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36:双子の約束

 朝、ハーマイオニーとともに湖のほとりでトーストを食べたハリーはハーマイオニーに促されてシリウスに手紙を書いた。そしてその手紙を出そうとして……つい強く、君は使えないんだ、とヘドウィグに言ってしまい、傷ついた様子にそうじゃなくて、君を使ってはいけないんだと言い直したが、ヘドウィグは屋根の方に行ってしまい……。
 あぁもう何もかもうまくいかない、と思っていると縁取りが少し太い森フクロウがやれやれといった様子でハリーの肩にとまる。

「もしかして君、シーク?」
 ヘンリーが手紙を出すのに使っていたフクロウに見え、そう問いかけると森フクロウは答えず、さっさと足につけてと言わんばかりに足を差し出す。あぁ君はそうやってハリエットの秘密を守っているんだ、と賢く忠実なフクロウに手紙を託す。飛んで行ってしまってから、ハリエットに声かけたほうがいいかなと空を見上げた。

 あれからいろいろ考えた。ハリエットはひどく取り乱した様子で……なんとなく癇癪を起こした時の自分を思い出した。2学年の時に誰もが腫れもののように扱ってきたとき、だれも信じてくれないことに憤った。むかむかして、怒って……どうにもならなくて。
 ハリエットはあの時……クィレルを殺した時どうしていた。もしそれを思い出していたのなら……そう思ってから、ルーピンの言葉を思い出した。なにかハリエットに憤ることがあれば抱きしめてあげてと言われていたことの意味を分かった気がしてため息をついた。
 彼女が変えてはならない未来は……きっと今だ。今、自分が選ばれたことは彼女がかかわっていることではないのだろう。というよりも一日彼女を見ていない気がする。

 もし自分が未来を見られるのであれば……どうしていただろうか。例えば、明日……ロンが怪我をしたとする。それも長引くような怪我だ。だけれども、それを回避してしまえば今度はハーマイオニーが怪我をしてしまう。それもとても大きな怪我で、傷が残ってしまうようなものだ。
 そのどちらかしか選べないのだとしたら、自分は……ロンの怪我を黙ってみていることができるだろうか。きっとロンはハーマイオニーが酷い怪我をしてしまうと聞いたら、どんなに痛くとも回避するなんてしないだろう。ロンでなく自分だったらなおさらだ。

 ハリエットはその選択肢が見えていて、ぐっとこらえているのだとしたら。あんなに細いのにのしかかる重さが彼女をへし折ってしまうのではないかと思うと心配になる。
 もし、ロンとハーマイオニーどちらも助けたいと思うのであれば、どんな結果になろうとも僕はその間に体をねじ込む。と、ハリーはハリエットがしてきたことがわかってため息を吐いた。
 最初は自分のために、次はシリウスたちのために……そしてあの管理人の一家のために、彼女は無理やりにでも割って入ってきた。自分の手を汚さないためにと彼女は自らその役目を負い、シリウスたちが親友を攻撃するのを止めるためにわざと前に出てきて……。マグルの一家のために自分を囮にした。


「ミスター・ポッター。やっと見つけました。あなたに頼みごとがあります」
 城に入るなりマクゴナガルに呼ばれ、代表選手のことかと考えるハリーはなんですか、とむっとして振り返った。だが同時に、ハリエットの所在について聞けるのでは、と呼び寄せるマクゴナガルのもとに向かう。

「わたくしの部屋は知っておりますね。これから出かけなければならないのですが、わたくしの部屋の中に花の絵がかけられた壁があります。そこから隠された部屋に入り、わたくしが帰るまで……そうですね、1,2時間ほどで戻りますがそれまで子猫を見張っていてもらえますか。目を離すとすぐどこかに行こうとしますので。頼みましたよポッター」

 行かねばならないというマクゴナガルにハリーはもしかして、と期待に胸が膨らみ、わかりましたと頷いた。そのまま少し早歩きでマクゴナガルの部屋に向かうと、ハリーが触れると同時に扉の鍵が開く。戸を開けたのは年老いた屋敷しもべ妖精で、どうぞと言ってハリーが入ると鍵をかけて消えてしまう。

