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50:スナッフルズ
マルフォイとともに湖に来たヘンリーはぎりぎりで走ってきたハリーに目を向け、ドビーがしっかりやったことを確認する。息を切らしているハリーにクラブが笑い、ゴイルがはやし立てる。
「ドラコ、なんだか静かだけど、どこか具合悪い?」
やけに静かなドラコが心配になって問いかけるとドラコが振り向いて別に何でもない、と返す。そう?といいながら水に入ったハリーを見る。
「何か口に含んだようだな」
「遠目で分からないけど……水中で呼吸ができるようになる草があったはず。それじゃないかな」
何かを口に入れるハリーはそのまま水に入り、湖面は静かになった。これから一時間か、というドラコにヘンリーは確かに暇だね、と返す。横目でコガネムシが柵の上にいるのに気が付き、見て見ぬふりをする。
今日はあえて虫よけをしていないからこんな近くにいるのだろう。それにしても結構リスキーな動物に変身したよね、とヘンリーはスキーターを思い浮かべる。彼女も動物もどきでまさか虫になるとは思わなかったに違いない。結局は天職に巡り合い、こうしてゴシップを書くさまは彼女にとっての果実の汁を吸う行為そのものなのだ。
ハグリッドのことは調べるのはたやすかっただろう。そのまま彼は今、というノリでハグリッドを退学にし、ホグワーツを守ったトム=リドルについて調べてうっかり蛇の尾っぽを踏めばよかったのに、と思うがそこは彼女の危機察知能力の賜物だろう。
一度くらい痛い目を見ればいいのにそういったゴシップ記者が本当に危険なことになることはまずない。まぁ、ハーマイオニーを舐めていたがために彼女はたやすく捕まったわけだが。
「ヘンリー。トラブル吸引機の君に言ったところでどうにもならないだろうが、危険だと思う事には手を出さないでくれ」
ぼそりというドラコにヘンリーは首をかしげる。トラブル吸引機とは以前言われたが、おとなしくしていたはずだ。
まだその二つ名は継続なのかとむっとするが、ドラコはそういう星のもとに生まれたと思ってあきらめるんだな、と笑う。
「危険……危険かぁ。わかった、できる限り避けるよ」
「それは避けないやつの常とう句だな。あまり無茶はするなよ」
自分じゃそれどうしようもなくない?と言いながら答えるヘンリーに、ドラコは呆れたようにため息をつき、無造作にヘンリーの頭を撫でる。怒ろうとするヘンリーだが、フラーが傷だらけで浮上したことで言葉を飲み込んだ。
次々と浮かび上がる選手の中にハリーは居ない。ざわざわとする中、ようやく泡が見えてハリーとロン、そしてフラーの妹が浮かび上がる。全部予定通り進んでいる。あとは最後の課題……。呪文はしっかりマスターした。
違法に闇の品を使っていた魔法使いを捕縛した際押収した品にあった……生きたまま石像にされた幾人もの人。数名でフィニートを同時にかけなければ解けない強固な呪いは……幸いなことにかなりの強度を誇る石像になる。ピーター程度の魔法では砕くことはできないだろうし、ダンブルドアほどの魔法使いならば一人で解くことができるはずだ。
少しのずれも許されないが未来を変えずに行う……これこそが最も重要なことだった。
それからほどなくして……シークがシリウスからの手紙を持ってやってきた。日にちと時間だけが指定されている。そういえばそんなことがあったな、と考えるヘンリーはその時間に出かけることにした。
ただ、薬の時間内であったために頭からフードをすっぽりとかぶって、髪がはみ出ないようまとめる。待ち合わせ場所にいると軽快な足音とともにシリウスが、パッドフットが現れた。
「ごめん、薬の都合どうしてもね」
私だよ、というハリエットにパッドフットはわかっていると言わんばかりに尾を振る。そこにハリー達の声が聞こえてきて、全身黒いローブの人影に足が止まった。
すぐに気が付いたのはハリーで、君も来ていたんだと駆け寄る。ハーマイオニーはあぁ、薬の効果時間中なのね、といいロンはえ?誰?と驚いている。とにかくと身をひるがえすパッドフットに4人は続いていき、悪路を進んでバックビークが繋がれた岩の割れ目に身を滑らせた。
ハリーの持ってきたチキンをほおばりながらこれまでの経緯を聞き、整理するように時折ハリーに質問をする。ハリエットは黙ってそれを聞いていた。ウィンキーは必死に彼を抑えようとした。けれども、彼だって彼女にとってご主人だ。できうる限りで彼をなだめ、抑え込もうとして……失敗してしまった。
クラウチ氏は……。ウィンキーという秘密を共有するものをあの時あぁして処罰しなければならなかった。だがその結果徐々に抵抗を見せるようになった息子を抑えることができず……そして彼のもとに奴が来た。忠実なるしもべを迎えに……。
「スネイプが君の名前を入れたんじゃないかな?」
ゴブレットに名前を入れたのはだれか、という話でロンが声を上げる。
「それはない。先生は熱を出して倒れた私のところに来ていたし、先生はそんなことはしない」
同じように怪しむシリウスにハリエットはきっぱりと違うという。彼ではない。
「シリウス、ごめん、先戻るね」
シリウスが語るかつてのスネイプの姿。それを思い浮かべると同時に一緒に過ごしただろうリリーを思い浮かべてしまい、ハリエットはこれ以上は無理だと立ち上がった。
「ハリエット、ダンブルドアが信用しているから、奴をそこまで疑うわけではない。けれどもあいつは」
待ってくれというシリウスにハリエットは聞かず、さっと立ち去っていく。ハリエットとスネイプの間について、ハリーとハーマイオニーは知っているが、学生時代の話を彼女が知りたくなかったのかと顔を見合わせた。
「そうか、彼女はそこまで知って……」
父親とスネイプの間の固執。まさかリリーとのことも知っているのか、とシリウスは大きなため息をつく。それならばなおさら……なぜ彼女はスネイプを愛しているのかがわからない。彼女はそれを知っていてなお……なのだろうか。
「スネイプについてはダンブルドアと……不本意ではあるが彼女が一番理解しているのだろう。これ以上ないほどに嫌なことであるのだが」
薬の関係できっと長い付き合いなのだろう。そう思う事で区切りをつけるシリウスだが、もしも彼女を裏切るようであれば容赦はしないと瞳の奥を燃え上がらせた。願わくは……リリーのように賢明な判断をしてほしい、と小鹿になって駆け下りていく音を耳で拾いながら願う。
ハリーが父ジェームズに似ているように、彼女も母リリーに似てほしい、ただそれしかない。たとえ、彼女が何者であったかにしても、今はリリーの娘なのだから、とシリウスはハリー達との対話に戻った。
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