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34:親友の秘密の友人

 クリスマスの興奮が朝上がって……夕方には地の底に落ちたハリーは失意の中ベッドの上でため息をついていた。誰かからのプレゼントのファイアボルト。
 最高の箒に興奮したというのにハーマイオニーのおかげで没収されてしまった。今頃どうなってしまったのか。そう思って地図を開くとマクゴナガル先生のいるところにハリエットの名前がある。
 彼女の能力で何か見えたのか。ヘンリーだとすればハリエットはマクゴナガル先生に育てられたのかもしれない。その証拠なのか、奥に進んだハリエットの名前が消える。どうやら探知できないところにいるらしく不意に現れてはすぐに消える。

 それにしても、とため息がまた出た。スキャバーズとクルックシャンクスのことで二人には大きな溝ができてしまっているし、自分もまたハーマイオニーのお節介な所に閉口している。
 ハリエットが何ともないと言えばすぐ箒は戻ってくるのか。それとも本当に呪いがかかっていて……。彼女に聞けばすぐに分かるかもしれない。

 ハリエットが廊下に出たことを確認し、ハリーは地図を閉じて廊下に出る。最悪、この地図を見せて問い詰めればハリエットも誤魔化せないはずだ、と彼女が向かった先を予測して歩く。
 ただ、万が一にも彼女の正体がばれては全てが台無しになるため、透明マントをかぶっての行動だ。


 変身術の教授室の近くまで来て地図を開けば彼女はまったく別方向に歩いていた。てっきりスリザリン寮に戻るものかと思ってわざわざ回って来たのに、と眼で追っていくとハリエットの名前は図書室に入る。
 地図を見れば隅の方にハーマイオニーの名前があるだけで誰もいない。
とにかく行こう、と足早に向かうとそっと戸を開き、わずかな隙間から滑りこむ。

「一人で調べるのは大変でしょ。私も手伝うよ。幸い、スリザリンは一人しか他にはいないから噂になることもないし」
 そんな声が聞こえ、ハリーは身をかがめる。透明マントを着ていても何度も彼女に見破られている分、警戒するに越したことはない。
「うぅん、これは私がしたいことだから……。気分転換にもなるし」
「そう‥…。ただでさえ、ハーマイオニーは人一倍頑張っているんだから無理しないでよ」
「ありがとうヘンリー。そういえば……今朝みかけなかったけど、具合でも悪かったのかしら?」
「いやぁ……その……」
 少し低いものの、会話だけを聞いていると普通に女の子同士の会話に聞こえて、ハリーは目をしばたたかせた。言い淀むヘンリーにハーマイオニーはくすくすと笑って、ヘンリーをからかう。

「そうだ。ハロウィンの後、寝込んでしまったと聞いてすっかり話題にし損ねたんだけど……。ヘンリーも箒乗るの上手いのね。ハリーと飛ぶなんて夢のようだったから私までワクワクしてみていたのよ」
「そりゃ、1歳の時にすでにおもちゃの箒に乗っていたらしいからね、ハリーは。それをお母さんから……リリー=ポッターから聞いた母さんが私にもおもちゃの箒……じゃなくて初心者用の箒に一緒に乗っていたって。その時からあなたには才能がありますもの、て言われて。私もクィディッチは好きだし。だけどまぁ……スリザリンはドラコがいるし、私の体力じゃ全然だめだってこともわかったから」

「マクゴナガル先生も昔クィディッチの選手だって噂で聞いたわ。いきなり本物の箒を使うとか……乗れるハリエ……ヘンリーもどちらもおかしいと思うんだけど」
「母さんは夢中になると段階すっ飛ばすからね。私が身を守るためにもって魔法を覚える時だって、変身術の一年生の課題をいきなり出されて、できるとなったらもう……ね!おかげで変身術は得意科目にはなったけど」

 ひっそりと、笑いあう二人にハリーは思わずハーマイオニーの名前を見つめる。彼女はもっと昔からヘンリーとハリエットのことを知っていて、それを黙っていた。そうとしか思えない。
 それと、会話からやはりハリエットはマクゴナガル先生に、この城の中で育てられたということが分かり、少しもやっとする。

