--------------------------------------------


20:ワールドカップで鉢合わせ

 少し早い夕食代わりの軽食に、出されたものをたくさん残すのもマナー違反になるのでは、と食べるヘンリーを親子3人は見守り、準備を整えるとちょうど飛んできたフクロウからポートキーを受け取った。
 そのままポートキーに触れると、なぜかドラコに抱えられ、そのまま玄関先から会場へと飛ばされる。
 なんとか着地の衝撃をこらえるヘンリーだったが、ドラコもまた衝撃をこらえ……ヘンリーも一緒に支える。何とか二人でこらえきると、会場へと一行は向かっていった。

「私、こんな騒がしいところ苦手だわ」
 いろいろな臭いがして嫌だ、というナルシッサはどこか顔をしかめるようにしている。大臣からの招待だから断れないというルシウスはそんなナルシッサをエスコートし、先を歩いて行った。

 にぎやかな雰囲気にヘンリーは懐かしさと不思議と沸き起こる高揚感に、あたりを見回す。ドラコも平静を装ってはいるが、もともとクィディッチは選手を務めるぐらい好きなのだ。視線だけちらりとクローバーで覆われたテントなどに目を向けている。
 自分を見るヘンリーに気が付き、目が合うとどちらからともなく笑いがこぼれ、ブルガリアとイングランドの選手について、話し合う。クラムのフェイント技などは覚えていたが、それでも心躍る雰囲気にヘンリーは楽し気にドラコとどちらが勝つか、と予測を立てあった。


 会場につくと、ルシウスは階段を見上げて眉をしかめ、人をよけるなどせずお構いなしに上っていく。ぶつかった人々は振り向き、マルフォイ家の当主ルシウスであることに気が付くと黙って道を譲る。それに続くナルシッサと、ドラコに半ば抱えられるようにヘンリーもついていった。
 貴賓席まで行くとあることに気が付いたヘンリーは、入ってきたマルフォイ家に気が付いたらしい一家と絶句した様子のハリーにあぁと深々ため息をついた。完全に忘れていた。
 ウィーズリー家の父アーサーに嫌味を言うルシウスだが、それに気が付いていないファッジは寄付をありがとうとあいさつを交わし……最後尾にいるヘンリーに気が付いたようでおやっ、という顔をする。

「あぁ、息子の学友だ。息子が去年、例の害獣に襲われた際身を挺してくれたのだ」
 あぁやっぱり挨拶しなきゃだめか、とヘンリーはすぐに余所行きの顔をして軽く会釈する。

「初めまして、魔法省大臣ファッジさんですよね。お目にかかれて光栄です。ヘンリー=マクゴナガルといいます」
「あぁ!あのヒッポグリフの時の。君のことは他の学友などからも聞いたよ。実に勇気ある行動だ」
 本当に素晴らしい、というファッジにこの夏も会いましたけどね、とヘンリーは握手を交わしながら、友達ですからと大したことはしてないという。マルフォイ夫妻が並んで座り、ドラコに続いてヘンリーが座ると、じっと見ているハリー達に視線を移す。
 まずいなぁと考えるヘンリーはそうだ、と自前の収納用の袋を取り出した。

「どうしたんだヘンリー」
「あー……いや、んー……。昔初めて会った時にドラコがこの髪を見て、あの赤毛と間違えただろ。だからなにかかぶるものはないかなって思って。マルフォイ家の君と仲がいい、彼の親族なんて誤解を与えたくないから」
 間違えられるのは僕だっていやだ、というとロンの顔が露骨に嫌な顔になり、ハリーの視線もまた険しくなる。あぁ、と気が付いたらしいドラコは気にする必要はないのに、と言い……聞こえていたのかナルシッサがそれならば、と杖を振って黒いストールを取り出す。

「気にすることなどないのに。でもそういうのであれば、これを」
 さぁお使いなさい、というナルシッサがドラコに渡すと、巻いてやろうという言葉に甘えて髪を隠すための工作をする。

「赤い髪のヘンリーで見慣れているからなんか変な感じだ」
 それでも似合っているな、というドラコにヘンリーはだろ、と笑って見せる。ハーマイオニーにたたかれて前を向くハリーだが、ヘンリーにはその無言の訴えが聞こえてきそうな気がした。