 ハーマイオニーが見たら怒るかな、と頬をかくハリーはこぎれいな室内に居心地悪くしながらきょろきょろと壁を見渡した。そこになんの花だろうか。白い花だが、白く煙るようなもので覆われている。これがその絵なのだろうか、と壁に手を当てじっとしていると扉が現れ、ハリーはどきどきと心音を高鳴らせ、そっと扉を開けた。
 中は寝台と本棚などに囲まれ……机に向かってぶつぶつと言いながら羊皮紙に羽ペンを滑らせる黒髪の少女がいた。
 頭痛い、と言いながら突っ伏す彼女は突然立ち上がると先生に会いに行こう!と拳を突き出す。ネグリジェ姿であるのと、少し寝ぐせのついた髪の片割れにハリーは思わず呆れて具合悪いんじゃないのかと問いかける。
 突然のことに驚いたらしいハリエットが文字通り飛び上がると同時にガツン、と机が揺れてハリエットは呻きながら椅子に逆戻りした。


「まぁ金曜の夜から昨日一日寝る程度には……」
 ずっと寝ていた、というハリエットにハリーは慌てて傷のないハリエットの額に手を当てる。ほんのり暖かいのは十分熱が下がっていない証拠だ。

「先生って……まさかスネイプじゃないよね。あんな奴のところじゃないよね」
 着替えても支度しても、駄目なものはダメだからね、というハリーにハリエットは顔を膨らませて明後日の方向を見る。これは聞く気がないやつだ。

「だって!金曜の夜、本当は会いに行く予定だったのに、熱が出て会いに行けなかったんだよ!おまけに昨日、寝ている間に先生きて様子を見て帰って……私先生に触れてないんだよ!圧倒的に先生不足!ハリーだって、この後もしシリウスに会うんだーと思ったのが、邪魔が入って会えなかったら会いたくなるよね!それと同じ!」
 課題も終わらないし最悪、とうなだれるハリエットになんだかかわいそうになって……いや、でもあいつのところだなんて、とすぐに思い返す。はぁー、とため息をつくハリーは最後に会った時のことを思い出したのか、うつむくハリエットを見ると何も言わず抱きしめた。

「あの時、呪文を唱えてくれてなければ僕は身を守るため、クィレルを母さんのくれた守るための魔法で殺していた。ごめん、ごめんねハリエット。ちゃんとわかっていたはずなのに、ハリエットのこと一方的に責めて。それと、ありがとうハリエット。シリウス達に親友を攻撃するなんて事させないよう、一番強い魔法を先にかけたんだよね」
 ありがとう、というハリーにハリエットは目元が熱くなって抱きしめられるがままに顔を伏せ、私のわがままだから、と嗚咽交じりにこたえる。うん、そうだね、と抱きしめるハリーはハリエットの頭をなでた。ハリエットのこと、疑ったりしてごめん、というハリーにハリエットは首を振る。

「ゴブレットから僕の名前が出てきた。やらなきゃいけないんだよね。もし、ハリエットが本当に危ないと思うなら止めていると、そう思うんだ。だから……僕に起きることを止めてくれなかったハリエットのことはもう責めない。でもハリエット、お願いだから自分のことをもう少し大切にしてよ」
 信じる、というハリーにハリエットは胸の奥が熱くなり、抱きしめ返しながらありがとうとつぶやく。たくさんうそをつかなければいけなくなるだろう。それでも、ハリエットを信じるというハリーに私もだよ、と返す。

「ハリー。ムーディが言うように、誰かが君を罠にはめようとしたんだ。それは知っていると思う。だから……ハリーはハリーの思うままに頑張って。私のことは一切考えずに。私は……動き出した大河に触れることはできない」
 大きな運命が動き出したのだと暗ににおわせるハリエットにハリーはこくりと頷き、じゃあ約束という。

「僕は……僕にまつわるハリエットのことは考えない。その代わり、ハリエットのことを信じる。……友好関係だけは怪しむけど」
 それだけは無理、というハリーに小指を絡めるハリエットはヘンリーの友好関係は見逃してよ、と笑う。

「私は、私は……私は当然ハリーのことを信じている。ハーマイオニーや……ロンのことも。私は、君の幸せをずっと願っている」
 どうしても見逃せないところだけは許してよ、というハリエットにハリーは仕方がないなぁというとそうだね、と現在絶交中のロンのことを思い浮かべた。
 互いが互いに信じる、という約束をした双子のポッターは笑いあって……ねぇついでに課題手伝ってよ、とハリエットに言われるまで約束を交わしあった。







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