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22:狙われた少女

 屋敷しもべ妖精に対する扱いに憤慨するハーマイオニーとともに、彼女の手当てをしたいというアーサーに促され、ハリーは戻ってきた自分の杖とハリエットの杖を躊躇なくハーマイオニーに渡し、ハリエットを背負う。
 同じくらいの身長と体格に大丈夫だろうかと誰もが見守る中、自分が片割れを守るんだ、とハリーはその使命感だけを持ってハリエットを持ち上げた。

「うーん……ちょっと重いんじゃないかな」
「そう。先生は軽々私のこと持ち上げるけど、ハリーじゃ非力なのね」
 重い、というハリーにハリエットは疲れたような、冷たい声でフーンと返す。むっとするハリーにハーマイオニーは笑って、何かを問いかけようとし……森から出てきた一行になぜあの印が上がったのかと問い詰める人々が集まってきた。
 けが人がいるから通してくれ、と言って進む間、ハリエットがハリーの肩越しに顔を伏せて見られないようにしていることに気が付き、アーサーは杖を振ってハリーともども布をかぶせて目立たないようにする。

 テントまで戻ってくるとチャーリーが顔を出し、ハリーに背負われている人影に目を丸くした。とにかく中に、というアーサーがハリーを先に通し、ハリーはハリエットを椅子におろす。
 腕にシーツをまいたビル、シャツが破れているチャーリー、鼻血を出すパーシーとウィーズリー家の成人した魔法使いである3人は怪我をしているが、未成年であるジニーたちはショック状態ではあるものの怪我はない。
 ハリー達も怪我はないが、ハリーの背から降ろされた、ハリーそっくりな少女はあちこち怪我を負っている。先ほどの騒ぎで彼女がどんな目に合っていたのか、それに気が付いたのかビルが杖をふるうとココアの入ったコップが少女の前に現れる。

「ひどい目に合ったんだ、それを飲んで落ち着いて」
 もう大丈夫だ、というビルにハリエットは黙ったまま、こくりと頷いてコップを手に取る。

「ねぇ、あの印って何?誰か教えてよ」
 訳が分からないという風のロンが3学期の終わりに一度だけ見た、ハリーの双子の片割れから目を離すと、あれは何なんだと問いかける。そして兄や父からあれが闇の印と呼ばれる、例のあの人の印だと聞かされ、そしてそれの出し方を知っているのはのちの文献などに載っているので少々範囲が広くはなるが、それを唱えるのは配下である者たち死喰い人だけだという。

「想像してご覧。自宅に帰った時にあれが空に輝いていることを。誰かを殺したサインでもある闇の印が……」
 どんな絶望が待っているか、というアーサーの重々しい声に誰もが言葉を失う。ビルやチャーリーはすでに物心がついていたことだろう。だからその時の世界を包む恐怖を知っている。

「なんにせよ、あの印を見た途端酔っ払いどもは泡喰ったように逃げ出したんだ。幸い、捕まっていたのが君一人だったのと、杖を持っている姿から魔法使いだということはわかっていたからね。一人の闇払いが割って入れたんだ」
 チャーリーの言葉にまた視線がハリエットに集まる。ハリエットは黙ったままコップを見つめた。かつて……かつて死喰い人ら相手にあんなに戦っていたというのに、なぜ今怖いと感じるのか。戸惑うハリエットは震える手を、コップを握りしめることでこらえる。

 そこにテント越しにアーサー=ウィーズリー、と呼ぶ声が聞こえ、緊張した様子でアーサーがテントの外をうかがう。なにやら話す声に緊張が走るが、分かったといって何かを受けとるアーサーは今すぐここを離れよう、と言い出した。

「えぇっと……ハリエットといったかな。君を安全な場所にいち早く連れて行ってほしいと、今神秘部の無言者の者たちがポートキーを準備してくれた。一度我が家に来てもらってもいいだな?君を保護しているダンブルドアには彼らが至急フクロウを送ってくれるらしいが、今日は夜遅い。ここよりは安全だろう」

 まっすぐにハリエットのそばにきたアーサーが屈みこんでそう告げると、ハリエットはごめんなさい、と小さな声で謝る。気にしなくていい、と言い荷物をまとめると全員で外に出て杖でテントを片付けた。
 準備が整うと待っていた無言者がこちらに、と先導していく。ハリエットは再びハリーが背負おうとしたが、ポートキーを使うのにそれでは危ないと止められ、代わりに比較的怪我が少なかったチャーリーが失礼するよと、と言って抱き上げた。

 そのまま足早に離れると神秘部の男はハリエットを見て、くれぐれも無茶はしないように、とだけ告げて去っていく。古タイヤにつかまり、ロンの家である隠れ穴がある地域まで行くと、魔法が使える成人4人で明かりを出し、周囲を警戒しながら進んでいく。
 やがてどこか不思議な温かみのある、ハリエットにとって忘れもしない家が見えてきた。光に気が付いたのかウィーズリー夫人、モーリーが胸騒ぎに飛び出してきた。一人抱えられている姿に驚き心配そうな顔で駆け寄って家族全員の無事と、チャーリーに抱えられた、ハリーにそっくりな少女に安堵と戸惑いの声を上げる。
 説明は後だ、と疲れ切った様子の夫に何かを察したのか、さぁ中にと全員を入れる。ぐったりとした様子から朝聞くから今は寝なさい、と部屋に押し込めて、ハリエットを見つめる。

「ハリエットは私が一緒に寝ます。去年の夏、彼女の家に泊まった時そうしていましたから」
 大丈夫です、というハーマイオニーにモーリーはわかったわ、と言って女子3人を同じ部屋に入れた。とにかく今はみんな無事でよかったと今はひと先ず皆眠りへと落ちていった。






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