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18:キャッチボール

 ガーデンに向かうと色とりどりの花が咲いていて、ヘンリーはすごいと足を止めた。手入れはやはり屋敷しもべ妖精だというが、花はナルシッサが気に入ったものを選んでいるという。

「母上は時折ガーデンのガゼボでゆっくりなさる。なんとなく、ヘンリーは絵画や石像よりもこういうものの方が似合いそうな気がしたんだ」
 やっぱり間違いじゃないな、というドラコにヘンリーはどうかしたかい?と首をかしげる。それにしても、と改めて周囲を見て……目の前に広がる、ちゃんと“見せる庭”ということにヘンリーは懐かしさを覚え、かつての伯母の家を思い出す。
 ホグワーツのように様々なものが咲いているのと違い、あの家は芝がピシッと切りそろえられていて、季節ごとに買ってきているのであろう、植木鉢に花が咲いていた。

「こんなに広いガーデン、びっくりした。前に家で箒に乗っていたって言っていたけど納得だね」
 本当に広い、というヘンリーにドラコはその話題が出ると思った、と言ってガゼボから箒を二つ取り出し、片方をヘンリーに投げ渡す。

「屋根より高く飛ばなければ敷地内どこへでも大丈夫だ。ニンバス2001、行くだろう?」
 ボールはこれを使おうとクァッフルに似たボールを取り出して、ドラコが先に空に飛ぶ。受け取ったヘンリーもさっとまたがるとその後を追う。
 キャッチボールの要領でボールを投げあい、時に箒で打ち返す。


 ギャラリーに来たルシウスとスネイプは外を眺めながら、ピンと張りながらもどこか気安げな様子で言葉を交わし……ルシウスが左腕に軽く手を置く。

「やはり少し痛みますか。何が起きているのか」
「あぁ、セブルスも感じているか。だが、あの方は……」
 そっと自分の腕に手を置くスネイプにルシウスは何が起きている、と窓の外を見つめた。外ではガーデンに向かう息子とその友人の姿があり、バラのゲートの向こうにいったことでその姿が見えなくなる。
 同じように見ていたスネイプは花に紛れてちらりと見えるドラコの頭を目で追い、少しいらだったように、腕の痛みを抑えるふりをして腕を握りこむ。ほどなくして二人が箒に乗って現れ、ボールを投げあう。
 万が一ボールがどこか飛んでも屋敷しもべ妖精が受け止めるとなっているのか、二人に姿を見せないよう小さな頭が垣根の陰から空をうかがっていた。

「今年は何としても例の催しものがある。年齢制限が設けられるということだと聞いているが……成人を迎えた生徒だけだという話であったな」
「えぇ、年齢制限により17歳を迎えたものだけが炎のゴブレットに名前を入れることができるようにすると聞いております。今年こそは事件が起きなければよいとは考えていますが……」

 今年もまた苦労が絶えないな、と笑いかけるルシウスにスネイプは肩をすくめる。競争するように飛ぶドラコとヘンリーを目で追い、14歳の彼らは騒動に巻き込まれることはないだろうとスネイプはそっと息を吐く。
 ヘンリーはドラコが投げたボールをキャッチすると勢いよく飛ばすため箒でボールを打ち出した。難なくキャッチするドラコが同じように打ち出し、ヘンリーもまた正確な箒さばきで取りに行く。

「彼の体調については改善できないのか?」
 生き生きとする息子と、気おくれする様子もなく単に友人と遊ぶという風の赤毛の少年を見る。大嫌いなあの赤毛の一家とは少し違う雰囲気の赤い髪をなびかせ、ヘーゼルの目で笑う少年。
 彼を見る息子の表情がいつもと違って見え、ルシウスはスネイプに問いかけた。

「今は安定しているのですが、感情的になった際や、危機に陥ると力を制御できなくなり……それが外部に吐き出されればまだいいものを、彼の場合自分の内側で何とかしようと閉じ込めてしまうようで。薬のおかげで今は発作も完全に制御できるようになっているので、副作用として少々体力に難がでていますが、問題はありません」
 もう少し成長し、ホグワーツで学んでいけば薬に頼らなくても大丈夫だと言い切るスネイプは箒から降りて休憩する二人を見下ろす。なるほど、と頷くルシウスはご主人様、という声に振り向いた。

 見窄らしい姿の屋敷しもべ妖精がおずおずと来客が来たことを知らせる。
「あぁ、もう来たのか。セブルス、君もクリスマスのダンスパーティーには参加するのだろう。仕立屋を呼んだのだが、見ていくか?」
 マルフォイ家御用達の礼服を扱うものだ、とルシウスは屋敷しもべ妖精に息子らに声をかけてくるように言いつけ、応接室へと向かった。階段を下りながら……なんだか嫌な予感に自分には必要がないと分かっているものの見てもいいだろうかとついていく。
 きっと自分を立てて見に行くというだけで、手に取ることはないだろう、と長年の付き合いで分かっているルシウスは笑い、尊大な様子で応接間へと入った。




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