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35:似た者同士
マクゴナガルにファイアボルトのことを聞かれ、ハリエットは曖昧にしか返すことができない。ただ、それで何かを察したのか、基本的な呪いの確認だけ行いましょうという。
「この部屋で課題やってもいい?スリザリン寮やっぱり寒くて」
「えぇ構いませんよ。それにしても素晴らしい箒です。これ以上のものは出ないでしょう」
本当は呪いの確認なんてして性能が落ちたりでもしたら嫌なのですが、というマクゴナガルだが、それはそれこれはこれ、と気持ちを入れ替える。
それを楽しげに見るハリエットは持ってきた課題を広げ、自室で片付けていく。幸い、スリザリン寮にいる先輩は接点が無いうえ、今年は最初にスネイプと薬のことで就寝時間に戻ってこなくなることも伝えられていたため放置されている。
おかげでスネイプの所で泊ってしまったことにも気が付かれていない。そのため、ここで課題をやってしまおうと久々に自室に戻ってきていた。
明日は年末だ、と空になった籠を持ち歩いていると突然空き教室から腕が伸びてきて、驚く間もなく引き込まれる。
よろけた拍子にドアに頭をぶつけ、イラっとしたヘンリーは腕をつかんだ相手を振り返った。
「ハリー=ポッター……君か。いきなり腕を掴んで引き込むなんていったい何を考えているんだい?」
扉に頭をぶつけるなんて思っていなかったのか、慌てて手を離したハリーをヘンリーはじろりと睨みつけた。
「ごっごめん。君なかなか捕まらないからとっさに。頭ぶつけたところ大丈夫だったかな」
いたたたと頭をさするヘンリーにハリーは大丈夫だった?と聞く。別に、と言うヘンリーだがなんか嫌な予感がして、じっとハリーを見つめる。
何か迷うようなハリーに何を言うでもなく待っていると、よし、と何か決心したらしいハリーが顔を上げた。
「ヘンリー。君、ハリエットなんだよね」
まっすぐな眼で見つめられ、ヘンリーは目をしばたたかせた。否定しなければ、と思うのにハリーの眼は確信を抱いていて……。はっとあれの存在を思い出した。
「え、な、なにを言っているんだ。いったい誰の……」
いやまさか、と動揺するヘンリーは思考が空転してうまく言えない。
「あぁもう!!アクシオ!忍びの地図!」
そんなまっすぐな眼で見ないで!と心の中で叫び、どうにもならないことから地図を呼び出す。案の定ハリーのポケットから飛び出したそれを掴むと、驚いて固まっているハリーをよそに羊皮紙に杖を当てた。
「われ、ここに誓う。われ、よからぬことを企む者なり」
あんぐりと口を開けたハリーを無視して地図を広げるヘンリーはハリーの名前を探して……ハリエットの名前が記されていることを見つけた。
「あぁ最悪……。そうだよ、ポリジュースもアニメ―ガスも効かないんだった。先生の薬だってそうに決まっているのに!あぁどうしよう。パッドフットかムーニーに改良してもらわないと、このままじゃまずい!」
動揺しているヘンリーはどうしようと繰り返し、製作者の名前を睨み付けた。そしてはたと顔を上げ、ホグズミード、と呟く。
クリスマス前のホグズミードにまたドラコと出かけた。ただ、あまりの混雑っぷりに辟易して早々に城に戻り……道中でちょっと悪戯を仕掛けたくなったヘンリーが雪玉をドラコにぶつけ、驚いたドラコが不敵な笑みを浮かべたと思ったらヘンリーに反撃し……。
人気のない場所でクラッブとゴイルがそれぞれについた2対2の構図で雪合戦を繰り広げたためにハリーのことをすっかり忘れていたのだ。全く持って子供じみていると終わったあと、今更のように怒るドラコだったが、その顔が笑っていた。同じように珍しく笑っているクラッブとゴイルにヘンリーも笑い、寮へと戻った。
すっかり冷えた体を温めるためにシャワーを浴び……ドラコに頭を洗う約束をしていたとヘンリーが洗い……談話室に戻ったところでどこか不機嫌なスネイプに捕獲されて地図どころではなかった。
「夜……どこにいるか見てた?」
ギクシャクと動くヘンリーがハリーを見つめる。夜、と聞かれてハリエットの名前がスネイプの名前とともにあり、それが寝る前も同じだったことを思い出すハリーはそれを思い出したように、驚きとスネイプへの嫌悪と衝撃のいろいろなものが入り乱れた顔でヘンリーを見返した。
「君……スネイプの所に泊ったの?」
もうヘンリーがハリエットだというのは肯定されたも同然で、ハリーが力なく問いかける。顔を真っ赤にするヘンリーがまだヘンリーの姿なのにハリエットに見えて、ハリーはうそだぁとつぶやいた。
当人は当人でほんと忘れていた、とそれどころではない。
「クリスマスの夜、どこにいたか……見てないよね」
前日の夜、魔法薬の材料をどうやって保存しているのか、とハロウィンで倒れた原因である不完全な魔法薬の原因を探りにスネイプが部屋に来た。
未来のことに関するものは全てカギがかけられているので問題はないのだが、自分の部屋にスネイプがいることが新鮮で……つい口づけに夢中になってしまった。
