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49:プレゼントに込められた想い
第2の課題でハリー達が四苦八苦している中、ハリエットは届いた箱を開け、満足気に頷いた。ヘンリーの姿で変身術の教授室に行き……自室に入る。用意しておいた箱に入れてカードを添える。
そして届いた箱からもう一つ取り出すと机に伏せておく。思い切って買ってしまったがなんだか恥ずかしい。プレゼント用に包装しなおした箱を持ち、辺りをうかがいながらスネイプの部屋を目指す。
ノックをすればすぐにスネイプが出てきて……ヘンリーの姿を見ると中へと通した。入るとすぐに抱きしめられ、部屋の奥へと通される。バラの香りに顔を向けると赤いバラが置いてあった。
「ここに来ると思って、待っていた」
口づけるスネイプは花束を呼び寄せるとヘンリーに手渡す。赤いバラと赤いチューリップ。それと小さな小花で作られた花束はとてもかわいい。バラとチューリップ……合わせて9輪の花が揺れていて、いいにおいがハリエットの心を満たす。
「その、先生の趣味じゃなかったらごめんなさい。これ、先生に」
大きくしたポケットから箱を取り出し差し出すと、スネイプは受けとって箱を開けた。そこに入っていたのはソーサー付きのティーカップだ。側面に描かれた木の梢の間を青い鳥が飛びまわり、花を一輪つかんではどこかに消える。そして戻ってくると先ほどは持っていなかった花を落とし、また小さな枝にとまる。
優美なその装飾にスネイプは口角を上げ、ハリエットを抱きしめた。
「これはペアカップではないのかね?」
もう一つは君が持っているのか、と問いかけるスネイプにハリエットの顔はヘンリーのまま真っ赤に染まる。恥ずかしさで顔を伏せるハリエットはこくりと頷いた。同じ模様のカップは寮生活で使う機会がないため、自室に置いてきたが夏休みは毎日これで紅茶を飲もうと思っている。もしかしたら今先生もこれを使っているかもしれない、とそう考えながら。
「この鳥はハリエットのカップと私のカップを自由に行き来しているのだな」
二つのカップをつなぐ青い鳥。その鳥は赤い花をつかんで飛んでいったかと思えば白い花を携えて戻ってくる。そして消えた赤い花に代わって次の花が花開き……。
大切にしよう、とヘンリーに微笑みかけて杖をふるう。かけたまえ、とヘンリーを座らせ紅茶を用意する。
ヘンリーにはいつも使ってもらっているカップを取り出し、紅茶を注ぐ。このカップはここにハリエットが来るようになってからスネイプが用意したカップだ。ミモザとブルーベルがあしらわれたカップは美しい蝶が舞っている。
ダイアゴン横丁に行った際、このカップを見つけた。彼女にはちょうどいいカップがこれしかないのだがと出したが彼女専用だという事を彼女は知らない。そして……彼女が嬉しそうにカップを傾けると底にユリの紋章がちらりと見える。彼女はきっと知らないだろうし、今後も知らなくていいと思う。
ヘンリーの隣に腰を下ろし、カップを傾ける。青い鳥はソーサーに移ってクローバーを銜えて枝を揺らす。
「そうだ、私からは花束以外にもこれを。あまりアクセサリーを贈っても困るだろうと思ったのだが……」
これを贈りたくなったのだ、というスネイプは箱から何かを取り出すとヘンリーの腕をとり、そっとの腕を放した。細い腕には環状になっている芯を中心にアイビーの蔦がデザインされたブレスレットが残る。
「きれいなブレスレット!ターコイズの髪留め使っているとき腕少し寂しかったから……。先生ありがとう」
金色で特に宝石などはないブレスレットにヘンリーは目を輝かせ、大切にするんだと笑う。彼はその時々でイヤリングやピンキーリングなどどれか一つは必ず身に着けていた。今度からはこれもそれに加わるのだろう、と考えると嬉しくて……日中は見肌離さずつけているペンダントの鎖を手に取る。
シャワー後に呼ぶと外していることから、日中服に忍ばせているとき以外は外しているのだという事はわかっていた。ハリエットとして躍る時、身に着けていたため、彼女がこれを見せているのはごく限られた人だけなのだろうという事も察している。
「なんだか先生には沢山もらっちゃっているなぁ」
「私が勝手にしていることだ。むしろつけるタイミングなどで気を使わせてしまっているのではないかと」
はたして彼女はこの贈り物に隠されたこちらの想いを知っているのだろうか。初めは彼女に似合いそうだからと贈った。気が付けば彼女を愛するあまりに、彼女の心をつなぎとめておきたい、そう熱望するようになり……。
彼女にいつか服をあげたい。そうだ、かつて彼女の母であるリリーが好んで着ていたような服などはどうだろうか。そう考えて自分の思考にスネイプは戸惑う。自分はハリエットを愛している。
そう、彼女を愛しているのだ。だが……。どんどんと女性らしく、美しく成長していく彼女を見ているとリリーがそばにいる気がしてしまうことがある。ハリエットが自分の抱えるリリーへの想いを知らないことだけが幸いだ。
「困るなんてことないです。すごくうれしい……」
そういってくれる彼女が愛おしくて、スネイプは口づけながら杖を振りカップを片付ける。そのまま寝室に連れていくとブレスレットをつけた腕を寝台に縫い留めた。
アイビーの蔦に隠れた蛇に彼女は気が付かない。それでいい。彼女に自分の愛は重過ぎる。スネイプは一生自分だけを見ていてくれ、と相反する気持ちを抱えてハリエットを抱きしめた。
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