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31:彼女の言い分

 フクロウ便を出そうとやってきたハリーはそこに先客がいたことに驚き、まじまじと赤毛の少年を見つめた。相手も気が付いて、縁取りが少し濃い森フクロウを手に振り向いた。

「シリウスがどこにいるか教えられないけれども、彼はもう国内にいるよ」
 北に向かうという手紙を受け取っていたハリーはヘンリーの言葉に驚き、じっと片割れを見つめた。小首をかしげる彼はシークよろしくね、と自らの梟を空へと放つ。

「今透明マントは持ってる?なければ先に出るけど」
 一緒にいることは見られたくないから、というヘンリーにハリーはどういうことなんだよ、と詰め寄った。

「どうして手紙のことを知っているんだよ!どうしてワールドカップでマルフォイの家族といたんだ。なんで、なんで……禁じられた魔法を使うんだ……」
 同じ背丈の少年の襟をつかみ、どうしてだというハリーにヘンリーは唇を?み、明日話すよ、とすり抜けようとする。その手をつかみ、なんで今はダメなんだと問いかける。
 それを振りほどくヘンリーはさっとあたりを警戒して、駄目に決まっているという。

「どこで見られてしまうかわからない。だからこの姿では君とはあまり関わりあいたくないんだ。それに、前に言ったよね。私に優しさを求めないで、勘違いしないでって。シリウスは昨日手紙が来たから知っていただけ。シークがヘドウィグから預かっていたんだ。それでハリーの傷のことについて聞けるときにと。どうしてもすぐ来られないからって。ハリー、彼は魔法使いだ。姿くらましができるのにそんなに時間がかかるとおもっているのかい?」

 優しい人間でも何でもないんだ、というヘンリーの顔はどこか苦しそうで、拳を握るとたっと駆け出していく。あぁ、また傷つけた、と壁に拳を当てるとむっとした様子のヘドウィグが下りてきて、ハリーの耳を強めに?んだ。
 彼女を信用……できるわけがない、とまた誤魔化しているのかもしれない、とそう判断したハリーは不満そうなヘドウィグを説得して、書いてきた羊皮紙を渡す。

 飛んでいくヘドウィグを城の入り口で見ていたヘンリーはぎゅっと拳を握り、目を閉じて感情の波を無理やり閉ざしていく。まるで熱の塊を飲んだようにむかむかとしていた心が落ち着いたことを確認して、何食わぬ顔で大広間へと向かった。

 ハリーが手紙を出したことにハーマイオニーは何か言いたそうにして、ロンに止められ口を閉ざす。迷うハリーは明日は一人で話したいことがあるから、とハーマイオニーに二人きりにさせてほしいという。授業で顔を合わせるハーマイオニーはそれなら分かったわ、というとちらりとヘンリーを見た。いつも通りだがどこか違和感がある。
 マルフォイは気が付いているようで、ちらりとスネイプを見る。気が付かないわけがないスネイプが壇上から降りてヘンリーに声をかけると、立つよう促してどこかに消えていく。それを見ていたハリーは彼女は守りの力がないとはいえ、あぁして人に守られている。それならそれでいいじゃないか、ともやもやした思いを胸にため息をついた。


 必要の部屋というらしい7階の扉に向かうハリーはゆったりしたソファーの上に膝を抱えて座る片割れを目にいれた。昨日はあれからヘンリーは見なかった。盗み聞いた話では体調不良で医務室にいるという話だった。

「3学年の終わりにドラコのお父さん、ルシウスさんにワールドカップを招待されて、それで昼からマルフォイ邸にいたんだ。先生に連れてきてもらって、先生は先に帰って。庭園で箒乗ったり、軽食ごちそうになったり。試合が終わった後帰ったふりをして隠れていたんだ。ただ、それだけ」
 背を向けたままのハリエットはハリーが聞きたかったことを口早に説明し、何でもないことのように言う。