そしてそのまま戯れて……目を覚ましたら狭い寝台の上、スネイプに寄り添って寝ていたことにハリエットは顔を赤くした。
そしてそのまま……例によって例のごとくなプレゼントの山を無言で仕分けしてもらい、去年より早くに山が片付いた。
昼食時に久々にトレローニーと出会ったが、彼女はハリエットに気が付いた様子はなく、14人で昼食をとって……そしてクリスマスディナー後に母に呼ばれた。
その後……スネイプと朝約束していたこともあり、部屋を訪れて……様々あったあげく、またお菓子に入っていた媚薬のせいでぺろりと平らげられた。
恥ずかしくて思い出したくない、と耳まで真っ赤にしながらヘンリーは再び記憶に封をかけて心の奥底に押し込む。
ぶんぶんと首を振るハリーだが、ヘンリーの様子から勘づいてしまい、驚愕が怒りに変わる。
「君は女の子だっていう認識を強く持った方がいいよ!スネイプなんて何を考えているかわからないのに泊まるなんて。なんだよあの陰険教師!未成年の……僕の妹に手を出すなんて最低だ!」
「余計なお世話だよ!大体、妹って何さ、私の方が先に決まっているでしょ!ハリーのほうが弟よ。それに、先生のこと悪く言わないで!私が先に先生を好きになったんだから……先生はそれに答えてくれたの!」
最悪だ、と言うハリーにヘンリーは先生を悪く言わないでと反論する。
思えば最初のキス……いやあれはキスではなかったが、口元に口を寄せてきたのはスネイプだ。そのあとキスをしたのは自分だが、深い口づけは彼からで、疑似的なまぐわうのも彼からで。胸はハリエットから言い出したことで、一緒に寝るのもスネイプが離してくれなくて。
思い起こせば主にスネイプからされていることが多くて、どうしてなのだろうと疑問が湧き出る。やはり母リリーを愛しているから……でも最初はマクゴナガル先生の親戚と言うことだったうえに男子生徒だ。
2学年の時は推測していただけであった。スキンシップは深くなりはしたが、まだ……まだ男子生徒の部類だった。
あたらめて考えると11歳の少年に口づけて12歳を組み伏せて。客観的に見ると危ない人じゃないか、と内心焦る。中身としてはほぼ同い年になるため、うやむやにしているところもあるが、知らない人から見たら確かに危ない。シリウスが知ったらそれこそ大問題に発展しそうで、心配事が増えていく。
「大体、なんでスリザリンに入って……まさかシャワーも男子を利用しているんじゃ」
「男子生徒なんだから何を言っているのさ……。ドラコが手を怪我したときは頭洗ったことだってあるし。トイレだって、寮だって個室だけど男子寮をつかっているんだから当たり前でしょ」
スリザリンなんて、と言うハリーがはっとした顔でヘンリーを見れば、ヘンリーは呆れたような顔で何を言ってるんだよ、と言う。
スネイプも何か言いたげだったが、ヘンリーは男子生徒なのだし、かつて20年男として生活していたハリエットは何が悪いのかわからない。
「君、本当に女の子の意識ある!?いくらその……ヘンリーの姿が男の子だからって、女の子なんだよ?」
自分がもしも女の子になったとしても女子シャワー室になんて入れるはずがない、と顔を赤くするハリーにヘンリーは訳が分からず首をかしげる。
ヘンリーとしてはどちらかと言うと女子シャワーを利用する方が恥ずかしい。
「マルフォイとシャワー浴びるなんて……。スネイプと入ってないよね?」
「グリフィンドールと違って、スリザリンはみんな大人しくシャワー浴びているからいいんだよ!せ、先生とは……恥ずかしいこと言わないで!!」
衝撃と驚きとで混乱しているハリーに混乱するヘンリーが加わり、二人して思考がぐるぐるとする。スネイプと入るバスタブはいつでも恥ずかしい。
「私がスネイプ先生を好きだって別に関係ないと思うんだけど!」
「いーや!大切な家族が変な……20歳も離れた女の子に手を出すあの陰険教師っていう時点でダメだ!絶対だまされているんだ」
「女の子女の子って、模擬戦とはいえ、クィディッチで私に負けたくせに女の子扱いするのやめてくれないかな」
「女の子なんだから仕方がないじゃないか!君が自覚してなさすぎるんだ。それとクィディッチの模擬戦は正式なものじゃないんだ、それを出すなんて」
女の子と言われ続けて反論するヘンリーにハリーも怒ったように返す。ヘンリーであることを隠していたことと、スネイプと仲がいいことが信じられないハリーと、女の子扱いされてむっとするうえ、スネイプとのことに口出しされて我慢できないヘンリーはばちばちとにらみ合う。
不意に足音が聞こえると、二人とは揃って地図をのぞき込む。スネイプが近づいていることを確認し、慌てていたずら完了と唱える。
ガラッと開いたと同時に二人は透明マントをかぶり座り込んだ。現れたスネイプはぐるりと中を見渡し、当てが外れたように教室を出ていく。
そろりと顔を覗かせる二人は顔を見合わせて、とっさに互いの口を手でふさぎながら笑いあった。
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