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24:かつての親友と彼女の家
一階に降りたハリエットは魔法省に行ってしまったアーサーとパーシー以外の人々が集まっていることに、懐かしい思いを抱いてぎゅっとこぶしを握り締めた。多分初めてだろう、こうしてジニーと顔を合わせることは。
ジネブラ、まだ恋に恋するお年頃で、ハリーへの想いを大切に育てている……そんな時期だ。
君のハリーは絶対死なせないし、君を一人残して死ぬようなことがないようにするから、と心の内でつぶやく。もう逆光で見るようなほどに、彼女と最後に出会った記憶は朧気で、どんな顔をしていたのかも思い出せない。
それでも、彼女を泣かせることだけはもうしたくない、とハリエットは初めましてという。
「ハリーがどこまで説明したのかわからないですが、私はポッター家の長女として生を受けた、ハリエット=ポッターと言います。未来を見る力があることから、ダンブルドア先生が私をより安全な場所に移すと同時に、ある事情から狙われたポッター家の長男であるハリーを両親がしっかり守れように、と生まれて間もなく別の場所で保護されました」
自己紹介をするハリエットにハリーから聞きましたよ、とモーリーはハリーとそう変わらない小柄な体を抱きしめ、大変だったのね、といたわるように背中をなでた。
フレッドとジョージはそれで、と納得した風にし……どこか悪戯めいた眼で何していたんだと見つめる。地図のことからもばれているのは知っているハリエットはちらりと二人に視線を送った後、養母がいい人なので大丈夫です、と返した。
「すみません、多分ダンブルドア校長か、マクゴナガル先生が来ると思うので、それまでここに居させてください」
「気にすることはないわ。あなたには事情があるようだから登校日までというわけにはいかないのだろうけれども、ゆっくりしてもらって構わないのよ」
すみません、というハリエットにモーリーは笑い、私たちの自己紹介がまだだったわね、とパーシーとアーサー以外の全員が各々自己紹介をし、ハリエットと握手する。
「そうだ。ハリー、ちょっといいかな」
チャーリーががっしりした手で握手すると、何か思いついたのかハリーを呼ぶ。なんだろうかと首をかしげるハリーだが、急に持ち上げられたことに驚いて短い悲鳴が漏れる。
え、どうしたの?と驚いている間に、ちょっと失礼、と言ってハリエットも持ち上げられ目が点になる。
「うん。母さん、この二人にもっと食べさせなきゃだめだ。二人合わせてもまだ飛べないドラゴンの子供ほどもない」
昨日の夜軽いと思ったんだ、というチャーリーにドラゴンと一緒にするなよ、とビルが笑い、俺たちだってないと思うぜ、とフレッドたちが笑う。ほーじゃあ確認してみるか、というチャーリーにぎょっとして、バタバタと逃げていく。
降ろされた二人のポッターは顔を見合わせて、笑いあった。じゃあしっかり食べてもらわないとね、というモーリーにジニーやハーマイオニーも笑う。昨夜のことを吹き飛ばすように隠れ穴に笑いがあふれ出た。
夕食の時間になっても魔法省勤めの二人は顔を見せず、先に食べていましょうという号令のもと食べ始める。外での食事はやめて家の中だったために、ビルやチャーリーはなんてこともないように階段を椅子にして食べていた。
「普段は変装しているって聞いたけど、学校は楽しいかしら?」
「はい。どこの寮かはいえないですけど、寮生とは仲良くしています」
窮屈な思いをしていないか、というモーリーにハリエットは笑顔で答える。それに対してむっとするハリーをハーマイオニーが小突き、駄目よと抑える。
「そうだわ、学用品はもう買いそろえたかしら。もしまだなら明日ダイアゴン横丁に行くのだけれども」
「それはもうそろえてあります。ドレスも母さんが……義母が着ることは難しいかもしれないけれども、と買ってくれました」
ほら、食べてとソーセージが盛られ、なんだろうこの既視感、と考えるハリエットはまだハリー達が知らないドレスについてを小さな声で伝える。ハリー達がリストを見ていないことを知っているのか、モーリーもそれはよかったわと微笑み返し、ほらしっかり食べて、とハリーの皿にミートパイを追加する。
「ハリエットが食事の時にお皿に何かしら乗せられているときの気持ちがよくわかるよ」
「うん。昨日もド……昨日も昼食と夕食代わりの軽食で言われたし、命じられた屋敷しもべ妖精がマッシュポテトを食べる端から補充するから訳が分からなかった」
たまに見るとお皿にいつも何かしら乗せられている、というハリーにハリエットはうなずいて、うっかり日中のことを漏らしかける。思わずハリエットを凝視するハリーを視界の隅に置き、ハリエットはその日中のことを思い出していた。
