックだ、というドラコ達に手を振り階段を下りていく。
フラーの悲鳴が聞こえるまで隠れ……ムーディが妨害していると判断すると雌鹿になり、学校の敷地外に向かって疾走する。ムーディは今頃怪しい奴がいないことに気が付き、焦っているかもしれない。だが、こちらだって闇払いだ。相手の行動を読んで行動するのくらいできなければ務めてられない。
四方からの磔の呪文はともかく!とだんだん自分の死因についてが腹立たしく思うハリエットは計画通りアニメ―ガスを解いた時には姿が戻っており、そのままの勢いで姿くらましをした。
さびれた墓地に現れると透明マントを被り、目的の墓を探す。正確な場所までは覚えていないが、磔にされた墓は覚えているのと、そこから見えるセドリックを記憶している。
体の温度を下げる魔法をかけ、匂いもスコージファイで消す。ナギニがどの器官でこちらを見ているか知らないが、蛇は熱で感知するタイプと匂いで感知するタイプで分かれているはず。念のために両方で対策しておけば大丈夫だろう。
呼吸を最小限にし、気配を殺して座り込む。どれほど経ったのか。どさっという音ともにハリーとセドリックが現れた。ハリエットからそう遠くはない。ピンキーリングを握り、ハリエットはじっとその時を待つ。
「課題の続きなのかな」
ハリーとセドリックは困惑し、近づく人影に目を向ける。ハリエットとは反対側から来たピーターに抱えられたヴォルデモート。今ここで儀式をやめさせれば……。その誘惑を断ち切り、見ているとハリーが突然うずくまった。杖を構え、ヴォルデモートの声を待つ。
「余分な奴は殺せ」
それを合図にハリエットはセドリックに石像化させる呪いをかけた。あっという間に石像化するセドリックにピーターの呪文が当たってその勢いで倒れこむ。元の色を残したまま、質感は石になっているセドリックにうまくいったか分からないまま、ハリエットはショックを受けたハリーが引きずられるのとは反対に、セドリックに近づきマントを被ったまま覆いかぶさるように倒れる。
磔の呪いを何倍にもしたような痛みが体を襲い、ハリエットはセドリックの体を抱きしめ……意識を失った。
|