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17:マルフォイ邸

 マクゴナガルが不在のため、スネイプとともに薬草の採取を行っていたハリエットの前に、大きなワシミミズクが飛んできて、迷った風にしながらスネイプに手紙を差し出す。
 受け取ったスネイプをみたハリエットは物陰で薬を飲むとヘンリーになって顔をのぞかせる。ワシミミズクはヘンリーに気が付いて、スネイプの手から手紙を奪い返すと、ヘンリーの肩にとまった。

「あ、ワールドカップの日の待ち合わせだ。11時にマルフォイ邸に来てほしいって。服装どうしよう……」
 まだヘンリーの服を買いに行けていない、というヘンリーにスネイプはじっと見つめる。ハリエットの買い物に行った帰り、マクゴナガルにハリエットにもドレスを購入したと聞いて……どんなものかを聞きそうになったことを思い出す。
  きっと見る機会はないだろうと目をそらし、どんなドレスなのか……聞けば想像してしまうと考えて耳を閉ざしてきた。

 夏服はあまり用意していないヘンリーの服装、とたまたまパンツスタイルだったために女装を逃れたヘンリーを上から下までじっと見るスネイプはふむ、と考える。

「あまり着飾らなくてもいいだろう。私もこの服装で行くつもりだ」
 気にしなくてもいいのでは、というスネイプだが、それはきっと学生時代からスネイプを知るルシウスだからこそではないのか。少なくとも成人後、とある純血の一族が住む屋敷に行くのに闇払いの衣装以外のフォーマルで行けという命令があったことから、子供とはいえ礼儀に反するのではないか。

「気にするのであれば、明日時間がある。ヘンリーの姿でダイアゴン横丁に買いに行けばいいだろう」
 ちょうど切らしているものがある、というスネイプにヘンリーは頷き、ワシミミズクに手紙の返事を書いて渡す。ドレスローブのはきっちり断ろう、と違う姿でまた行く店によしっと心を強く持つと、気合を入れた。

 ヘンリーは何とかフォーマルなローブだけが欲しいとお願いし……残念がるマルキンにある邸宅に行くのだというと、マルキンは大変ねと状況を理解してくれた。
 ドレスローブではないがいつも着るような服ではないピシッとした服に袖を通す。黒で統一したジャケットとズボンに身を包んだヘンリーは一見するとマグルの服にも見えるが、長い裾でズボンが隠れ、どこかスネイプのような雰囲気となる。
 大人の男性でピシッとした服というとスネイプが真っ先に思い浮かび、ヘンリーはなんだかくすぐったい気がして……すぐに決めた。

 ついでとばかりにハリエットの時にできれば眼鏡を変えておくといいかもしれない、といつもとは違うハーフリムの眼鏡も購入した。余裕があれば眼鏡を変えればより安全だろう。
 別の買い物を済ませて待っていたスネイプに城に返ってから見せると、私の服に似ているな、と笑みを浮かべられ、ヘンリーはきょとんとした顔で首をかしげた。似た服じゃまずかったかなと思うが、スネイプに似合っていると額に口づけられてヘンリーははにかむように笑う。


 ばしっ、という音ともにスネイプに縋り付いていたヘンリーは顔を上げて、目の前にそびえたつ門を見上げた。閉じられた扉を見上げると、屋敷しもべ妖精がいるのだろう、勝手に扉が開き、ヘンリーは思わずスネイプの手を握る。
 かつて見たときは捕まえられて連れてこられていたというのもあり、こうして外見をみることはなかった。明るい陽光を浴びる邸宅は厳かで、どこか気品のあるたたずまいをしていて……。
 わざわざここを拠点に選んだのはルシウスに対する様々なことだけでなく、リドル邸に比べて格式の高そうなこの屋敷が欲しかったんじゃないか、と闇の帝王に呆れてしまう。

 気おくれした様子のヘンリーにスネイプは口角を上げると、中に入るよう促した。ピシッと敷き詰められた石畳に靴音を鳴らし、進んでいくスネイプの後を慌てて追う。
 正面の扉が開き、ラフな格好とは?というしっかりとした服装に身を包んだドラコが出てきて、スネイプにあいさつし、隣にいるヘンリーにも目を向け……どこか呆れたような笑みを浮かべた。挨拶を返すスネイプを見上げるとおかしかったかなと改めて自分を見下ろすヘンリーの肩をたたいて元気だったかと問いかける。

「もちろん。相変わらず薬は飲んでいるけど、スネイプ先生に改良してもらってだいぶ体は楽になったよ」
「ならよかった。とにかく先に父上と母上にあいさつをしたらいろいろ案内しよう」
 体調はばっちりだというヘンリーにドラコはほっとしたように笑い、二人の客人を中へと通す。ホールで待つのは夫妻で、初めての客であるヘンリーに威厳たっぷりにようこそ我が邸にと出迎える。
 緊張するヘンリーだが、なにやら……記憶にあるルシウスが見せたことのないようなどこか温かみのある目で見られたことに目をしばたたかせて慌てて背筋を伸ばす。

