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38:ハリーの失態
ハーマイオニーとの仲がいよいよ険悪になったハリーとロンはホグズミードに来ていた。ハーマイオニーの心配もあるが、やはり一人残っているのがひどく寂しい。
それに、マルフォイらと出かけるヘンリーが見えたから、余計になんで自分だけ行ってはいけないんだという憤りもあった。
ロンにあちらこちらを案内してもらい、わくわくとするハリーは雑貨屋にいるヘンリーを見つけ、あたりを見回す。どうやらマルフォイとは別行動らしく、何やら真剣な顔で……トラ猫の絵が描いてあるカップを買うかどうか悩んでいるようだった。
声をかけるわけにもいかず、ハリーはロンとともに叫び屋敷へとやってきた。憂さ晴らしを兼ねてロンをバカにするマルフォイをからかい……うっかりマントから首が出てしまったハリーは急いで城へと戻ってきた。
小箱を二つ持ったヘンリーにぶつかりそうになりながら秘密の抜け道を走り、隻眼の魔女の像のこぶから出て角を曲がったところでスネイプにつかまった。
地下牢教室を抜けてスネイプの研究室に入り……ハリーは睨み付けるスネイプに僕の片割れと何をしているんだと問い詰めたくなるのをぐっとこらえる。
「マルフォイ君が言う話では、叫び屋敷近辺でおかしなものを見たという。何だと思うかね。君の頭だそうだ」
先に戻っていたマルフォイからの話を確認するスネイプにハリーはとぼけて見せる。だが、そんな嘘は通じないといった顔で、じっと見下ろすスネイプにヘンリーに聞いてみたらどうですか、と口を開いた。
「ミスター・マクゴナガルがどう関係していると?」
「出かける集団の中で、マルフォイと歩いているのが見えたので、同行していたはずです」
目を細めて問い返すスネイプにハリーはそう答え……彼女なら一緒に誤魔化してくれるはずと願う。
「それはそれでまたおかしな話だ。彼は先ほど玄関ホールに一人で戻ってきている姿を見ている」
いっしょには行動していない、と言い切るスネイプに一人で雑貨を見ていたことを思い出す。いくら変装しているとはいえ、彼……いや彼女もシリウス=ブラック関連で守られる立場かもしれない。
それでもホグズミードに行けるというのであれば何かしら見張る処置がされていて……ということも考えられる。彼女が一人で行動していたことを知っていたのならば、逆に自らの首を絞めかねない、とじっとスネイプの眼を見返す中、ハリーはぐるぐると考えていた。
「我が寮の関係のない生徒を巻きこみ、話を逸らすのはやめたまえ。なるほど、魔法省をはじめ、ホグワーツ職員が警戒している中、自分は関係ないと勝手に心配なりすればいいと、そう考えているわけですな」
ぴしゃりとヘンリーは関係がないと言い放つスネイプは、ハリーをじっと見下ろしながらハリーを逆なでするように言い放つ。
逆上するもんか、と堪えるハリーだが、スネイプの眼がより一層憎々し気なものになったことにぐっと力を籠める。
「父親にそっくりで構内を我が物顔で闊歩し、規則など歯牙にもかけない」
急に攻め方を変えてきたスネイプにハリーは虚を突かれ、今度は怒りでスネイプを睨む。
「君の父親も随分と傲慢だった。クィディッチの才能が少しばかりあるからと言って、友人らなどを連れて自分が規則だと言わんばかりの顔で校内を歩き……」
「父さんはそんな人じゃない!」
なじるスネイプにハリーの我慢は限界になる。思わず出た声にスネイプの眼が一層意地悪気に光った。ヒッポグリフとのにらみ合いのほうがましだ、と内心考えるハリーはハリエットのこともあり余計にいら立ちがつのる。
「父親と瓜二つだまったく。君の父親と容姿だけでなくその愚かしい性格まで似るとは」
「黙れ!!」
かっとなったハリーが思わず怒鳴ると、スネイプの顔がより恐ろしいものになり、ぎろりとハリーを睨み付ける。それでももう構うもんか、と怒りが勝るハリーは黙れと言ったんだ、と繰り返した。
相手がどんなに危険な光を瞳に宿らせていても、こっちは重大な秘密を握っているんだと、心を奮い立たせる。
「自分こそどうなんだ!未成年の女の子を部屋に引き入れて!!僕は知っているんだ!ハリエっ」
規則を曲げていいとは思わない。それでも、教師としてどうなのか。そう怒鳴ろうとしたハリーは素早く振るわれた杖によって口をふさがれる。
「今何を口走ろうとした!その存在を知られてはまずいことを理解していないのかね?」
激怒した様子のスネイプに、ハリーは塞がれた口のまま呻くしかない。そうだ、この秘密は彼女の身を危険にさらす事でもある。ハリーがそのことに気が付いた様子であることを確認するように睨むスネイプは、杖を振って塞いだ口を元に戻す。
「ポケットの中身を出したまえ」
先ほどのことは聞いていなかったようにふるまうスネイプに、ハリーは問い詰めたいのを堪えて睨むも、殺気立ったような怒気をはらんだ目で睨むスネイプに促され、しぶしぶポケットの中身をひっくり返した。
マントを通路に置いてきてよかったと思うハリーは、今はただの古い羊皮紙になっている地図をちらりと見つめる。その視線に気が付かないわけもなく、スネイプはこれは何だねと問いかけた。
ただの羊皮紙と誤魔化すも怪しまれてしまい話をそらすことができない。正体を現せと言うスネイプに反応するように作成者と思われる4人からの罵倒のような言葉が現れ、思わず青ざめるハリーは暖炉に向かってルーピンを呼びつけるスネイプの背を見つめる。
現れたルーピンと地図を巡ってやりとりをしていると、息を切らせたロンが飛び込んできて、ルーピンの言い分である悪戯グッズであると、そう告げて……ルーピンに促されて研究室をあとにした。
玄関ホールに上がるところで階段を降りていくヘンリーとすれ違い……はたと立ち止まったヘンリーが一つ呻いてから石壁の通路をどこかに向かって走り去っていった。
玄関ホールで振り向いたルーピンの何処か失望にも似た苦言に、ハリーとロンは俯き没収されてしまった地図に何も反論できずとぼとぼと惨めな気持ちになって寮に戻っていった。
そこに待ち構えていたらしいハーマイオニーが駆けってきて、すっかり忘れてしまったバックビークの裁判の結末に更に落ち込むこととなった。今度は手伝うとそう約束した途端泣き出したハーマイオニーにハリーはハリエットとの会話を思い出す。彼女はずっと自分を隠して男として生きて……。
あっとハリーはそこで息をのんだ。ルーピンはあの名前の人を知っていると言っていた。もしや使い方を知っているのではないか。もし知っているのであれば……ヘンリーの名前が違うことに、もう一人のポッター家の名前を見てしまう。
だがそれをどう説明すべきか。名前の違う生徒がいるけれども気にしないでください、なんて言えるはずがない。ネビルが合言葉を落としたように、今度は自分のせいで大切な家族の秘密を広めてしまっているかもしれない。
かといって彼女に気を付けろなんて……。どうしようと焦るハリーは途方に暮れたように誰もいない廊下を振り返った。
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