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41:ダンスパートナー

 ぼんやりと歩くハリーは放心状態で、深々とため息をついた。ものすごく頑張って声をかけた意中の相手……チョウ=チャンにダンスパートナーを断られた。そのことがショックで仕方がない。
 よりによって相手はセドリックだ。好青年だし、自分より年上で……非の打ち所がない。
 同じシーカー同士とはいえ、彼の方が圧倒的に上で……もうすぐ寮に戻るというところで思わず天を仰ぐ。ショックで仕方がない。誰を誘えばいいんだ、と思い……頭を抱えた。ロンは誰か見つけただろうか。そう思って地図を取り出し、つい癖で最近増えた合言葉を付け加える。
 夕食の時にと思っていたロンは談話室に一人でいるらしい。あぁ、と思ってなんとなくユリの花を探す。図書室に向かうのか、一つの花が移動しているのを見て彼女はどうするのかなと考え……考えて……ん?と足を止めた。
 彼女。そうだ、いるじゃないか。

 急いで踵を返し、図書室へと向かう。息を切らしながら扉を開け、地図を見れば一番奥の本棚の前をうろうろと歩いている。夕食前だからか、誰もいない。

「ハリエ……ヘンリー!!」
 慌てすぎてつんのめりながら、背を向けていたヘンリーを呼ぶ。足がもつれてとびかかるようになってしまい、驚いたヘンリーが慌ててハリーを抱きとめようとして一緒に転ぶ。

「いたたた……今年なんか僕こういうこと多くない?」
 何の用だよポッター、と勢いあまって自分の上に倒れこんでいるハリーにヘンリーはヘンリーとして問いかける。

「ねぇ!ハリエット!君さ、ダンスパーティーの時間は薬の時間で出ないよね!!」
 勢いよく問いかけるハリーにぎょっとするヘンリーはあちこち視線をさまよわせ、身に着けている殺虫剤の香りが消えていないことを確かめてから声を小さくしてよ!と怒る。
 あぁごめん、と起き上がるハリーが起き上がり、ヘンリーの手を引いて立ち上がらせた。ほこりを払うヘンリーがあたりを見回すので、ハリーは大丈夫だよ、と地図を見せる。

「あぁ。だから……。そりゃ時間が時間だからね。出るわけにもいかないし」
「なら、ハリエットとして僕のダンスパートナーになってくれない!?」
 まぁそれなら大丈夫か、と何かを探すように地図を見るヘンリーは自分を示す花とハリー以外の名前がないことを確認してから頷く。大体で相手もないし、と言おうとしたヘンリーはハリーの言葉に驚いて目をしばたたかせた。
へぇ?と思わず変な声が出て、きらきらとした目を向けるハリーを見つめる。

「まぁ……私のことは多分もうすぐ記事にされるらしいから出ても大丈夫だけど」
「え、あ!そっか、あんまり人前に……って記事?え?」
 魔法省に赴いてから隠れることはできない、とそう割り切っていたヘンリーはダンブルドアから聞いた話で覚悟はしていた。ハリーが第1の課題をクリアーしてから“ポッター家の長女”であるハリエットについて調べている記者がいると、そう聞いていて……早ければ年内に記事が出るだろうという話だった。
 ならば先に顔を出しても問題はないどころか、これ以上の詮索はされずに済むだろう。

 そう説明するとハリーは誰が、と考えてスキーターを思い浮かべたのか嫌な顔をする。あの記者なら根掘り葉掘りあることないことも混ぜて好き勝手書きそうなものだ。
 苦笑するヘンリーはさて……とどうしようかなと考える。出ること自体はいいとしても、人前でドレスを着て踊るというのはヘンリーの姿で踊るのとはまた違うわけで……。

 悩んでいる風のヘンリーに気が付くハリーはおっと?と考えてハリエットをその気にさせる作戦を考える。ドレス無いから無理とは言わず悩んでいるという事は、衣装は大丈夫なのだろう。もしかしたら自分と同じく人前で踊ることに抵抗があるのではないのか。
 自分だってできれば出たくなどない。踊りたくもない。その気持ちはよくわかる。でもチャンとだったらと考え声をかけたのに玉砕してしまった。さて、と考えるハリーはできればこの手は使いたくないけど、と唸った後、よし、と緑の瞳を強くハリエットに向けた。
 
 
「ハリエットは見せたくないの?あの陰険教師に、せっかく買ったドレス姿を!もしかすると踊ってくれるかもよ」
 苦虫を噛みながら喋るようなハリーにピクリとヘンリーのヘーゼルの瞳が揺れる。シリウスには見せたが、スネイプにはまだ見せてない。
 