「お招きいただきありがとうございます。ヘンリー=マクゴナガルです。えっと……クィディッチワールドカップへのご招待までいただき」
 ピリッとした空気に気圧され、ヘンリーは胸に手を当てた格好で軽く会釈しつつ、挨拶が頭から抜けていく。あぁ焦っているな、と普段の彼女を知っているスネイプは一人あわあわしている様子にルシウスを見て互いに笑いを含んだ目で見る。

「そうかしこまらなくていいのです。あなたは息子を危険なヒッポグリフから守ったのですから」
 思わずという風に笑うナルシッサにヘンリーは顔を上げて全員がどこか温かい目で自分を見ていることに気が付き、顔を赤らめた。

「なるほど、保守的なスリザリン寮において、一目置かれているだけはあるようだ。私がドラコの父、マルフォイ家当主のルシウス=マルフォイだ。こちらが妻のナルシッサ。あまり体が丈夫でないと聞いているが、招待を受けてくれたことを感謝しよう」
 一目置かれている、と聞いてヘンリーは思わずドラコを見る。驚いたような、いつものわかっていなかったような顔で見るヘンリーにドラコは笑い、だから言っただろうという。

「セブルスを心酔しているとは聞いてはいたが、わざわざ似た服を用意するとは。セブルス、なんとも教師冥利に尽きるというものではないのか?」
 まだあって間もないというのに、くるくると表情を変えるヘンリーにルシウスは目を細め、スネイプに視線を送る。さすがにドラコが勘付いた関係をドラコは両親に話していないようだが、ヘンリーの服装に何か思い当たったのか、ルシウスとナルシッサは始終、客人二人に暖かな視線を送っている。

「きちんとした服装ということで、私の服装が真っ先に浮かんだとか。余計な仕事ばかりを増やすグリフィンドール生らと違い、こちらの意を汲んでくれる彼とドラコの二人がいるおかげでよかったと、そう日々感じているところですな」
 慕われていることには悪い気はしないので、というスネイプにルシウスは満足げに笑みを浮かべ、さぁ昼食にしようとそういって階段を上がっていく。きょろきょろとしそうになるのをこらえるヘンリーにドラコはそう硬くならなくてもいい、と手とつないで歩いていく。

「こんないろいろ置いてあるとどこを見ていいのか……。さすがマルフォイ一族だね」
 うわぁ、と驚いているヘンリーにどこか得意げなドラコは口角を上げ、どこかむすっとしたスネイプをちらりと見る。ばちりと合う視線にドラコはさっと視線をそらし、ヘンリーに食後どこに行きたいかと問いかける。
 どこを見ればいいのかさっぱりだよ、というヘンリーにそれじゃあぐるっと案内しようと笑いかけた。


 食堂に入り、席に着くと椅子が勝手に動き……スネイプもドラコもみんな当たり前の顔で座るのを見てヘンリーも慌てて座る。屋敷しもべ妖精の仕事、ほんと多いな、と内心考えるヘンリーは向かいに座るドラコに見られているのに気が付き、笑ってごまかす。
 昼食ということで軽食ではあるが、客がいるからなのか、目の前の皿に音もなく前菜が現れた。静かな食事だが、なんだか緊張するヘンリーはスリザリンの席以上に音に気を付けてカトラリーを扱う。
 次々現れる食べ物にちらりと視線を上げたヘンリーはテーブルを見て……ちょうどこちらをうかがっていたルシウスと目が合った。

「ドラコから君は小食だと聞いているが……もう少し食べたほうがいいのではないのか?」
「いえ、お気遣いありがとうございます。十分堪能させていただいています」
 本当に細い、というルシウスにヘンリーはごくりと口の中の物を飲み込み、大丈夫だということを伝える。

「ホグワーツにいるときはヘンリーが視線を外した際に、パンなどが盛られて必死に食べています。ですが、父上、これでも今日のヘンリーは食べている方ですよ」
 放っておくと本当に少ししか食べないので、というドラコにヘンリーはそんなことないと首を振った。だが、スネイプも今日はまだ食べている方ですな、と言われてそんなに少ないかなと首をかしげる。かつてもそんなにがっついていたわけではない。

「気が付いたらソーセージとかが盛られているせいで、顎が疲れているのが原因だとおもうんだけど」
 かたいパンとか本当に顎が痛いんだ、というヘンリーにルシウスの目がドラコに向けられる。顎が細いから大変ね、とナルシッサが同情している中、一生懸命ほおばる姿を連想した大人二人が多感な男子学生何をしているんだ、と小さくため息をこぼした。
 ほかの寮生が何を考えているのか、父とスネイプが察した様子にドラコは気が付かないふりをして、さっと口元を拭くと立ち上がった。

「母上、ヘンリーをガーデンに連れて行ってもいいでしょうか」
 食べ終わったのなら行こうと促すドラコがナルシッサに問いかけると、ナルシッサはどうぞ、と微笑み返し、仲良く部屋を出る二人を見送った。
「ドラコがあんなに楽しげにしている姿は初めてかもしれないわね。いつもはあの二人をまるでボディーガードのように従えて……。友人のために率先して案内するなんて……成長したのね」
 思わず笑みを浮かべではわたくしも失礼しますわ、と席を立つ。ルシウスとスネイプもまた移動するため席を立った。





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