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35:ブレイクショット

 翌朝、心労もあったのか火照った顔のまま眠るハリエットに、マクゴナガルはそっと頭をなでる。相変わらず薬を飲むほどでもない程度の熱だが、週末はここで過ごした方がいいでしょう、とそっと娘の肩をゆすった。

「ハリエット、具合はどうです?」
 ぼんやりと目を開けたハリエットはその声にマクゴナガルを振り向いて昨日よりはましかな、と答える。

「セブルスから熱が上がった場合以外熱さましを飲まない方がいいとのことでしたので薬は飲ませていませんが、つらいようであればすぐ知らせますよ」
「いろいろ考えることが多くて最近寝てなかったからかも。ごめん、母さん……ちょっと甘えたい気分……」
 水を、とコップを渡し、飲みやすいように少し体を起こしてあげると、ハリエットはゆっくり喉を潤し、再び横になる。腹をくくると決めたというのに情けないなぁ、とため息をつくハリエットにマクゴナガルは嬉しそうに微笑む。

 すっかり大きくなったとはいえ、まだまだ子供だ。ハリー=ポッターが人に甘えられる環境でも、性格でもないことを考え、マクゴナガルは優しく接する。
 そのことがうれしいハリエットは再び寝息を立て始めた。マグルの子供と違って魔法使いの子供は身を守るために魔力をたくさん使いがちだ。だから治るまで寝るなんてこともよくある話で、ハリエットが過去の未来の記憶を取り戻した時もそうやって眠り続けていた。
 この調子なら今夜あたりには熱がさがるかしら、と汗をかく娘に杖を振って汗をぬぐい、服ごときれいにする。少しは寝苦しさはましになるでしょう、と部屋を出て大広間へと向かった。


 スネイプが説明したのだろう、スリザリンでは特にヘンリーを探す様子はなく昨日と同じようにドラコの近くに座ったビクトリー=クラムがどこか申し訳なさそうにしているのをドラコがたまにあるんだ、と彼の風邪がうつったのではないと話している。
 そしてゴブレットから名前が出る時間……。セドリック=ディゴリーの名が出た瞬間、ほっと肩の力を抜いて……消えない炎に嫌な予感をつのらせた。
 炎から出てきたハリー=ポッターの名にスネイプとマクゴナガル、そしてダンブルドアが一瞬視線を交え、机の下でマクゴナガルは手を握り締める。予感していたとはいえ、このような形になったことに相手の狡猾さと周到さに思わず身震いしてしまいそうになる。

 それと同時に、彼女はきっと今年……とても大きなことをするに違いない、と促されて小部屋に向かうハリーの背を見つめた。ハリエットでは断じてない。この城の中に……ハリー=ポッターを罠にかけた犯人がいる。そのことが闇の気配をより濃く感じてしまい、ムーディの言葉が耳に刺さる。
 魔法による契約で彼は出なくてはならない。未熟な彼が果たして無事に終わるのだろうか。少なくとも、生きてはいるだろう。でなければハリエットの過去と合わないのだから。
 自分はやっていないというハリーの言葉を信じているのはハリエットのことを知るホグワーツの教員だけだ。


「よもやここまで大胆な行動をしてくるとは」
 なんとか説得し、選手とその校長と別れたダンブルドアはスネイプとマクゴナガルを連れて校長室へとやってくると、開口一番にそう呟いた。ゴブレットには様々な防御策をされていた。例えば未成年者の名前が入らないよう、何重にも策を巡らせていた。
 あらかじめダームストラング校とボーバトン校のこちらに来る予定の生徒名とホグワーツの条件に該当する生徒の名前をゴブレットには入れて、どの名がどの学校か、そして条件に当てはまらない生徒が間違えても選ばれないようにと。
 だが、ゴブレットには錯乱の魔法がかけられ、第4校目の区域が設けられてしまっていた。本来3校で選ぶはずなのに、だ。もしかしたらもうゴブレットは使えないか、あるいは修理しなければならないかもしれない。

「生徒らの反発はすさまじいものになるでしょうな」
 急に態度を変えてハリーの身に危険が及ぶことを考え、スネイプは彼がやったのだという態度で接するという。ホグワーツの教員からも怪しまれている。第3者の加入のことも考えてはいるが、それでも、という態度であれば尻尾を出しやすくなるかもしれない。
 そう聞いてダンブルドアは追い詰めすぎぬようほどほどにするんじゃぞ、と苦笑し……ハリエットには説明しておかなければと悪戯っぽく言う。

「それは私が話しておきましょう。彼女も未来が変わることを良しとはしないでしょう」
 そう、肝心なのは彼女がおらず、無罪を確信していないという風を装う……ハリー=ポッターが嫌いな教師であるということを変えないこと。

「あと、おそらくハリーはハリエットを疑うでしょうから、今体調を崩しているハリエットが自室にいるということを伝え、誤解を解いておきましょう」
 ますますこじれる双子を見ていられないというマクゴナガルはそのことを考え、頭を抱えた。きっとハリエットが入れたに違いないと言い出しかねない、ということにスネイプはそうでしょうなと頷く。人を疑いだすと周囲をみなくなる、と一学年のころスネイプを疑ったことや、二学年の時にドラコを疑いポリジュース薬まで作ったことを考えてマクゴナガルとスネイプは確かにとため息をついた。


 日曜の朝には熱は大体下がったが、まだ本調子ではないハリエットはベベに頼んで課題をとってきてもらい、溜まりにたまった課題を片付ける。正直大広間に行きたくはなかったハリエットはんーと考えながら教科書をめくり、羊皮紙に書いていく。
 母からは丸一日眠っていた娘の体調を気遣って、だるい様であれば寝ているようにと言われている。だけれども課題をやらないわけにはいかない。

「はぁああ。先生に会いに行きたいなあ。風邪ひくなんてもう最低……」
 いろいろな記憶が色あせてきたというのに、嫌な記憶というのは強く残りやすいと聞いたことがある。そう、はじめてロンに拒絶された時のことは忘れもしない、嫌な記憶だ。

「大体、人に頼んで名前入れられるのが有効なら、だれでもやってるはずじゃないか。なんで僕だけみんなから疑われるかな。おかしいよ。ロンは自己肯定感低いせいでこっちに八つ当たりとか……だからハーマイオニーと大喧嘩するんだ。毎度間に挟まれるこっちの身にもなってほしかったよ」

 まぁロンはそれもあってのロンだけど、とため息をつくハリエットは頭痛い、と顔を伏せる。一応念のためまだ休んでいるだけだし、もう体調もだいぶ良くなったから先生のところに行っちゃおうかな。そうだ、別に大病ではなくただの風邪なのだから、先生に会いに行ってもいいだろう、と椅子を蹴っ飛ばすように立ち上がる。

「よし、そうと決まったら着替えて寮に戻って、先生に会いに行こう!」
「具合悪いんじゃないの?」
 よし、と天にこぶしを突き上げるハリエットに呆れたような声が聞こえ、ハリエットは思いっきり飛び上がった。がつん、と足が机に当たり、悶絶するとえっと驚かせた?とハリーが横から顔をのぞかせる。

「とっても痛い……」
 いたたた、と足を抱えるハリエットはなんでハリーがここに?と声を上げた。






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