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33:他校の生徒
ヘンリーは人だかりに何だろうかと首を傾げ、後で見ればいいかなと席に着く。そこにドラコもやってくると掲示板見たか?とヘンリーに問いかける。
「いや、すごい人だったし、見えなかったからあとで読もうかなって」
「あぁ、ヘンリーは見えないな。あれは来週にダームストラング校とボーバトン校が来るらしい。以前ヘンリーには言ったかな。父上は僕をダームストラングに入れたがったが、母上が遠くにやるのを拒んだんだ。あそこは穢れた血の連中は入れないうえに、闇の魔法についても教えることで有名だ」
首を振るヘンリーにあの人だかりじゃ割って入ることも無理だろう、というドラコは簡単な説明をし、得意げにダームストラング校について知っている話を始める。
かつて……グリンデルバルトが数年とはいえ在籍したことでも有名な魔法学校。
「君のお母さんに感謝しないと。じゃないと僕は今頃スリザリンで友達もできないところだった」
冗談めいていうヘンリーにドラコは口角を上げ、本当に、と頷いてすっかり成長の止まったヘンリーの頭をなでた。そこへシークがほかの学校の梟に紛れて飛んでくると手紙を落とし、そしてそのままフクロウ小屋へと飛んでいく。手紙の差出人を見たヘンリーはあぁとつぶやいてカバンに雑に入れた。
授業の合間に外に出たヘンリーは歩きながら手紙を開く。手紙はシリウスからで、くれぐれも無茶はしないことと書いてあって、ヘンリーは天を仰ぐようにため息をついた。シリウスは……怒っているのだろうか。
闇の印が打ちあがった時のことが伝わり、ヘドウィグを介して手紙が届いた。その中にあった、目的のためならば闇の魔法を使うことも考えていやしないだろうか、という問いにもう使った、と返した。その返事がこの短い文章だ。
先生はすごいな、といつもの石のベンチに座り、膝を抱える。先日からどうにも不安定で、落ち着かない。たった一人信用を得られなかったというだけでこれほどまでに苦しいのに、とため息をつく。とにかく今は例の魔法の成功率を上げなくてはならない、と首を振りヘンリーは手頃な木の実を拾った。
あっというまに一週間がたち、ハリーとは会話のないまま二校が来る日がやってきた。いつもより短い授業を終えると、スネイプはヘンリーを呼ぶ。
「だいぶ顔色は戻ったが……その様子ではまだ本調子ではないようだな。マクゴナガル教授が今夜は少し時間がとれるそうだ。……たまには顔を出してきたまえ」
ヘンリーにしか聞こえないように低く、小さな声で伝えるスネイプにヘンリーはわかりましたと頷き、待っているドラコを追うように教室をでる。早く荷物を置いて整列しないと、というドラコに促されるヘンリーはちょっと今夜大叔母様に呼ばれているから顔を出してくると伝えた。
このところ顔色が悪かったことを知っているドラコはわかったと頷いて、ネクタイが曲がっているぞとヘンリーの身だしなみを整えた。
やがて先に来たのはマダム・マクシームが率いるボーバトン校で、つんとした様子のフラーに懐かしさを覚えるヘンリーは思わず小さな笑みを浮かべた。それを見逃すはずもないドラコに、なんだヘンリーまであのヴィーラみたいなやつが気になるのか、と小突かれる。
「ちがうよ。とてもきれいな子だとは思うけど、ちょっときつそうだなっておもってさ。ダームストラング校はまだかな」
首を振って誤魔化すヘンリーは同じようにあたりを見回す生徒と同じように首を巡らせ、湖から出てきた船に目を止めた。おどろおどろしい雰囲気の船は大きく、物々しいタラップの音に続いて船員たちが、生徒たちが下りてくる。
ダンブルドアと親し気にあいさつを交わし、風邪気味だという生徒を前に出す。そういえば彼は風邪をひきながら来たのだった、とヘンリーはその少し丸まったような背を見つめた。
「学生だとは知っていたけど……まさか彼がここに来るとは想像していなかったな」
どこか驚いた様子のドラコに、ヘンリーもうなずくとホグワーツ生徒ともに大広間へと向かう。周囲ではどこかの寮の女の子が口紅でサインだのなんだの言っているのが聞こえる。
「まったく。一昨年といい、どうにも騒がしい生徒が多いんじゃないのか」
うるさいと顔をしかめるドラコにクラッブとゴイルが頷き、くしゃみをしたヘンリーに視線を向ける。
先日、例の爆発生物……スクリュートがやけど用に用意した水桶の前で爆発を起こし、近くにいたヘンリーを頭の上から足の先までずぶ濡れにした。背後からの爆発に一瞬何が起きたかわからず、杖をふるおうとしてスクリュートに引きずられたゴイルがまともにぶつかり、ごろごろと転がっていった。そのおかげで服を乾かす魔法が遅れ、すっかり体を冷やして、それからというものどこか体調がすぐれずにいた。
「魔法薬の都合もあるだろう。マクゴナガル教授のところに行った後、スネイプ教授のところで風邪の薬をもらってきた方がいいんじゃないのか?」
「でも、前もスネイプ先生に迷惑をかけてしまったから……なんだかまたかと思われるんじゃないか心配だ」
ちょっとだめかもしれない、というヘンリーにドラコはちょうど週末だから大丈夫だろうという。週末だからこそ休んでほしいのにと思うヘンリーだが、一緒に居られると思うとそれはそれでうれしい。
「……」
ぼそりと何かつぶやくドラコにどうしたのかとヘンリーが首を傾げ、聞こえたかとゴイルとクラッブを見るが二人とも首を振る。歓喜に包まれる大広間で席を探している風のダームストラング校生徒はどこか似た雰囲気をかぎ取ったのか。スリザリンの席に向かうと各々好きな席に座る。
