--------------------------------------------
42:聖なる夜の贈り物 -準備-
クリスマス当日、大勢が残っているホグワーツもなかなかないもので、ヘンリーは自分用のプレゼントを部屋で開けていた。その中にあったスネイプからの贈り物に思わず笑い、どんなものでも長期間保存することができるという瓶を並べる。一つには元に戻るための解除用の薬が入っていて、今夜にちょうどいいやとポケットにしまう。
再び談話室に降りると、ドラコがなんだろうかという顔で昨晩シークに頼んだ小袋を手にして開けていた。
「素晴らしいドレスローブのお礼にと頑張ったんだけど……。手縫いでごめんドラコ。魔法で何度やってもマルフォイ家の紋章難しくて」
手縫いになってしまったんだ、とヘンリーが言うと、上品な白いハンカチに描かれたマルフォイ家の紋章を見ていたドラコは手縫い!?と顔を上げた。
「そう、手縫い。ワールドカップの後、何かお礼をと思って考えて……昔の貴族だとそういう家紋をハンカチに刺繍し、贈り物にするっていう話を聞いて、じゃあ頑張ろうと思って。魔法もちょっとは使ったんだけど、こういうのは難しいね。でもほかにお礼を思いつかなくて」
紋章の物って売ってなくて、というヘンリーにドラコは首を振り、そっとハンカチを握りしめた。昔、ロンに対して手作りの物なんてと言っていたから不安だったが、喜んでもらえてよかった、とヘンリーは笑って朝食に行こう、と声をかける。
ヘンリーの髪を結ぶのは今朝ドラコから贈られた、ユニコーンの毛を編み込んだ銀の髪紐で、きらきらと光を放つ。今夜彼はマクゴナガル教授の部屋で保護をした猫の面倒を見るという。自室で見ればと思うがもしかしたら彼が保管しているであろう薬に毛が入ってしまうかもしれない。そう考えれば仕方がないことか、とドラコはわかったと頷いた。
「ハンカチ、ありがとう。こういうのは中世の頃に廃れてしまったと聞いていたからなんだか不思議な感じだ」
無意識なのかそれとも意図的にか。刺繍された紋章はヘンリーの魔力がわずかに移っていて、どこかほっとするような気持になる。そんなことを指摘すればヘンリーが顔を赤くしそうな気がして、ドラコは何も言わず大切そうに内ポケットに収めた。
いつもは夜にクリスマスディナーが出るのだが、ダンスパーティーに出ない生徒だけが参加し、上級生らは今夜のパーティーに合わせて各々準備を開始する。ヘンリーは夕食後、大叔母が保護している猫の様子を見てくる、と言って早々に席を立った。
ドラコたちは今頃、寮で準備をしているだろう。身内がホグワーツにいると大変ですね、という後輩に笑って、じゃあお休みと言って変身術の教授室へと急いで向かう。
「さぁ、早く早く」
待っていたのはベベで元クラウチ家の屋敷しもべ妖精ウィンキーがいじけたようにしながらその後ろに控えていた。そんなウィンキーだったが、元に戻るための薬を飲んで少女になるヘンリーを驚いたように見て、何か思い当たったのだろう。だまってベベの指示に従い、ドレスに着替えるハリエットを手伝う。
「ほら、お化粧もしましょうね。と言っても、薄くでいいでしょう」
ほら座って、と椅子に座らせ、高い椅子を持ってきたベベはそれに座って薄く化粧を施していく。マクゴナガルが用意したという箱を開ければスズランがあしらわれた髪留めと、髪に散らす小花が入っていた。左鎖骨の黒い花を隠すために前に垂らした髪に散らされた白い花が芳香を放っているのか、少し甘い石鹸の香りがする。
首から下げられた緑色の輝きが白いばかりの肌に乗り、きらきらと輝く。そこに様子を見に来たマクゴナガルがまぁ、と声を上げたまにはこれでどうでしょう、と杖を振って眼鏡が見えなくなるよう目くらましの呪文を掛けた。鏡に映るハリエットは眼鏡が見えないこともあって見慣れない顔で自分を見つめ返している。
「さぁ代表選手が待っていますよ」
こんな立派なレディー、きっと娘の想い人は言葉を失うでしょうね、と微笑み、屋敷しもべ二人にありがとうとお礼を言うハリエットを連れて大広間へと向かう。お礼を言われ慣れているベベはしっかりね、と笑って返し、言われ慣れていないウィンキーは目を白黒させてその背中を見送った。
深緑のドレスローブを着たハリーはルームメイトらとお互いを見あいながら着替えたが、よく勝手がわからない。なんとなく胸元がさみしい気がして、もしかしてとカバンを漁り、誕生日に片割れがくれたあの緑の布を取り出した。
「あ、ハリー、ちゃんとポケットチーフ用意してきたのか。それ胸ポケットに入れるといいぜ」
シェーマスがここに入れるんだ、というのに従い収めると、バーノンがごくまれに着ていたパーティースーツの胸に入っていた白いハンカチを思い出す。それだったんだ、と思うハリーはハリエットの言う必要になる、はこのことだったのかとなんだかうれしくなる。
行くしかない、と昔の貴族が着ていたようなフリルのついたドレスローブから、悪戦苦闘し少しフリルを切り取ったロンとともに大広間へと向かった。
代表選手はこちらに、という声に従い集まれば見慣れない少女と並んだクラムとレイブンクローのクィディッチのキャプテンを連れたフラー。そしてチャンを連れたセドリックをみてハリーは胃がよじれそうな気分になり、思わず目をそらした。と、そこに黒髪の少女がマクゴナガルの陰から顔を出し、ハリーと言いながら速足でやってきた。
「ごめん、夕食の場に出ないといけなかったものだから」
「間に合ったから大丈夫だよ。わぁ……すごく似合っているよ、そのドレス」
小声で急いできたんだよというハリエットにハリーは首を振って、深い緑色のドレスに身を包んだ片割れを見つめた。眼鏡をしていないのか、自分と同じ顔のはずなのにとても新鮮な気がして、写真で見た母の笑みに似た笑い方に思わず本当に僕の片割れ?と疑い掛ける。
「あ、ハリーも目の色に合わせたんだね。なんだか最初から示し合わせたみたいになっちゃったね」
同じテーマカラーの衣装に二人は笑いあう。そこにクラムの隣にいた少女が振り向き、ハリエットとてもきれいよ、と声をかけた。そのまままじまじとハリーとハリエットを見比べるクラムに、彼の双子の片割れよ、と説明する。
「ハーマイオニーありがとう。ハーマイオニーこそとってもきれい」
にこにこと応対するハリエットにハリーは驚き、ハーマイオニーと呼ばれた少女を見つめなおした。いつもはくしゃくしゃになっている髪がきちっとまとまっていて、背筋を伸ばした姿はなんだか背が高く見え、とても上品だ。
年上であるクラムと並んでいても遜色ないほどで、ハリーは隣にいる片割れを見て、女の子ってすごいんだ、と感心するような声を上げた。
胸元から肩へと延びる明るい緑色の布と、胸元で光る宝石がなんだかハリエットを自分より年上に見せている気がして、ハリーもなんだか背筋が伸びる思いがする。
「さぁ、代表選手の皆さん、中へ」
マクゴナガルの声が聞こえ、扉が開くとハリーは腕を差し出し、ハリエットが自然にその腕を組む。恥ずかしいね、と笑いながらも僕の片割れは似ているのに似ていなくて、とてもきれいあんだ、とそんな心持で中へと進む。
|