「クィレルを殺したのはあれしか呪文がなかったから。憎しみに心を傾けて唱えた。ピーターも助けたいわけじゃないし、彼のせいでと思って磔の呪文を唱えた。ほかにやりようがあったのかもしれないけれども、私のわがままでやったんだ。ほかには何を話せばいい?先生と私の関係?それともドラコと私の関係?あぁ、でもハリーはもう私のことは信用していなんだよね」

 何が聞きたい、というハリエットの言葉にハリーはショックを受けて動けない。彼女はハリーが手紙を出したことを知っている。来ないでいいという手紙を出したハリーだが、もうすでにシリウスはいるのだから意味はないというハリエットの言葉を、ハリーは信用しなかった。
 前はこんなに苦しくなかったのに、と考えるハリエットは膝を強く抱きしめる。

「ごめん、ちょっとイライラしているのかも。また日を改めるから今日はもうそっとしておいて。まともな感情で話せない」
 ごめん、と繰り返すハリエットにハリーはどうするべきかわからない。やっぱりハーマイオニーに来てもらった方がよかったかもしれない、とハリエットの細い背中を見つめた。ふと、信用していないという話以外で何かあったのではとハリーは思い当たった。

「ねぇハリエット。もしかして禁じられた魔法の話を聞いたのかな」
 もしかしたら彼女は知らずに使ったのかもしれにという願いを込めて尋ねるハリーにハリエットは背を向けたまま頷く。

「僕はわかっていて唱えた。クルーシオを使ったし、死の呪文だって唱えた。僕に変な期待をしないで!これからだって、僕は必要とあれば使うし、もっと危険なことだってする」
 声を荒げるハリエットにハリーは拳を握り、軽蔑するかのような視線を送る。どんな理由があれ、人を傷つける闇の魔法はいけないことだ。
 それと同時に、ハリエットが見える未来とはいったい何なのか、ハリーは感情的になる彼女を見つめて、かける言葉も、考えもまとまらずに一歩下がる。一歩下がってしまえばもうあとは同じで、ハリーは部屋を出た。もやもやした思いがハリーの中にたまっていく。
 罪悪感と怒りと……訳が分からないハリーが顔を上げると、そこにはスネイプがいて、無言でハリーの脇から扉をノックし、中へと滑り込む。ハリーはどうすることもできないことにいら立ち、足音荒く寮へと戻っていった。


 年齢特有の情緒の不安定さと、ハリエット自身が背負う重責に混乱し、半ば錯乱しているハリエットを抱きしめる。女性ならではの不安定な時期もかぶっているのかもしれない。それほどまでに不安定なハリエットを抱きしめ、落ち着かせるスネイプはそんな彼女もいとおしくて抱きしめる。
 不安で不安で……混乱する彼女がすがるのが自分だということにほの暗い優越感を覚え、そっと髪を撫でつける。昨日は顔色が悪かったために自室に連れ込み、寝室で休ませた。顔色がひどく悪かったのと、かなり強力な閉心術を無理やりかけたがための不調を起こしていた。

 彼女はひどく何かにおびえて……そう考えたところで確か闇の魔術に対する防衛術で禁じられた魔法についての説明を受けたと聞いた。ただでさえ、彼女は片割れを守るためにクィレルに手をかけた。
 一体何の呪文だなんて……魔力の暴走ではないのだから一つしかありえない。あの時でさえ、彼女は一時的に錯乱状態になりかけたのだ。とっさにヘンリーを抱きしめることで落ち着いた彼女が……そのことを思い出したのであれば。
 死の呪文は術者が善人であるほど忌避する呪文だ。それを彼女はあえて使った。片割れを守るただそれだけのために。どうして彼女がそれを選んだのか、もう忘れたのか、とごめんなさいと繰り返す彼女を抱きしめる。彼女はいつだって他人の痛みを代わりに背負ってきた。

「大丈夫だ、ハリエット」
 私は何があってもお前を信じている。だから大丈夫だ、とハリエットが落ち着くまでスネイプはただ抱きしめ続けた。







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