「箒の事……言わないほうがよかったかしら」
「そんなことはないよ。ハーマイオニーが言っていなきゃ、私が母さんに言っていたから。クリスマスの朝、無署名のファイアボルトが届く。それは決まっていたことだから、いいんだよ。ハリーはどうせ取り上げられたーとか、僕のなのに!とか幼稚な癇癪しているだけなんだから。彼は少し考えるべきだからハーマイオニーが気に病むことはないよ」
 落ち込んだ様子のハーマイオニーの声にヘンリーはずばずばと聞いたい放題いう。

 心の靄がむかむかに変わり、ムッとするハリーはそっと本棚の影から二人を盗み見た。うつむいたハーマイオニーは酷く小さくて、心の靄が離散していく。肩が少し震えているのは泣いているのか。
「それにしても、男ども二人はほんとハーマイオニーが鋼鉄でできているとか勘違いしているのかな。優しくて傷を負っても隠そうとする……素敵な女の子を揃って意地悪するんだから」
「ありがとう」
 泣いていることには言及もせず、ハリーとロンについてまたもずばりというヘンリーはハーマイオニーの俯いた頭を抱き寄せ、やさしくなでる。その現場を見て罪悪感を覚えるハリーはまた本棚に隠れた。


「ヘンリーは優しいのね」
「そうでもないよ。ただ、いろいろ見方を変えただけ。今回のことだって……僕は……。私はただ狡いだけ。あの時、できなかったことを今さら……。本当は私がもっとしっかりしていれば……ハーマイオニーを傷つけずに済んだのに。ごめん。こうなることを知っていたのに、ハーマイオニーが相談する前に言えばよかったのに」
 あの時、ハーマイオニーが善意でやったことも理解していたのに、感情が追い付かなかった。そのせいで彼女を追い詰め、一人にさせてしまった。
 大切な、大切な友達を何度傷つけてきたことか。せめて3人には仲良くしてもらいたい、お互いを傷つけず、前以上にもっと……。
 当時のことがあの頃はそんなこともあったね、と言えたし、ハーマイオニーも一人で調べていたことが魔法生物に関する部署に着くきっかけの一つにもなったと言っていた。
 だけれども、せめて……こんな亀裂を作って欲しくなかった。

 今、思い出の中ではなくリアルに彼女を取り巻く空気を改めて感じて……ハリエットは罪悪感で押しつぶされそうだった。
「いいのよヘンリー!あなたがそう心を痛めなくていいの。たとえ、あなたに未来が見えているのだとしても、これは私たちが乗り越えなきゃいけない、そう思えるの。お願いだから誰かの代わりに傷ついてもいいなんて言わないで。親友が傷つくの、私見たくないもの」
 うつむくヘンリーの手を握り、ハーマイオニーは泣き顔のままお互い同じ気持ちよ、と笑いかける。
 
 ぽろぽろと静かに涙をこぼすヘンリーはこくりと頷き、飛んできた森フクロウを腕にとまらせた。

「母さんが呼んでいるみたい。あーなんか知られたらまずいことでもあったかな……。それとも、部屋に広げたままの課題見られたのかな。先生の部屋に泊ったことばれたかなぁ……」
 羊皮紙を広げたヘンリーは少し乱暴に目元を拭い、何かやったかなぁとぼやく。心当たりが多いのね、と笑うハーマイオニーはハンカチで目元を拭き、考えるように人差し指を伸ばし唇に当てた。

「ほんと不思議ね。スネイプ先生ってほら、ハリーにいつも嫌味を言ったり仲が悪そうなのに、ハリエットはスネイプ先生と付き合っているんでしょ?というかそんなに人を寄せ付ける風じゃないのに……」
「私はどちらかと言うとお母さんに似ているんだって。不思議だよね。目の形は父さん似なのに。いつか……先生のどこがいいか……それを知ったら私のこの気持ちもよくわかると思うんだ」
 ハリーのことはあんなに嫌っているのに、というハーマイオニーにヘンリーは苦笑して、かつての記憶に視線を向けるように思考を飛ばし、首を振ってじゃあねと歩き出す。

 隠れていたハリーは迷った挙句図書室をあとにして、あてもなく歩き出す。2学年の最後にマクゴナガル先生がハーマイオニーを呼んでいた。あの時、目を覚ましたヘンリーと会ったのだろう。
 そしてその時ハリエットと会ったのかもしれない。正体を知られるわけにはいかない。それが分かっているからこそ、ハーマイオニーは自分に何も言わなかったのだ。
 きっと、変えるには自分が動かないとだめかもしれない。そう思ってハリーは考えなきゃと談話室に戻っていった。







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