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2:魔法大臣

「私はハリエット=ポッター。訳あって双子の片割れと離れて暮らしています」
 少しウェーブのかかった黒い髪に緑の瞳。去年すぐ近くでみたことのある風貌にファッジは驚き、なんとなんとと声を上げた。ダンブルドアの探るような視線を無視して、ハリエットは小さく会釈するにとどめる。
 ハリエットの感情を抑えたようなまなざしで、彼と大臣の間に深い亀裂が入ることを予測したダンブルドアはそっと目を伏せた。どんな亀裂なのか、簡単に予測できることに長いひげに隠れる様に口角を上げる。

「今日は神秘部へ用事があり、まいりました」
 もう帰るところだというハリエットに大臣は驚きを隠せないまま、ダンブルドアと少女を交互に見る。
 彼女が魔法省に登録されていないことに関して、どういうことなのかという視線をダンブルドアに送るファッジに、神秘部の案件じゃ、とダンブルドアは簡潔に答える。
 神秘部は魔法省の一部門でありながら、少々扱いが異なっている……異質な部だった。彼らが関わっているという少女に、ファッジは訳が分からない。
 不思議、と見ていたバーサは時計を見て、上司が来る前に行かないと、と姿を消した。

「私の身辺にかかわることは全て神秘部にかかわる事です。ですので……詳細をお答えすることはできません」
 たとえ大臣だろうと、それは関係のないこと。表情を変えることなく、淡々と告げるハリエットにファッジはどう反応すればいいのか、そしてあなたは関係ないという物言いが少し失礼な少女に苛立ちを覚えているようだ。
 だが、たかだか14歳になるという得体のしれない少女に言われたぐらいで苛立つなんて、とハリエットはため息を付く。

 それにしても魔法大臣に誤った報告なんて、と不思議に思い考えるハリエットはダンブルドアに促され、ぺこりとファッジに挨拶をして出口へと向かう。トンクスとはここでお別れらしく、警護対象との別れと言った風よりは少しフランクに小さく手を振る。

「どうやら、神秘部が14年間探していた君を詳細が分からないながらに伝え聞いたのじゃろう。君が思う通り、大臣に誤った報告などできるものなど、いるはずがないのじゃよ」
 彼女を安全な場所に移動させねばならない、と言って促すダンブルドアが暖炉に向かう途中、ハリエットに聞こえるほどの小さな声で推測じゃが、と言う。
 
 
 本当にあの人好きじゃない、と顔をしかめるハリエットはフルーパウダーを手にして暖炉に近づく。

「まずは安全な場所として、ここに行くといいじゃろう」
 義母マクゴナガルとの待ち合わせ場所である、ある民家に行こうとしたハリエットだが、ダンブルドアは了承済みじゃと言って別の住所が書かれた紙を手渡した。首をかしげるハリエットはそれを受け取ると、見たことのある住所にどこだっけと考え……さっと顔を赤らめた。

「実は、生徒の一人が休暇早々に問題を起こしての。その処理に行かねばならなくなったのじゃ。君がここに来るという事に心配しておったから、早く顔を見せに行くといいじゃろう」
 副校長でもあるマクゴナガルに急用が入ったというダンブルドアは、にこりと微笑み背中をそっと押す。かつて、かつて写真を探しに行ったこともある、彼の家。母の故郷のすぐそばにある、スピナーズ・エンド。
 書かれていた住所を口に出すと、ひゅっと体が目的地に向かって、いくつもの暖炉を通過していく。そろそろ止まる、と感覚的に目的地についたことを感じ取り、前に手を出した。
 だが、その手が床につくことはなく、待ち構えていたらしい黒衣に吸い込まれ、衝撃も何もかも体験したことのないほどに穏やかに煙突飛行を終えたのだった。






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