 大人っぽく見えるかな、踊ってくれるかな、と考える。ドラコと躍った時も楽しかったが、きっと先生にリードされたらそれはそれで天にも昇る想いかもしれない。

「じゃあ……いいけど……」
 恥ずかしんだけどなぁと考えるハリエットの答えにハリーはやった!喜んでヘンリーの姿のままの片割れを抱きしめた。


 ウキウキとした心持で寮の穴をくぐると、いい加減にして!とハーマイオニーの怒鳴り声が聞こえ、ハリーは慌てて談話室へと飛び込んだ。怒っているハーマイオニーにロンがじゃあその相手は誰なんだよと言い返す。どうやらハーマイオニーをパートナーに誘ったらしいが、ハーマイオニーは相手がいると言って断った……というのが事の顛末のようだ。

「わかったぞ!あのスリザリンの赤毛だろう!!」
 間に入るわけにもいかず、とりあえずソファーに座ったハリーはロンの言葉に思わず息を詰まらせる。なんでそんな疑いが出るんだ?と疑問しかない。

「赤毛って……馬鹿言わないで!彼は違うわ。大体、彼は薬を飲まないといけないから夜は出歩けないって話もう忘れたのかしら」
「だけど君は数占いの授業であいつと一緒だろう!前にあいつの足元にクルックシャンクスがいるのを見たこともある!」
「だから馬鹿なこと言わないでって!大体、彼はちゃんと相手がいるわ!」
 言い争うロンとハーマイオニーにハリーははらはらしながら成り行きを見守る。それ、僕の片割れなんて言ってしまった日にはロンが大声で復唱してしまう気がして、やっぱり彼女の考え通り黙っていようと口を閉ざすこととした。

「じゃあ誰なんだよ。本当にいるなら教えてくれたっていいじゃないか!」
 彼に恋人がいると言われて何とも言えない顔になるロンはじゃあ、というとハーマイオニーは顔を赤くして言えないわ、という。そのまま付き合いきれないという風にさっさと女子寮へと消えていく。
 
 絶対嘘ついている、と息巻くロンにジニーがおあいにく様という。

「誰か教えないわ。けれど、本当にハーマイオニーは相手がいるのよ」
 つん、とそっぽを向くジニーにロンは言葉を失い、すがるようにハリーを見る。
「えぇっと……僕は……。ハリエットに声をかけてみたらいいよって。だから僕はハリエットと行くよ。そうじゃないと彼女は出てこられないし」
 そういってだからちゃんと相手はいるというと、そんなのあり?と思わずジニーを見る。ジニーは、私はダメよ、と言ってネビルと行くことになっていると打ち明けた。そうしないと出られないから、と落ち込んだ様子にハリーはロンを見る。
 そんなやり取りを見ていたらしいパーバティらがくすくすと笑っていて、ロンはどういう心境なのか顔を赤くしていた。結局ロンはそのパーバティに声をかけ……彼女の双子の片割れであるパドマに聞いてみると返された。


 夕食後、おずおずとやってきた娘に、教員としてどうしましたヘンリー、と返す。

「あの、あのね?えっと……ハリーがクリスマスのダンスパートナーに……えぇっと」
 マクゴナガルの部屋に来たヘンリーはどう切り出そうと考える。ヘンリーとしては出られないというのはマクゴナガルも知っている。そしてハリエットとしても出られないだろうとも。

「ハリーが一緒にって。それで……髪飾り欲しいんだけど……ホグズミード行ける日がないから母さんに相談したくて」
「どんな髪飾りがいいか決まっています?」
 ドレスは買ったが、そういった小物は買っていなかったヘンリーにマクゴナガルは微笑みかけ、どんなのがいいかと問いかける。ダンスパーティーには出られないと思っていただけに、思いもよらない方法での参加にマクゴナガルも自分のことのように喜んでいた。

「髪飾り……スズランがいいかな」
 白いスズラン。スネイプが言うようにこの黒い髪に映えるのだろうか。そう考えて、今は赤い髪を撫でつける。

「そうですね……。確かに、白い花はあなたに合いそうですね。セブルスが言っていたのですか?」
 ハリエットの黒い髪を思い浮かべ、同意するマクゴナガルはハリエットの呪いの形がスズランだとは知らない。どうして急にスズランを思い浮かべたのか、と思いつつユリなどではない控えめな花こそが似合うと微笑み、真っ赤になった娘を愛おしそうに見つめる。

「前にきっと似合うだろうって」
「わかりました。こちらで手配しておきましょう。例の記事は恐らくは年始に出るようです。あなたが先に出ることで愚かな目測はすべて外れと言わせることができるでしょう」
 いつ言われたのかは内緒にし、髪先を持て遊ぶヘンリーにマクゴナガルはどんなデザインのものを、と考えてそっと赤い髪を手に取る。髪全体に小花を散らしてもいい。もしくは髪にまとめてつけるデザインでもいい。
 娘が出ることは黙っていましょうか、とダンブルドアにだけ話しておこう、とマクゴナガルははにかんだ笑顔を見せるヘンリーを見送り、先日スネイプが犯した罰だと悪戯気に笑う。あんなに娘を悲しませたのだからいいでしょう、と。






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