 いよいよ始まると、ヴィーラを見たヘンリーはドラコに耳塞いで、と合図する。あぁ、とヴィーラに気が付いたドラコが耳をふさぎ、同じように耳をふさいだヘンリーを見る。こうしてみるとヴィーラの踊りは艶やかで、色っぽいがあの飛び降りてそばに行きたいなんて言うことは起きない。
 踊りが終わるとルシウスら大人の男性もきちんと耳をふさいでいたらしく平然としていて、ロンとハリーの様子にドラコと二人で笑いあう。その笑い声が聞こえたのか、むっとしたロンが振り向こうとしてハーマイオニーが諫めた。
 レプラコーンの出す偽のコインにはしゃぐ人々をマルフォイ家は心底軽蔑した風に見下し、ヘンリーもまた正体を知っているだけに意気揚々と拾ったコインをハリーに渡すロンを見る。

 闇の魔術に対する防衛術などではこういった人に近い亜人とも呼ばれるような人々のことについても学ぶ。はずだったのに、1学年はまぁまだまじめだったがまだ早い。2学年時は本当に無駄だったし、3学年目でやっと動いたが狼人間までしかできなかった。
 今年はどちらかというと闇の魔法に関することで、5学年目は全くいらない。本当にフクロウやイモリレベルなのか?と首を傾げたほどだ。6学年目は……戦いに備えた本格的な訓練で、学ぶ機会が全くなかった。

 巨人も、トロールも、身近なのにまったくしらない。闇払いになってからいろいろ知ったことも多い。ヴァンパイアのことも、ヴィーラのことも。小鬼たちだって知らなかったからあの当時、あんな裏切りを受けたのだ。
 なんだかなぁとため息を飲み、入ってきた選手に目を向ける。ここからだと顔まではわからないが、シーカーの名前が出てヘンリーはじっとクラムを見つめた。ひどく懐かしくてたまらない。
 彼とはなんだかんだ長い付き合いになったのも今となっては不思議で仕方がなかった。

 試合は目まぐるしいもので、ドラコとともにシーカーの動きを目で追う。ウロンスキー・フェイントを決めるクラムに思わずドラコと顔を見合わせ、あれが完成形だと笑いあう。ドラコもまた興奮した様子が隠せないみたいで、きらきらとした表情でファイアーボルトの素早い動きを追っていく。

「まずいな……この点数差だと今クラムがスニッチを捕まえたら……」
 初夏の試合を思い出したのか、ドラコが冷静に分析し、じっと目で追う。あの時、点数の差というのが何よりのネックだった。これは

「でももうチェイサーは疲れ切っているよ。あぁ!クラムがとった!」
 同じように真剣に試合を見ていたヘンリーはずっと目で追っていたクラムが、一瞬何かをこらえるようにしたのが早すぎて見えるはずもないのに見えた気がした。そして次の瞬間にはクラムの手にスニッチが握られている。

「勝負に勝って、試合には負けた……ということか」
「これ以上チームメイトに負荷をかけたくなかったのかもしれないね。どちらのチームもだけど、明らかにチェイサーの動きとキーパーが箒に振り回されている」

 いつも早い物を追うシーカーならいざ知らず、このファイアーボルトは他の選手が使うには動体視力と集中力と体力が持たないのでは、というヘンリーにドラコもそうかもしれないなと唸る。
 これは後々にジニーから聞いたのだ。箒の開発は目まぐるしいものだったが、そのうち試合を見ていて目が回って倒れる人が増え、衝突時のけがも大きくなって……。
 ある一定の速度に規制されたと。不満な声も上がったが、選手は大きな声は出せないものの喜んだという。特に体が軽い女性選手は衝突時のケガも男性と比べ物にならないほどで、どうしたって風に飛ばされてしまっていたのをぼんやりと思い出した。そもそも、ブラッジャーの最高速度やスニッチの速度に追い付いてしまったことももちろん要因ではある。

 すぐ近くに運ばれてきた優勝カップと、ぼろぼろの選手たちを見つめるヘンリーはドラコと目配せし、すごい試合だったと頷きあった。
 長居は無用とばかりにさっさと出ていくのかと思いきや、大臣との会談やそもそも階段から人が減るまでを待つらしく、ドラコはまだ座っていて大丈夫だという。そうだね、と座っていると赤毛の一行はまだ興奮気味なハリー達とともに降りて行ったらしく姿はない。

「あ、これありがとうございました」
 そうだとストールを外すヘンリーは洗って帰すべきか迷うと、ナルシッサが手を差し出したため、手早くたたんでストールを返す。受け取ったナルシッサが杖をふるうと跡形もなく消え、ドラコに本当にいい友人を持ったのね、と笑う。




≪Back Next≫
戻る