軽食ということで昼食のように前菜から出されるものではなかったが、食べたはずのマッシュポテトが元の量に戻っていることに首を傾げ、半分ほど食べてこれで終わりに、とカトラリーを置こうとして……今度はローストビーフがいつの間にかさらに現れ……。
理解できず思わず固まると耐えられなかったようにドラコが笑いをこぼし、慌てて咳払いでごまかす
先に食べ終えていたルシウスとナルシッサも何やらほほえまし気で、カトラリーを置くドラコにヘンリーは目をしばたたかせた。ようやく学校でよくある無限ソーセージのマルフォイ邸版と気が付いたヘンリーはもういらなければカトラリーを置いていいのだと気が付き、おいしかったですと言ってカトラリーを置く。
「あなたはとても不思議な子ね」
ふふ、と笑うナルシッサにヘンリーは顔を赤くするしかできない。この手の……貴族相手には昔も敵対していない相手からは不思議とかわいがられていたため、負の印象はないのだろう。だが、今も昔もさっぱりわからない。
なんでみんなそこまで食べさせようとするのだろう、とハリエットは首をかしげるばかりだ。昔もジニーとロンに会いに来て……闇払いなのだからもっと食べなさいと山盛りされたこともある。
「詳しい話はあとで聞くけど……あの服は誰が選んだの?」
今すぐ聞きたいというオーラを出しながら訪ねるハリーに、ハリエットはあの服?と聞いてスネイプの服に似たあの服を思い出す。今もちゃんと袋に入れてある服。帰ったらベベに洗濯をお願いしようと考えているあの黒い服だ。
「きちっとした服が欲しくて、マダム・マルキンのお店で。先生の服に似ているから思わず買っちゃった。先生みたいに少しはきりっとした風に見えたかな」
もういらないとモーリーに伝えて皿を流しに持っていくハリエットが付いてきたハリーにそういうと、あぁそういう意味であの服を、と納得するようにうなずいた。
「ハリエットの周りにほかにフォーマルの服……いないかぁ……」
だからと言って、とブツブツ言い始めるハリーにハリエットは首をかしげる。
「あの陰険蝙蝠とペアルック、やっぱりそういうことでいいのかなー」
「地図の隅の方で名前を見かけるたびにスネイプがそこから動かないから、我々は大いに助かった」
ぬっと出てきたフレッドとジョージにハリエットはペアルック……と復唱して顔を真っ赤にして、違うそういうつもりじゃないとわたわたと弁明する。地図で足止め、と復唱するハリーは顔を別の意味で赤くして、本当に君あいつなんて許さないからね、と声高に言う。
「あら、恋人がいるのかしら?」
ハリーの言葉にモーリーが反応し、ハリエットは違う違うと必死にいう。だが、顔を隠して必死に否定することがすべてを物語っており、あらあらと言われてしまうともう白旗を上げるしかない。
「年上の恋人がいるの?」
そうジニーにキラキラした目で言われ、ハリエットはいろいろな意味で言葉を詰まらせる。きっとジニーは一個上のハリーのことを考えているのだろう。
肉体年齢的に20歳も離れた恋人だなんて思ってもみない視線にどうしたものかと考える。本当にチャンもかわいかったけど、このジニーの想いに気が付け自分、とハリエットはまぁうん、と頷いた。
「ちょっと気難しい人だから……。あぁもちろん、素顔をみせているよ。ただその、前から気が付いていたみたいだけど……」
「気難しい!?そんな簡単な一言じゃすまないでしょう!あいつが、気難っむぐ」
「ハリー!もう!!それ以上言うと色々だめってわかってよ!」
照れながら話すハリエットにハリーが再び声を荒げ、それをハーマイオニーが黙らせる。ハリエットとヘンリーをつなぐようなことを言わない。それが難しいことにハリーは呻くしかない。
夜遅くに戻ってきたパーシーは日中ずっと吠えメールの処理をしていたといって、ちらちらとハリエットを見る。きっと彼女に関する問い合わせもあったのだろう。だが、ハリエットはその視線に気が付かないふりをして、ジニーたちと部屋へと向かった。
それでそれで、と質問攻めにあうハリエットをハーマイオニーはくすくす笑うばかりで助けはしない。かつての恋人からの質問攻めに、彼女を残して死んだ自分への罰なのか、とハリエットは顔を赤くして、あーと言いながら頭を働かせる。
ハーマイオニーからすれば、ただスネイプとのことを恥ずかしがっているだけのように見えるだろうが、それにプラスされた羞恥にハリエとはただひたすら耐えるしかなかった。
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