あ、そうかとヘンリーは気が付いて、悔しそうなロンを視界にいれた。グリフィンドールは2番目に人数が多い寮だ。そう、一番少ないスリザリンとその次に少ないレイブンクローは一律で席数用意された大広間では結構ゆったりと座れている。だから、必然的にこの2寮の席に座るしか選択肢はないのだ。あの時感じた、なんであそこにという疑問だったがこういうことかと一人納得して、向かい側に座ったクラムを見る。
「ドラコ=マルフォイだ。一応このスリザリン寮のシーカーをやっている」
近くに座った誼みだ、と握手するドラコはそう挨拶をし、隣にいるヘンリーを初めての試合でウロンスキー・フェイントをやった代理シーカーだと紹介されてちょっとドラコと慌てる。
「ウロンスキー・フェイントを?君が?」
風邪をひいていると聞いていて、どこか疲れた風だったクラムはそれに興味を覚えたのか、自分よりも小さく細いヘンリーをじっと見つめる。
「えぇっと、クラムって呼んで大丈夫かな。ありがとう。クラムのように綺麗にリターンできなかったし、それに相手に気づかれて先に離脱されたから……。それにニンバス2001でそもそもの速度だって……」
「でもちゃんと上がってそのままスニッチを追いかけていただろう。2回目はフェイントじゃなかったとはいえ、ダイブして捕まえたんだ」
初めて使ったし、というヘンリーにクラムは無茶はダメだ、といいドラコの言葉にふぅむと重くうなずく。
「君は才能がある、かもしれない。あの箒はとても速い。そのうえ制御がとてもしやすい。ニンバスはそれに比べるとブレーキが少し緩い」
そんな小柄な体でとつぶやくクラムにヘンリーはどこか恥ずかしくなって笑って誤魔化す。一応フラーの結婚式で見かけたりはしたが、仲がいいというまでにはならなかったため、ここまで会話が続くとなんだかむず痒い。
「こんばんは紳士淑女、ゴーストの皆さん」
そういって始まるダンブルドアの声に大広間はしんと静まり返り、大いに楽しんでくれることを確信しているという言葉にフラーが笑う。ボーバトン校は聞いた話ではとてもきれいな学校だと聞いていて、この古風な城は彼女にとっては古臭く見えるのだろう。
それでも、のちのビルとの結婚を考えモーリーを説得した彼女を思うと、国の代表でもあるという立場からやや気張っていたのだろう、とハリエットはフラーを睨むハーマイオニーを見る。
高飛車で、傲慢にも見える彼女が第2の試練のとき、はじめてその仮面を外したように思えて、今のつんと澄ました様子がかわいらしく見える。あんな風にしている彼女が第3の課題の時にビルを初めて見て、そして職場で再会後に大戦のためにとイギリスに戻ったビルを追いかけてきた。
黙っていても群がってくる異性ではなく、ビルを選んだ。
彼女とはもっといろいろ話したかったが、ロンがそのたびにのぼせて、ハーマイオニーに叩かれていたのがなんだか悪くて……ちょうど生まれたビクトワールのこともあって、会いに行くのは控えていた。もっと早くにジニーと家族になっていたらもっと話せたのではないのか。そう思うと後悔が胸を満たしていく。
宴の始まりで一斉に現れた食事を食べ始める。見たこともない料理はフランス料理とブルガリア料理だ。場所としてはノルウェイだったか、スウェーデンだったか……ブルガリアにあるわけではないのだが創設者が密接な関係だったとかで、生徒にブルガリア出身を入れている、と闇払い時代に護衛任務でダームストラング校出身だという高官から聞いた。そのおかげで並んでいるヨーグルト系の料理をヘンリーは興味深げに口に運んだ。
ふと、クラムがあまり食事をとっていないことに気が付き、ヘンリーはヨーグルト系の料理や体の温まるスープなどを見繕い、クラムの前に置く。
「体調が悪いって聞こえたけど、クィディッチ選手はやっぱり身体が大事だろうから……無理だったらごめん」
体調悪くても食べられそうなもの、と置いたヘンリーにクラムはぶっきらぼうにいや助かる、と言って黙々と口に運び始めた。
「ヘンリーこそ、今年こそは体重増やすんだぞ」
「これでも結構食べているの、ドラコだって知っているだろう?どうしてか全然増えないから最近、部屋で筋トレしてみているんだけど、なかなか筋肉ってつくもんじゃないね」
しっかり食べろ、と今日はブイヤベースが皿に盛られ、ヘンリーはこんなに食べきれないって、と慌てる。その横では上級生や同級生が浮遊呪文を使い、こっそりヘンリーの皿にウィンナーやらなにやらがのせられていく。
はっと気が付いた時には最初に食べた量ほどになっていて、ヘンリーはもーっ、とあたりを見回した。
「君は不思議だ」
思わずそう呟くクラムにヘンリーは目をしばたたかせて最近よく聞くなそれ、と首を傾げた。デザートが出てくるようになると、今度はクラムがヨーグルトにいつもこれを入れて食べる、と用意されたフルーツを入れてヘンリーにお返しとして渡す。本当に人を惹きつけるのがうまいな、と半ば感心するドラコは筋トレをするヘンリーを浮かべて……もう少ししなやかな筋肉が付いたらそれはそれでいいな、と細いヘンリーの手首を見つめた。
宴もいよいよ終わりになると、フィルチが運んできた箱から青い炎を携えたゴブレットが取り出された。もう錯乱の呪文はかかっているのだろうか。それとも、まだ呪文は掛けられていないのか。
説明を聞きながら揺れる青い炎を見つめる。もう時間は待ってくれない。
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